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第四章

第十一話

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「俺は自分が男だと思ってからは心のもやもやが晴れた。一応思春期だ。恋をした。」

((さっきの女子どすな。))

「その通り。その娘がくれた手紙には交際したいとかではなく、『友達』になりたいということが書かれてあった。俺はショックだった。だが、そんなことをその娘に言うことはなかった。とりあえず、普通の女の子同士で付きあって、何かチャンスがあれば自分の気持ちを伝えようと心に決めた。そしてしばらく『友達』としてつきあった。これはこれで楽しかった。それまで俺には友達らしい友達はいなかったからな。その娘のそれは同じだったようだ。そういうつきあいが深まれば深まるほど、俺は恋と友情のジレンマに悩ませられることになった。だんだんその娘のことが欲しいと思うようになってきた。いよいよ告白するしかないというところまで追い込まれてしまった。そして自分の腹を決めたその日に事件が起こった。橋の向こうで待ってもらうことになった。突然地震が発生し、橋が落ちた。待ち合わせの場所に俺が到着することはなかった。」

((その娘のことが気がかりでジバクになりはったということどすか。))

「そうだな。つまらない人生だったが、これからというところだったが。」

((つまらないという意味ではうちも同じどす。))

「どういうことだ?」

((うちの実家は紅葉院企業グループどす。))

「なんだと?あの有名な仏壇仏具メーカーの?」

((そうどす。))

「すげえ、お嬢様じゃないか。」

((そんなことないどす。実家には兄たちがいて、うちはおまけの娘でしたどす。欲しいものに不足はなかった。))

「それだけで十分だろう。」

((でもそんなことないどす。人としての満足はモノじゃないんどす。心どす。))

「そうではない。やはりからだも必要だ。からだと心は一体だ。だから俺は性転換手術を受けようと真剣に悩んでそうしようと思っていたところで死んでしまった。」

((そんな部分だけ変えても仕方ないどす。人間はすべてが揃って初めて人間となれるんどす。よくその胸に手を当てて考えてみるどす。その胸は男子にはありまへんえ。))

「そ、そんなことはわかってる。じゃ、じゃまなだけだ。」

((本当にそう思ってるんどすか。それがなくなれば女じゃなくなるんどす?人間ってそんな簡単なものどす?))
「そうだよ。胸がなくなればもはや男だ。」

((でも、男の子にはアレがあるどす。))

「な、なんだアレって?」

((それを言わせるんどす?))
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