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第1話『レベルアップ』
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「俺は後退する理由もないが、前に出る理由もないな」
マルクが珍しく意味不明なことを言った。
「何それ?」
ポールが眉をくねらせると、マルクが短く答えた。
「この無個性が後に響くんじゃないかってこと」
「ふーむ。アロンは?」
「俺は万世の秘法の勉強が好きなだけで、修法者になって独立したいと考えたことはなかったな」
「ランスさんは?」
「私は今のままで十分だと思っています。地位を得るよりも大地と戯れていたいんです」
「——誰もいないじゃん!」
ポールがあっけらかんと叫んだ。
「言い出しっぺのタイラーはどうなんだ?」
マルクが聞くと、タイラーは手酌でウイスキーのロックを作りながら言った。
「俺はここにいる全員に言ったつもりだぜ。さっきも話していたが、経済的に困ってるわけじゃないんだ。NWSを休職してでも数年時間を作って、せめて表の修法者になる覚悟はないのか?」
黙り込む面々。
「キーツは代表のことをなぁなぁの状態と言ったが、ぬるま湯なのは俺たちも同じだ。変化の波はもうそこまで来てるんだぜ。居心地がいいのは、俺たちがどこかでこのままでいいと思ってるからだ。俺にとっては停滞以外の何物でもない」
タイラーは息苦しそうにTシャツの襟首に指を入れて広げた。
ポツリとナタルが言った。
「変わらないものを守るのも、俺たちの務めだと思うよ」
「……ナタルはこのままでいいと思ってるのか?」
「現状は理解してるつもりだよ。でも、いっぺんに10人が休職するという選択はできないと思うんだ……メンバーが路頭に迷うからね」
マルクが続いた。
「うん、なんのためにリーダーが10人もいるのか、ってことだな。全員でレベルアップを目指すというのは俺も賛成だ。ただ、NWSはきちんと活動を維持していかないと、クライアントに迷惑がかかる。だから、3・3・2・2ぐらいの割合で修法行に入ったらどうだろう」
「そうだな、それなら残ったリーダーも、ちょっとしんどいぐらいで済むかな」
アロンが今後の活動を推し量って言った。
「それで二人がやる気だしてくれるんなら、及ばずながら準備するけどさ。ランスさん、どうします?」
ポールに聞かれて、ランスは逡巡した後、言った。
「はい……皆さんが表の修法者になるために努力なさるんだったら、私だけ自分にこだわってはいられません。それがNWSの総意なら、私も私にできることをします」
「決まりだな。俺とアロン、ランスさんは各組合せに一人ずつにしよう。その方がいいんだろ? ポール」
マルクがポールに振ると、彼はしたり顔で言った。
「そうそう、君らに抜けられると、物事締める人間がいなくなるのよ。俺はただの賑やかしだし」
「僕はおもちゃだし」
「俺はボケキャラだし」
キーツとナタルが自虐的に言った。
「私はおおざっぱかな……」
「私は……何かしら? 澄ましや?」
オリーブとトゥーラも参加する。
「俺は万年下っ端ですけど、タイラーさんは裏ボスですよね」
ルイスが胸を借りて言うと、キーツが無邪気に問う。
「そのココロは?」
「誰も逆らえない」
どっと笑いが起こった。
「ルイスに落とされるとは思ってなかったよ」
「はい、おあとがよろしいようで! 抱負あり、下剋上ありで結構なお点前ですなぁ」
ポールが調子に乗ると、タイラーが一言。
「新年早々、担がれたやつもいたよな」
「ぐはっ、流血!」
派手に左胸を押さえるポール。
「今年も自由が一番よね!」
オリーブがタイラーからロックグラスを奪い取り、華麗に一気飲みした。
「おーっ、やるじゃんか!」
ポールの煽りに、オリーブはカラカラ笑って「まぁね」と言った。
やがて夜は更けて、午前12時になった。
広場のあちこちに焚かれていた篝火が消え、人々も散り散りに去っていく。
後に残ったのは、大量の後片付け。
団体ごとに引いたあみだくじは、見事にNWSが引き当て、面々はほとんど素面で朝に広場を片付けるのだった。
