チートアイテム強奪! 残念美女が嗅ぎ付け、俺を守りにやってくる!

jam

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対決6

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「ようやくお呼びですか、ボス。俺はこのアレックスをぶちのめしたくてうずうずしてるんだ。もうやっちまっていいですよね」

「ああ、思う存分やりなさい」

 シーザーは怒りに燃えていた。雇い主であるオーフェンを助け起こしつつも、その視線はアレックスに突き刺さったまま離れない。シーザーにとってアレックスは愛車ベンツの仇であるから、許しておけぬ大悪だ。これまではボスの命令で堪えていたが、ついにそれを爆発させる時が来たのだ。

「手加減はしないぜ、アレックス。俺は持てるもの全てを使ってお前を叩き潰す」
 シーザーはアレックスの目の前まで歩み寄ると、ハンドサインを出す。すると部下たちはそれに従い整然とアレックスを取り囲み、アリの這い出る隙間もない男の壁ができた。

「おいおい、何だってこんな大勢が必要なんだよ。俺とお前と一対一でやろうぜ。警官に止められた決闘の続きだ。そこらにいるザコどもを引っ込めろ。それともまさか俺が怖いのか? 大勢でかからなきゃ勝てないとビビってるのか?」

 包囲されたアレックスはだめもとで言ってみた。シーザーが飛び切りのアホで、この挑発に乗って来る以外に勝つ望みはなかった。

「当り前だろ、ビビるに決まってる。お前は五分前までまるっきり超人だったんだ。今はヘラクレスのパワーを発揮してないが、いつまたそれが復活するか分かったもんじゃない。俺はベンツの仇さえ取れればそれでいい。やれるうちにやらせてもらうのがストリートスタイルだ」

 傭兵隊長は油断しなかった。シーザーは振り返り、包囲する男たちに呼び掛ける。

「いいかお前ら、合図をしたら一斉にかかるぞ。手負いとはいえ、化け物であることに変わりない。どんな底力を出すかわかったもんじゃない。絶対に油断はするな」

 おう、という返事とともに包囲網がじりじりと狭まり、手負いのレスラーに迫る。勝ち目がなくなったかと思うと、アレックスは悔しくて悔しくて、血が出るほどに歯噛みした。どうしたってこんな奴らに負けなくちゃいけないんだ。こいつらは鍛えた肉体でなく、金や頭数の多さを使ってプロレスやフィオナを馬鹿にしやがった。リングロープに細工してアンソニーにけがさせたり、フィオナのスマートフォンを踏み砕いたり、思い出すだけで脳が沸騰する。けど体は痛くて動かせないし、頼んでおいた警官ももう既に来たので、新しい助けも来ない。絶対に許せないが、底力もアイデアも出し尽くした。

 ……と思っていると、包囲網の縮小が止まっていることに気が付いた。しかも、奴らはざわざわと不穏になっており、俺じゃなく、何か他のものに注意を向けている。
 奴らが警戒しているのは、警官たちが張っている規制線の場所だ。アレックスも規制線の外に集中力を向けると、その様子がわかってくる。どうやら何者かが警官たちともめているらしい。言い争う声が聞こえてきて、アレックスの背筋が冷える。まさか、オーフェンが追加の刺客を送り込んできたのだろうか……。

「だからお巡りさんよ、俺たちはライオン男を助けるために来たんだってば。怪しい者じゃないって」

「武器も持たないお前らが爆撃機相手に何をできるってんだ。おおかたバカ騒ぎしたいだけだろうが、そんな奴でも市民なのだから危険にさらすわけにはいかん。今すぐそこから下がれ。下がらんというのなら逮捕するぞ」

「クッソ、警官ってのは全員頭が固いのか? けどまあいい、それならこっちにも考えがある。おいお前ら、押しとおるぞ」

 もめていたのは20人近い男の群れだった。彼らは言い分が通らないと悟るや、警官が張る規制線を押し破り、アレックスやシーザーのほうへ猛然と走り寄ってきた。

 アレックスは呆れた。なんてアホどもだ。本気でオーフェンの相手をしようと思ったら兵隊並みの装備がいるってのに、アイツらときたら、体格はいいけどTシャツ姿じゃないか。バカ騒ぎしたいだけだろうが、下手すりゃ殺されるってのをわかってないのか。

 全くどこのアホどもだ……、と走り寄ってくる男たちを見て、息をのんだ。彼らの着ているTシャツをよく知っていたからだ。胸にダンベルを持った自由の女神、つまりNWEのロゴがプリントされている。いったいなぜそんな奴らが20人もいるのだ……。

 と、その時、男の一人が警官から拡声器をもぎ取り、夜のセントラルパークに鋭いハウリングの音を放った。

「アレックス、ずいぶんやられちまってるじゃないか。けど心配ない。お前にも仲間がいる。全員突撃だ」

 拡声器での号令がかかると、一人のアホが、アレックスを包囲しているシーザーたちに殴りかかった。その他の男たちも遅れるなとばかりにつづくと、シーザーの部下達も応戦する。無数のライトで照らされたセントラルパークでデスマッチが始まった。

「許可も取らず助けに入ったが、別に構わねえよな?」

 拡声器を片手にした男がアレックスの元へ駆け寄ってきた。その男の顔に、アレックスは見覚えがある。彼や、彼の引き連れてきたアホの集まりはNWEのレスラーだ。屈強な男が20人も集まったのも納得だが、アレックスには他にも疑問がある。
「お前ら……、なんでこんなところに」

