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第一章

第二十五部分

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「お金がないなら、どっちにしろ、大型免許は取れなかったな。残る選択肢はさっき示しておいたけどな。三食夜寝付で給料も出るという破格の箱庭がなあ。」
ヴァーティ唇を噛み締めながら、肺からほんのわずかにCO2を排出して、新たな車道に踏み出したが、それはあまり舗装されていない道だった。

翌日の朝。ヴァーティは高原たちと同じメイド服だった。
「なによこれ。」
「今日からオブシディアンさんは、メイド2319号と呼ぶことにします。何よ、その番号は。ここの女子寮に、そんなにたくさんのメイドはいなかったわよ。」
「その通りです。番号順にメイドがいるわけではありませんデス。メイドの気持ちで名付けましたデス。2319には意味があるのデス。2319、つまりブサイクデス。」
「あんた、ケンカ売ってるの?」
「買ってくだされば幸いデス。」
「買ってもいいけど、残念ながら持ち合わせがないわ。」
「それはオレが用意してやろう。」
白い制服姿の五竜が現れた。
『お、王子様?夢魔法で見ていた人に似てるわ。』という感想を飲み込んだヴァーティ。
「さあ、学校に行くんだから、車に乗れ。」
「この車なの?これって普通の車と違うじゃない。」
ヴァーティの目の前に聳え立ったのは荷台付きの黒いトラックだった。
「さあ早く乗ってくれ。始業チャイムに間に合わなくなるぞ。」
「あたし、普通免許しかないのよ。」
「2トン以下なら運転可能だ。」
ヴァーティの前にあるのは青色の軽トラだった。ドア横に、黒馬総合物流(株)と書いてある。
「運転手って言ったら、黒いベンツじゃないの?」
「ウチの会社は運送業兼自動教習所だからな。ベンツなんて必要ない。運送業者としては、会社の車を少しでも動かして、社名を売る必要があるからな。
さあ、運転してくれ。
五竜は助手席に乗り込んだ。
「でもあたしに運転できるかなあ。教習車より大きいわよ。」
「貨物自動車はちょっと車高が高いだけだ。すぐに慣れるはずだ。」
五竜は嫌がるヴァーティを引っ張りあげた。
無理矢理にイグニッションを力いっぱい入れた。
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