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第一章

第十八話

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結局ふたりとも何もしない日々が1週間続いた。
 今日も楡浬の右肩で大悟はぼやいている。

(これが支配人の言う、何もしないということか。これでも死んでいるわけではないから、いいのかな。でもオレをこんな形にしたヤツを見つけることができず、楡浬もできないんだけど、リベンジが。)
『ピクッ。』
 一瞬楡浬の体が動いたようにも見えたが、特に変わりはなかった。

『グラグラグラ!』
 盤石なホテルなので、地震で倒壊することはあり得ないが、高層階では揺れが大きい。同じフロアにいた支配人が、楡浬の部屋に怯えるリスのように、飛び込んできた。むろん三輪車乗車中のため、その勢いは半端なかった。

「地震じゃ。怖いよ~!楡浬、助けて~!」
 三輪車のままで、椅子で無動の楡浬に超激突した。

『グワグワグワグワッシャー!!!』
「支配人付属三輪車と楡浬が完全破壊されたぞ~!」
「おい。ヘンタイ人形。ぶつかりはしたが、そこまでクラッシュはしてないはずじゃが。それにあたちではなく、三輪車を呼称メインにするとはいささか度胸満点なのじゃな?」
 三輪車は三輪車支配人を乗せたまま、ゆっくりと立ち上がり、床に倒れていた楡浬も起き上がって椅子に戻った。

「てへッ。ちょっと痛かったから、細胞全滅壊死したかと思ったぞ。」

「ちょっと、お前。その喋ってる口。悪魔本体からヘンタイ人形の声が聞こえるぞ。いやそうではない。声は女悪魔のままじゃ。喋る中身がヘンタイ人形になっとるぞ。」
「むッ。たしかに体が動くぞ。むにゅ、むにゅ。このしょぼい感触は?・・・胸?オレは男子天使だったはずだけど。女性天使に生まれ変わったのか?」

「そんなことあるか!背中の黒い羽根。どこから見ても悪魔そのものじゃろうが。」

「つまり、オレは楡浬の体の乗っ取りに成功したということか。やった!オレのフィギュア呪いが解けたんだ。誰がかけたのかはわからないままだけど。結果オーライだ。これで自由だ!」

(きゃあああ!)
 今度は大悟の右肩から悲鳴が聞こえた。

「その声はヘンタイ人形のものじゃな。ということは・・・。」

(このキモイ、超絶キモイブリーフは何?これがアタシなの?・・・バタン。)
 右肩のフィギュアは直立不動のまま。それ自体は従前と変わらない。しかし、目の色は真っ白になっていた。

「どうやら、さっきの地震で、悪魔とヘンタイ人形の精神が入れ替わったようじゃな。まあ、あたちには何の影響もないわ。わははは。」

「誰のせいだ!三輪車での激突が原因だろうが。この野郎。こうしてくれる。こちょこちょ。」

「ゴロゴロ、ゴロゴロ~。」
 実に気持ちよさそうな三輪車支配人。
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