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第一章

第三十八話

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(由梨はんは添い寝だけでなく、旦はんの腕を取ってはる。これも作法どす?うちはまだ嫁とは言えないどす。ぐすん。)


 絵里華もオレの腕を自分のからだに引き寄せた。人形と本体の動きは一体化している。


 人形は本体の胸のあたりにいる。やはり喋っているのは人形であり、本体は傀儡政権であることに変わりはない。そして、左側にいる由梨からは得られない感触がこちらにはある。


『ぽにゅ、ぽにゅ』。ゴムまりをもっと柔らかくしたようなものである。これこそ、女の子らしい。昨日までの女王は相当な弾力であったが、それとは違い、若さが感じられた。


『失礼な!』
 どこからともなく閻魔女王の声が聞えたような?気のせいか。


「むにゅ。むにゅ。」


 今度は明確に音声認識された。発信源は左側。悲しいかな、音だけで、実体を伴っていない。


「う、うるさいわね。セレブは大器晩成なのよ。」


 意味不明な言葉が部屋中に響く。しかし、そんな感触はオレ自身が自分の胸でいくらでも確認できる悲しさ。本当に元に戻るのだろうか。女装と真に女の子になるのとは全く違うんだ。これだけははっきりしている。オレの内面は男だということ。


「「すーすーすー。」」


 ふたりとも寝入ってしまった。よほど疲れていたらしい。寝顔からすっかり安心しきった様子が窺える。じゃあ、オレも眠ろう。
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