「お前にインタビューしてた記者がネットでライブ中継してたのを見つけてな。NWEのメンバーに連絡してやって来たってわけさ」

「そうか……、そうだったのか。やっぱりフィオナはすげえや。アイツは一流の記者だ。アイツが悪事を暴いて、悪党を追い詰めてる」

「ああそうだな。彼女のおかげでNWEも有名になったし」

「それじゃあこいつら全員ぶちのめしてくれ。わかってるとは思うけど、これはショーでやってるわけじゃない。アイツら、オーフェンとシーザーはとんでもない悪党なんだ。俺はケガでもうやれそうにない。だから頼む」

「頼む、だって? フアハハハハハ、バカ言っちゃあいけねえよ。ザコどもはともかくとして、メインはお前が相手をすべきさ。ほら、見てみろ」

 NWEのレスラーは高笑いすると、拡声器を持った手である方向を指示した。その先には神話の力を失ったオーフェンが憮然とした表情で大乱闘を見守り、その乱闘の指揮をシーザーがとっている。NWEのレスラーたちはこのリーダー格二人を避けて乱闘を繰り広げていた。

 なるほど、因縁の相手ってわけだな。いっちょぶちのめして盛り上げてやろ……、アレックスは納得しかけてしまったが、すぐに首を振った。盛り上がりなんて考えてる場合じゃねえ。今やってるのはプロレスの試合じゃない。危険な悪党をぶちのめしているんだ。早く確実に奴らをとっつ構えなくちゃならない。そのためにもリーダー格であるオーフェンとシーザーを討ち取らなくては。

「お前状況がわかってないのかよ。周りを見てみろ、警察があれだけ出張るくらいなんだぞ。アイツらはプロレスの対戦相手じゃなくて、本物のマフィア、いや、それ以上に危険な奴らだ。つぶせるうちにつぶさないと」

「そうは言ってもだな、俺たちは『それ』の、ライオンの機械の使い方がわからない。ザコどもはともかく、炎を飛ばしたり空を飛ぶ武器の相手をするのは無理だ」

 レスラーはアレックスの怪力やオーフェンの炎を、機械で行っていると思っているようだ。

「それは心配いらない。今は星の光が届いてないから、神話の力は発揮されない。だから今がチャンスなんだ」

「はあ? 星の光? 神話の力? 最近そういうシナリオのプロレスを始めたけど、何か関係があるのか?」

「今はプロレスの話をしてる場合じゃない。信じられないだろうけど、マジなんだって。俺の怪力も、アイツらが空を飛んで火を飛ばしたのも機械の力じゃない。全部神話の力のおかげなんだ」

「プッ、わはは」レスラーは一瞬目を見開いたが、次の瞬間噴き出して大笑いした。「アレックス、お前、殴られすぎて頭がどうかしちまったんじゃないのか」

「ちがう、本当なんだ。信じてくれ」

「まあ、つまらんジョークを言えるくらいなんだし、まだまだ余裕だろ。ほら、さっさとあいつらをぶちのめしてこいよ」

 ガッデム、なんでわからないんだ。アレックスは歯ぎしりした。この野郎、へらへらと笑うばっかりで、まるで緊張感がない。それどころか俺のことを半ばバカにしたように、しっしと手を振って追い立てる。いきなり神話の力なんて言われて信じられないのも無理ないが、自分の言うことがわかってもらえないというのは、すげーむず痒い、腹立たしい。

 ……あいつも、フィオナもこんな気持ちだったのだろうか。アレックスの脳裏に、フィオナと初めて会った時のことが思い出される。アイツは『陰謀よ』と言いながらロッカールームに乗り込んできた。それは自身のスクープのためだけでなく、俺の身の安全を憂いての行動でもあった。正しく尊い行いだった。俺はそれを、今やられているのと同じように、バカにしながら軽くあしらってしまった。俺ってやつはなんてバカなんだろうか……。

「アレックス! なに弱気になってるのよ。あのサイテーの悪党のシーザーとオーフェンは、あんたがやっつけなきゃだめよ。痛いだのかゆいだの言ってないで、さっさと行きなさいな」

 フィオナがやってきて、アレックスの背中をバチンと叩いた。普段のアレックスならしょせん女の細腕、と笑って済ませる叩き方だったが、全身がボロボロの今、そうはいかない。激しくむせてしまった。

「フィオナ。お前は俺がケガするのを見てただろうに。なんでそんな無理なこと言うんだ」

「そんなのわかってるわよ。けど、無理とか無理じゃないとかが問題じゃないの。私は、オーフェンとシーザーを、あんたにぶちのめしてほしいのよ。あんたは忘れたの? あたしのスマートフォンをだれが壊したのか、プロレスを馬鹿にした奴が誰なのか。そして、アイツはアンソニーに怪我させたのよ。忘れたの?」

「忘れるわけない。俺だってあいつらをこの手でどうにかしたい」

「じゃあさっさとやればいいじゃない。……っと、あんた、それ貸して」

 フィオナは拡声器をむしり取ると、スマートフォンを操作して拡声器へつけた。するとデュンデュン、とギターの爆音が鳴り響き、イケイケのロックミュージックが流れる。これはアレックスの入場曲だ。

 聞いたアレックスは、体の底から力が湧いてくるのを感じた。神話の力でない、プロレスラーとしての力だ。だから体は痛いままだし、超人的な力も身につかない。けど、勇気が湧いてくる。シーザーに勝たなければ。俺がやらなければ。どれだけ困難だろうがやらなければならない。プロレスラーとしてシーザーとオーフェンに勝つのだ。

「フィオナ」

 アレックスはフィオナの肩を抱き、キスした。

 強引なキスだった。しかしフィオナは嫌でなかった。

「ぶちのめしてくるから、そこで見てろよ。サイコーの記事にしろ」

 アレックスは走った。ライオン男、セントラルパーク・デスマッチにエントリーだ。
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