上 下
46 / 140
第一章

第四十四話

しおりを挟む
 たこ焼きを焼き始めると、じっとそれを見ている絵里華。


「どうした。焼いてみるか?」


((やってもいいんどすか。))


「いいとも。」


 失敗だった。『あひゃー』『いほー』『うぎゅむ』『えばえばぼー』『おべばあ』など、京都のお嬢様?にはおおよそ似つかわしくない擬態語を発しまくって、オレの部屋は小麦粉だらけになってしまった。掃除は誰がするんだ!


「焼くのはオレの役割だ。このメイド服はそのためのものだ。」


 改めてそう宣言してから、たこ焼きを焼き始めた。これくらいはお手の物。次々と生産されていく。出来上がったものに青のり、ソース、マヨネーズなどをかけながら由梨は消費していく。そう思ったが問屋は卸さなかった。


「あ~ん。」


「何だ、それは。」


「決まってるでしょ。はい。あ~ん。」


 当然、たこ焼きはオレの口に運ばれるのではなく、オレが由梨の口に運搬する仕事を担当するという意味だ。やむなく、その職務遂行。こんなことで抵抗しても時間の無駄だということが脊髄反射的に判断された。一方もう一人は。


((おいしい。こんなもの、今まで食べたことがなかったどす。死んでてよかったどす。))
 絵里華人形は感涙。最後のフレーズは若干悲しい。なお、食べているのは本体。
しおりを挟む

処理中です...