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第二章

第三十一話

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まっほは他のアイドルの娘とは適当にしか話をしなかった。これはアイドル同士お互いライバルなんで、友達のようにはなれないので、仕方ないんだけど。世間話くらいはするわけ。その話題のひとつで、ギャラの話になったんだ。ギャラは自分の人気と同列になるアイドル共通の興味対象だよ。

そしたら、まっほのギャラの取り分が他のアイドルと比べて少ないのね。たしかにギャラは人それぞれ違うけど、それでも相場というものはある。そんな疑問を持っていたある日、マネージャーと事務所経理マンがこんな話をいるのを耳にしたんだよ。その内容とは『給料の半分を院長が取っている。万?はかわいそうだ』というもの。まっほにいつも優しい院長。まっほのお母さんでありかけがえのない友。

これにはホント驚いたし、信じられなかった。でも尊敬する院長にはそんなことは言えず、悶々としながらも忘れようとしていたんだ。そんなある日。院長と知らないスーッの男が高級レストランで会ってるのを見てしまった。丁度給料もらった時。その場で院長はお金をその男に渡していたんだよね。

お仕事で、そのあたりでの撮影があったので偶然見たくないものをみてしまった。あの優しくて信頼していた院長先生があんなことをするなんて。お金が必要ならまっほの生活費を切り詰めてでも渡すのに。無くなったお金のことより、院長先生への気持ちが失われたことがひどく悲しかった。

まっほはこうして人間不信に陥っていたと思う、いや世間というものが何かということをやっと理解したんだと思う。こんな形で大人への一歩を踏み出したんだね。
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