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第四章

第七話

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絵里華はアルテミスを胸に抱えた本体が倒れたのであるが、痛いというのは人形のみ。
「い、痛かったわ。」
「よかった。絵里華たんも、由梨たんも無事だね。」
 万步がふたりの腕を掴んで、ぶんぶん振って喜んでいる。
「ちょっと待て。絵里華、こっちへ来てくれ。」
((美緒はん、何どす?うちは大丈夫どす。))
 ゆっくりと立ち上がって、歩き出したのは由梨。

「あれ?由梨たん、どうしたの。」

「やはりな。やられてしまったな。」

「美緒たん、どういうこと?」
 万步の頭には?マークがえのき茸のように生えまくっている。

「入れ替わりの術を使われたんだな。これまでは男女だったが、女子同士でもできるらしいな。」

「ちょ、ちょっと、絵里華、あたしのナイスバディを返しなさいよ。」

「それはこっちのセリフどす。こんなロシア大平原のような胸は、うちにまったく似合いまへんどす。」

「い、言ったわね!あたしの方がはるかにアルプス山脈、いやエベレスト、チョモランマよ!」

「そう言わはるなら、そのバストを触ってみるどす。」
 由梨はセーラー服水着の胸元に手をやってみる。

「・・・す、スゴイわ。これがホンモノ?モミモミ。あは~ん。」

((こら、うちの大事なものに勝手に刺激を与えるんじゃないどす!))
 眉根を吊りあげて、猛抗議する由梨、ではなく、絵里華人形。つまり、『外見由梨』が絵里華人形を抱いて、喋りは人形が担当しているという構図。

「おいおいふたりともそんなことをしている場合じゃないぞ。お前たちをそんな風にした張本人はそこだぞ。」
 美緒は倉井を指差した。倉井は両手を腰に当てて、ニヤリとしている。

「俺にむやみに触れるとこうなるわけだ。自業自得ってやつだな。」

「そういうことか。これはやっかいな相手だな。ふたりを元通りにするにはどうしたらいんだ。」

「さあな。俺を倒せばわかるだろう。わははは。」

「ならば力づくでいくか。ならば武器を使うしかないな。」
 美緒はお面を外して、戦闘態勢に入った。薙刀が月光を浴びて、鋭さを増す。

「そう来ればこちらも闘るしかないな。まずはこいつらが相手をするぞ。」
 水の中から次々と男子ジバクが出てきた。全員海パン姿。それもブーメラン型。揃って、ボディビルダーのように、力こぶを形成している。筋肉には青筋が立っている。数十人で行うポージングは不気味としかいいようがない。

「こ、これは、せ、正視できない。」
 さすがの美緒も目のやり場に困ってしまった。

「うわあ。こういうの久しぶり。うきうき。」
 万步はアイドル水泳大会にも出ていたので、男性アイドルのこういう姿には免疫がある。但し、見ているのはいいが、戦闘意欲にはまったく欠けていた。

((恥ずかしいどす。))
 アルテミス、本体共々顔を覆い尽くす絵里華グループ。本体とは『外見由梨』なのでお間違えなく。

「こんなの見てられないわ。」
 『外見絵里華』の由梨も顔を押さえている。しかし、こっそりと指の間から瞳を輝かせているのはいかにも乙女チックである?魂は入れ替わったまま。

 海パンジバクたちは、少しずつ美緒との間合いを詰めてきた。美緒は俯いたままで、戦意を喪失したようである。薙刀はお面に戻っている。顔を隠すためだ。海パンジバク軍団はついに美緒のところにやってきた。
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