「誰だ、ナタルにくじなんか引かせたの」
ポールらの愚痴は止まらなかった。
マルクが珍しく意味不明なことを言った。
「何それ?」
ポールが眉をくねらせると、マルクが短く答えた。
「この無個性が後に響くんじゃないかってこと」
「ふーむ。アロンは?」
「俺は万世の秘法の勉強が好きなだけで、修法者になって独立したいと考えたことはなかったな」
「ランスさんは?」
「私は今のままで十分だと思っています。地位を得るよりも大地と戯れていたいんです」
「——誰もいないじゃん!」
ポールがあっけらかんと叫んだ。
「言い出しっぺのタイラーはどうなんだ?」
マルクが聞くと、タイラーは手酌でウイスキーのロックを作りながら言った。
「俺はここにいる全員に言ったつもりだぜ。さっきも話していたが、経済的に困ってるわけじゃないんだ。NWSを休職してでも数年時間を作って、せめて表の修法者になる覚悟はないのか?」
黙り込む面々。
「キーツは代表のことをなぁなぁの状態と言ったが、ぬるま湯なのは俺たちも同じだ。変化の波はもうそこまで来てるんだぜ。居心地がいいのは、俺たちがどこかでこのままでいいと思ってるからだ。俺にとっては停滞以外の何物でもない」
タイラーは息苦しそうにTシャツの襟首に指を入れて広げた。
ポツリとナタルが言った。
「変わらないものを守るのも、俺たちの務めだと思うよ」
「……ナタルはこのままでいいと思ってるのか?」
「現状は理解してるつもりだよ。でも、いっぺんに10人が休職するという選択はできないと思うんだ……メンバーが路頭に迷うからね」
マルクが続いた。
「うん、なんのためにリーダーが10人もいるのか、ってことだな。全員でレベルアップを目指すというのは俺も賛成だ。ただ、NWSはきちんと活動を維持していかないと、クライアントに迷惑がかかる。だから、3・3・2・2ぐらいの割合で修法行に入ったらどうだろう」
「そうだな、それなら残ったリーダーも、ちょっとしんどいぐらいで済むかな」
アロンが今後の活動を推し量って言った。
「それで二人がやる気だしてくれるんなら、及ばずながら準備するけどさ。ランスさん、どうします?」
ポールに聞かれて、ランスは逡巡した後、言った。
「はい……皆さんが表の修法者になるために努力なさるんだったら、私だけ自分にこだわってはいられません。それがNWSの総意なら、私も私にできることをします」
「決まりだな。俺とアロン、ランスさんは各組合せに一人ずつにしよう。その方がいいんだろ? ポール」
マルクがポールに振ると、彼はしたり顔で言った。
「そうそう、君らに抜けられると、物事締める人間がいなくなるのよ。俺はただの賑やかしだし」
「僕はおもちゃだし」
「俺はボケキャラだし」
キーツとナタルが自虐的に言った。
「私はおおざっぱかな……」
「私は……何かしら? 澄ましや?」
オリーブとトゥーラも参加する。
「俺は万年下っ端ですけど、タイラーさんは裏ボスですよね」
ルイスが胸を借りて言うと、キーツが無邪気に問う。
「そのココロは?」
「誰も逆らえない」
どっと笑いが起こった。
「ルイスに落とされるとは思ってなかったよ」
「はい、おあとがよろしいようで! 抱負あり、下剋上ありで結構なお点前ですなぁ」
ポールが調子に乗ると、タイラーが一言。
「新年早々、担がれたやつもいたよな」
「ぐはっ、流血!」
派手に左胸を押さえるポール。
「今年も自由が一番よね!」
オリーブがタイラーからロックグラスを奪い取り、華麗に一気飲みした。
「おーっ、やるじゃんか!」
ポールの煽りに、オリーブはカラカラ笑って「まぁね」と言った。
やがて夜は更けて、午前12時になった。
広場のあちこちに焚かれていた篝火が消え、人々も散り散りに去っていく。
後に残ったのは、大量の後片付け。
団体ごとに引いたあみだくじは、見事にNWSが引き当て、面々はほとんど素面で朝に広場を片付けるのだった。
「誰だ、ナタルにくじなんか引かせたの」
ポールらの愚痴は止まらなかった。
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