パイオニアオブエイジ~NWSかく語りき〜

どん

文字の大きさ
3 / 276

第1話『ポール・アスペクター』

しおりを挟む
「へ――っくしょい!!」
 パラティヌス南端国メーテスの主街道。
 造り酒屋の行列は、よそよそしく男のくしゃみを黙殺した。
 男は素知らぬ顔で斜め上に視線を向けたが、その実、目は全く違う場所を透視していた。
 そこではNWSのリーダーたちが盛り下がっているのが見えた。
(ったく、しょうがねぇなぁ……)
 俺がいないと、盛り上がるきっかけも作れねぇんだからなぁ。
 5班リーダー、ポール・アスペクター。
 自他ともに認めるお祭り男である。
 ゆるいくせっ毛に顔のパーツが特徴的なポールは、謎のスタッフジャンパーを掻き合わせてほくそ笑んだ。
(ま、いいことは黙ってないとな!)
 やがて行列はポールを前に押し出した。
「おばちゃん、ノンアルコール甘酒二つね!」
 不愛想なおばさんは、テイクアウト用の丈夫なガラスのコップに、おたまで気持ち多めに甘酒を注いだ。二つ分400Eエレメンが桝に入ったのを確認して甘酒を渡す。
「あんがとさん」
 ポールは列を離れると、人々の死角になる路地へ急いだ。
 そして、そこから童話の里へテレポートしたのだった。

 童話の里の喧騒をよそに、東端にある正門では、番兵二人が気の毒なくらい真剣な面持ちですっくと立っていた。
 その数メートル手前でテレポートしてきたポールは、彼らに甘酒のコップを差し出しながら近づいた。
「やぁ、お疲れさんっす」
 番兵が黙礼する。
「これ、差し入れ。ノンアルコールの甘酒。あったまるよぉ」
「いえ、警備中ですので」
 固辞する二人に、ポールがせっせと懐柔にかかる。
「まぁまぁ、まぁまぁまぁまぁ、ご両人。ここは一つ、宴会主催の万世の秘法を立てて、ほっこりしてくださいよ」
「……では遠慮なく」
 番兵たちが飲むのを満足して見届けたポールは 、コップを受け取って、造り酒屋の棚にテレキネシスで返却しておいた。
 心置きなくサプライズで気持ちよくなったポールを待っているのは、仲間の非難のはずである。
(非難、悪口、オールオーケーっしょ!)
 
 篝火が焚かれた広場では、陽気な楽隊の音楽でダンスが始まったところだった。
 ぐるりと見渡すと、噴水の向こうに招き寄せる手があった。
 ちゃかちゃか走って行って、仲間たちと合流するポール。
「はぁ~、とうちゃこぉ」
「おっせえぞ、ポール」
 一言釘を打つタイラー。
「ホントよ、何やってたの?」
 オリーブも遠慮なく尋ねた。
「悪い悪い。本屋で時間潰すつもりが、うっかり長居しちまってさぁ」
 しらばっくれるポールを疑う者はいない。
「何飲む?」
 トゥーラが注文を聞いてくれる。
「やっぱビールでしょ。黒ビールね」
「了解」
「いつものサプライズじゃないかって、みんなで噂してたんだ」
 ナタルが時間潰しの話題をポールに振った。
「あたた、期待させて悪かったね」
「本屋で絶好のネタでも見つけたか?」
 アロンが笑いながら聞くと、ポールは勢い込んだ。
「それがさ、聞いてよ。本の情報誌のネタなんだけど、『万世紀文庫』ってのが出るらしいよ。百年単位で国内外のノージャンルの代表作家の短編を文庫化するんだってさ。もう、これもんよ」
 ポールが口の端から人差し指を下になぞった。垂涎もの、と言いたいらしい。
「その情報で喜ぶのはポールだけじゃん!」
 キーツが指摘すると、ポールは人差し指を横に振った。
「チッチッ、お楽しみはここからここから! いいかい、この文庫は投票、つまり他薦で編集するって話なんだな。これぞカオスでしょ」
「票は何票まで認められるの?」
 トゥーラが興味を惹かれて問う。ポールが何度も頷く。
「3票までだって。でもってノージャンルだから、口語体では詩とか俳句とか、あるいはポップスの楽曲とか、抒情歌の詩も含まれるって言うんだな」
「そりゃあカオスだな。収拾つかないんじゃないか?」
 マルクが疑問を口にする。ポールは腕組みして述べた。
「まぁねぇ、ちょっとした意識調査みたいなもんだね。じゃないと専門家の選から漏れたり、ラインナップでも代り映えしなくなるし、どこかで梃入れも必要だよね」













