上 下
3 / 85
第一章

第三部分

しおりを挟む
間一髪、刀をかわした吉宗は廊下に走り、無我夢中で、ふたつ隣の部屋に飛び込んだ。
「「「「「「「「「「「「待て~!」」」」」」」」」」
父親と家臣たちが、廊下の板を激しく鳴かせて吉宗を追いかけてきた。
「あわわ。やってくるわ。アタシの人生を倹約するにはまだ早いわよ!倹約してもいいのは、頭とカラダをつなぐクビぐらいよ!何かないかしら?あ、アレだわ!これでクビを隠すわ。」
吉宗はむしゃぶりつくように、床の間にあった兜をかぶって、床の間に隠れた吉宗。兜の側面には『家康』という銘があった。
「吉宗、どこだ~!?」
父親の声が廊下を通り過ぎていった。吉宗には、怒鳴り声も遠くになったのが明確に確認できた。
「よ、よかった。助かったわ。この兜のおかげだわ。」
床の間に隠れただけで、兜に隠蔽効果があったわけではない。
『ニャア、ニャア。』
「ど、どうしてこんな時に、しかもこんな場所に、ミケがいるのよ。ちょっと、あっちに行きなさいよ。しっ、しっ。」
ミケは床の間という狭いところが好きなのか、石地蔵のような表情で、一向に去ろうとしない。
「こら、あっちへ行ってよ。このままじゃ、クシュ!」
「その部屋か!」
父親たちが吉宗の小さなくしゃみの音を聞きつけて、畳を破れんばかりに踏みつけながら、部屋の中に入ってきた。
「そこの床の間の下に隠れておったか。往生際の悪い奴じゃ。すぐに出てきて、ここに直れ、すぐに首を刎ねてやるわ!」
「ミケのバカ!見つかっちゃったじゃない。このまま死んだら、あの世であんたの皮剥いで、襟巻きにするからね。あれ?あの世じゃ、そんなことできないかな?」
『ミャア、ミャア。』
「よし認めたわね。ハ、ハ、ハクション~!」
今度は大きなクシャミをした吉宗。その勢いで、畳に仰向けになり、成敗を心待ちにするポーズを取った。
「うわああ~~!」
その途端に、吉宗のカラダと人生諦め寸前の意識が底の見えない漆黒の穴に沈んでいった。
しおりを挟む

処理中です...