進芸の巨人は逆境に勝ちます!

木mori

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第二章

第二十二部分

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寮に帰ってきた美散は、現場を玲駆に見られたショックで完全にふさぎ込み、ベッドで伏してしまった。そんな美散を見て、智流美は頭でお湯を沸かしていた。
「アタシは怒っているのよ。この怒りを収めないなら、魔法契約を解除するわ。」
「解除されてもいい。あたしはこのまま巨人軍選手としてシゴかれて生きていくよ。初めから負け犬人生だったよ。オズオズの魔法使いだったんだよ。さらに魔法なんかなかったし。『オズオズの魔法使えない』だよ!」
「もういいわ。こうなったら、イチかバチかね。肉体操作魔法発動!」
智流美は、ベッドに潜り込んで、美散の耳元で囁いた。
「外出したくなる、外出したくなる、外出したくなる~。」
落ち込んで、美散の脳内は雑念のない空っぽになっていて、暗示をかけるには最高の状態であった。

こうしてパーティー会場に着いた智流美。パーティーに着ていく服などはなく、やむなく制服姿であった。パーティーには人間が多数参加していたが、いずれも正装しており、智流美はかなり目立って見劣りする貧相さであった。
「場違いだわ。」
金屏風を背にして、雛壇にエロザと玲駆が座っている。エロザは刺繍を散りばめた純白のドレス、玲駆も白いタキシードを着ている。
「あの衣装、まるで結婚式じゃない。アタシもいつか着たいわ。って、そういう感想を持つ場合じゃないわ。モグモグ。」
パーティー会場の隅で、ビュッフェ料理をパクついている智流美であった。緊張感を大いに欠如させてはいるが、夕食を兼ねているので、仕方ない行動である。
パーティー会場の両開きのドアが開き、ホテルマンがウェディングケーキのようなものを搬入してきて、雛壇の手前に置いた。
「それでは、交際記念ケーキへの入刀ですゥ。ふたりでの初めての明るい時間の共同作業ですゥ。夜の共同作業はこれから、ムヒヒですゥ。さあ、会場のレディースアンドジェントルマン。パパラッチ、大いにけっこうですから、盗撮しまくりしてくださいィ。」
ツヤツヤにテカる髪を七三に分けた司会者が、プロレスの場内アナウンサーのように、意図的に空気を煽っている。その期待に応えた野次馬が、火事場以上の勢いで雛壇テーブル前に押し寄せている。
エロザの胸元をガン狙いする不逞の輩も現れたが、エロザは不敵な笑みを浮かべるだけであった。玲駆は終始、ロボットのように表情が作れないままである。このまま、能面デスマスクが大量生産できそうである。
「共同作業って何よ。って、ナニよね?超ムカつくわ。」
入刀でいらつく智流美。しかし、智流美の体内で、美散は黙っている。
「美散は何も言わないわね。どうせ体内の声はアタシには聞こえないけど。今まで部屋以外で美散と会話したことないし、できないのは不便だけど、これでいいのよね。」
エロザはやる気ない玲駆の腕を無理やり取って、ケーキに持って行った。
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