 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦う聖女さま

有栖多于佳
恋愛
エニウェア大陸にある聖教国で、千年ぶりに行われた聖女召喚。 聖女として呼ばれた魂の佐藤愛(さとうめぐみ)は、魂の器として選ばれた孤児の少女タビタと混じり、聖教国を聖教皇から乗っ取り理想の国作りをしながら、周辺国も巻き込んだ改革を行っていく。 佐藤愛は、生前ある地方都市の最年少市長として改革を進めていたが、志半ばで病に倒れて死んでしまった。 やり残した後悔を、今度は異世界でタビタと一緒に解決していこうと張り切っている。悩んだら走る、困ったらスクワットという筋肉は裏切らない主義だが、そこそこインテリでもある。 タビタは、修道院の門前に捨てられていた孤児で、微力ながら光の属性があったため、聖女の器として育てられてきた。自己犠牲を生まれた時から叩き込まれてきたので、自己肯定感低めで、現実的でシニカルな物の見方もする。 東西南北の神官服の女たち、それぞれ聖教国の周辺国から選ばれて送り込まれた光の属性の巫女で、それぞれ国と個人が問題を抱えている。 小説家になろうにも掲載してます。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

完 独身貴族を謳歌したい男爵令嬢は、女嫌い公爵さまと結婚する。

水鳥楓椛
恋愛
 男爵令嬢オードリー・アイリーンはある日父が負った借金により、大好きな宝石だけでは食べていけなくなってしまった。そんな時、オードリーの前に現れたのは女嫌いと有名な公爵エドワード・アーデルハイトだった。愛する家族を借金苦から逃すため、オードリーは悪魔に嫁ぐ。結婚の先に待ち受けるのは不幸か幸せか。少なくとも、オードリーは自己中心的なエドワードが大嫌いだった………。  イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!

母を亡くし、父もいない愛蘭は、伯爵家を追放され、路頭で死そうになるが、皇都で後宮画家になり、イケメン上司原水と出会い、溺愛される!

山田 バルス
キャラ文芸
愛蘭が二十歳の誕生日を迎えた初春の日、港湾都市・緑港には重たい雲が垂れこめていた。  本来なら祝われるはずのその日、彼女は緑港伯爵家の大広間にひとり立たされていた。  正面には叔父、その隣には従姉の麗香、そして――昨日まで婚約者だった沈琳道。 「どうして……わたしが家をでないといけないの?」  問いかけても、答えは返らない。  沈琳道は視線を逸らし、「麗香を選んだ」とだけ告げた。  麗香は勝者のように微笑み、愛蘭が五年間フラン王国に渡っていたことを責め立てる。 「あなたの後ろ盾だったおじい様も亡くなった。  フラン人とのハーフであるあなたが、この家にいる理由はもうないわ」  叔父は淡々と命じた。 「今日限りで屋敷を出て、街からも去りなさい」  愛蘭に許されたのは、小さな荷物袋ひとつだけ。  怒鳴ることも泣くこともなく、彼女は静かに頭を下げた。  屋敷の門を出た瞬間、冷たい雨が降り始めた。  それはまるで、彼女の代わりに空が泣いているようだった。  ――これで、この街での暮らしは終わり。  市場の喧騒も、港の鐘の音も、すべてが遠ざかる。  愛蘭が向かう先は帝都だった。  祖父が遺した言葉だけを胸に刻む。 『何かあったら、顔中蓮を頼りなさい』  後ろは振り返らなかった。  戻れる場所は、もうないと知っていたから。  誕生日に家を追われるという皮肉な運命の中で、  愛蘭はまだ知らない。  この日が――  一人の女性が「家族」を失い、  一人の女性絵師が生まれる、始まりになることを。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

処理中です...