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第一章

第七話

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「な、何言ってるのよ。恥ずかしいじゃない。あんまり見ないでよ。」

 からだをよじっている。軟体動物か。

「それが正装じゃないのか。」

「そんなことないわ。これは戦闘用なのよ。」

 たしかに、昨日釣りあげた時は白いワンピースだった。それはそれで十分なる美少女だった。

「今の感想、口に出して言ってよ。」

「はあ?なんのことだ。白いワンピース?」

「その次よ。」

「だった?」

「あと少し。」

「それはそれで?」

「じ、じれったいわね。」

「てことは、十分なる?」

「そこよ。その次の言葉はっ!」

「・・・忘れた。ゴメン。」

「バカ~!!!」

 これで心の交流はできたかな。

「どうやって、学校に入るんだ。校門も、校舎入り口も頑強な鍵に閉ざされているぞ。小遣いをネダるオレに対する親の財布状態だぞ。」

「そんな財布はセレブからすると、空気中のチリだわ。」

 うん、正解。オレは貧乏であることを痛感させられた。

「こうすれば簡単よ。」

 由梨は水着の胸の部分を外した。

「ちょ、ちょっと、心の準備がぁ~!」

 いきなりの過激行動に大当惑のオレ。

「鍵よ。夕方にちょろまかしてきたのよ。」

 由梨は胸から鍵を取り出したのだ。

「なんだ。がっくり。」

「あら、どうしたのかしら。」

「ちょろまかしてきたって、セレブには似つかわしくない言葉だぞ。」

『がっくり』ということを追及されないように会話運用。

「時と場合によるのよ。『セレブは目的達成のためには治外法権』という慣用句があるわよね。」

 そんな慣用句聞いたことないけど。ていうか、『辞書に文字はない』とかいう表現が適切ではないのか。そんなことより、ひとつ由梨に尋ねておかねばならないことが。

「どうして学校に行かなきゃならないんだ、それもこんな時間に。」

「さあ、どうかしらね。アタシもあのババアに言われてきただけだから。」

 いきなり、ババアとは!とても清楚なセレブとは思えない。

 オレたちは夜の学校に侵入することになった。

 説明するまでもないが、どこの学校にも『夜の怪奇伝説』が存在する。この春学にもやはりあるらしい。

 オレはオカルト系には興味がないので、詳しいことは知らないが、『春学七不思議』とか『苦不思議』『十三不思議』とか諸説あって、中国の戦国時代みたく百家争鳴状態にあるらしい。どうでもいいが。
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