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第二章

第二十一話

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「神を褒めるとは冒涜であろう。一応、闘いの最中。大目に見てやろう。神の慈悲だ。」


「相変わらず強気な輩だな。その気概は認めるが、そこまでだぜ。」


 二人は二度、三度と刀、薙刀の刃を合わせた。『ガキッ』という金属音が深夜の空に響き渡る。政宗と美緒は呼吸を整えるためか、一旦距離を取った。そして、睨み合い。


 政宗は、美緒との距離を置いたまま、太刀を鋭く振り降ろす。切先から、強烈な光が発せされた。レーザー光線のようなものだろうか。すると、美緒のうしろにあった大きな墓が斜めにスライドして、轟音とともに滑降した。採石場の石切りのようである。


「すごい切れ味だな。そんな飛び道具であったとは。この神も恐れいった。ではこちらも軽くいくかな。」


 美緒は薙刀をふりかざして、政宗がいるのとは違う方向に回転させた。


「どこを狙っている。俺はここにいるんだぞ。」


「いや初めからターゲットは向こうにある。」


『ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ』。墓場中に広がる落雷音と思いきや、雨雲があるわけではない。たくさんの墓が切り倒されているではないか。しかも切られた墓は地面に落ちず、宙に浮いている。それは無重力状態であるかのように、ゆらゆらと舞っている。よく見ると糸に操られている。


「墓石に糸電話を使ってるんだ!」


 思わず声を上げたのはオレ。確かに糸電話は手元から無くなっている。糸につながれた複数の墓石たちは政宗に近づいている。そしてストーンサークルのように政宗を取り囲んだ。そして金属加工のように一気にプレス。


「はあはあはあはあ。焦るぜ。なんて野郎だ。危険すぎる。」


 政宗は間一髪、石地獄から脱出できたようだ。


「運のいいヤツだ。都の声で命拾いしたようだな。もっとも、命はすでにないんだろうが。」


「うざい野郎だ。口だけじゃないところが悔しいぞ。」


 政宗は額から滝のように汗を流している。前髪が濡れて固まってしまい、隠れていた左目が少しだけ覗いている。焦りの表情が見て取れる。美緒はその目の緩みを見逃さなかった。


「まだ闘るつもりか。その目が『負けた』と言っているぞ。」


 視線を政宗からそらしながら、美緒が語りかけるように話している。


「なんだと。まだこの通り、どこにも怪我すらしていないぞ。」


 政宗はゴリラのように両手を広げて、胸をパンパンと叩いている。
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