特売フイギュアワゴンの中に手を入れたら、人生変わるので注意してください。

木mori

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第一章

第四話

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楡浬が4階から出ようとすると、『ブー!』というけたたましい警戒音が出されて、帽子を被った男性店員が駆け寄ってきた。表情は帽子の鍔で見えないが、黒い影が差している。

「泥棒!!」

「ち、違うわよ。」

「でもあんた、肩にうちの商品乗せてるじゃないか?」

「ち、違うわよ。アタシは箸より重いものを持ったことがないから、ここに置いたのよ。ほら、お金払うわよ。」

「そ、そうですか。お客様でしたか。お客様は神様です、いや天使です。」
 春の優しい日向のように、パーっと明るくなった男性店員。

「どっちでもないわ。悪魔なんだけど。」
 小さな声で反撃した楡浬だが、店員には届かなかった。

「お客様。その商品ならば三千円頂きます。」

「こんなものが三千円もするの?」

「はあ。でも今ならワゴンサービスで、もう一体、付けさせて頂きます。お買い上げありがとうございます。」
こうして無事にフィギュアショップから脱出した悪魔楡浬。

「あんた、アタシの肩を安住の地にして生涯をしがなく終えるつもりなのね。寄生虫はゴキ●リのようにしぶとくなくて、すぐに駆除されるんだから覚悟しなさいよ。」

(そんなに邪険にするなよ。旅は道連れ、余は情けないんだからな。)

「誰が余よ!情けないという表現は至当だけど。あんたに道連れにされるなんて、御免被るわ。また死ぬなんていやだからね。」

(お前はその死をリベンジするんじゃないのか。)

「それはそうだけど。でも天使ラッサール高校ってどこにあるのかもわからないわ。」

(お前のその制服の徽章をよく見ろ。)

 真ん中に酢漿草(かたばみ)のある徽章の周りには、ラッサールと書かれてあった。

「そ、そうだった。アタシの学校って、アキバのふたつ隣の鶯谷駅にある高校だったわ。復讐するは母校にありだ わ。」
 慌てて電車に乗り込み、ふた駅で降り立った鶯谷駅。上野の隣とは思えないような寂れた場所。駅の周辺にはいかがわしげな古いビルやホテルが乱立している。駅から五分で学校に着いた楡浬。うす汚れた校門に、『使ラッサール高校』と書かれていた。天という文字は剥がれ落ちていた。

「ここだわね。・・・学校ってどこ?小さなボロボロの校舎がひとつ。それに生徒がいる気配が全くないわ。」

(そりゃそうさ。以前は毎年偏差値最高峰の天使帝都大学にたくさんの合格者を出していたけど、今は廃校になっているからな。)

「この学校の生徒にアタシは負けたの?この学校にリベンジしようと強い思いで復活してアタシはこの学校の生徒になったのに。アタシは廃校に入学して、無自覚に通学してたってこと?」

(恐らく復活した時は肉体の再構成を優先したため、意識はほとんど回復していなかったんだろう。ゾンビ状態で通学するとか、悪魔の風上にも置けないヤツだな。)

「じゃ、じゃあ、アタシがやられた恨みを晴らすために、超絶ビッグバン大破壊したい学校はすでに存在しないってこと?」

(学校を潰すレベルには手心を加えてほしいところだが、それは置いといて、ターゲットを喪失した状態であるという事実は否定しがたいな。)

「そ、そんなあ!うわ~ん。」
 人目、というより大悟目を憚らず、大粒の涙で白桃の頬を濡らす楡浬。薄暗くなった陽光でも輝く肌は悪魔的である。

(ちょっと待ってくれ。そんなに泣いても仕方ないだろう。悪魔は悪魔らしく笑っていればいいのに。)
 大悟は楡浬の右肩からシリアスな視線を向けている。
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