パイオニアオブエイジ~NWSかく語りき〜

どん

文字の大きさ
32 / 276

第4話『炎樹の森に立つ』

しおりを挟む
 昇陽の一月和歩の十六日、月曜日、晴れ。
 朝8時に童話の里集会所前で整列したNWSメンバー。
 挨拶は例によってマルクから。
「おはようございます!」
「おはようございまーす!」
「いよいよ『炎樹の森の害虫防除対策』の仕事開始日を迎えることができた。遅刻者なし、欠席者なし、トラブルなし。まずまず優秀だ、ご協力感謝する。これから、現場責任者サバラス・エターナリストさん宅前の広場を透視圏内に入れる。全員、パノラマップ全景地図を心象図示、誘導に従え」
 マルクの出した指示は、言ってみればスマートフォンで地図アプリを起動して、現在位置から目的地まで誘導されたようなものだ。
 彼ら位階者は、心象=イメージを共有することで、目的地を透視した全員が一度にテレポートできる。だが、主に緊急時で用いられる技術のため、保安の点からも移動先の許可が必要になる。
 というわけで、若い彼らのテンションを高める瞬間なのだった。
「オービット・アクシス同期完了。サイコウェーブ同調、10秒後にテレポート開始。5・4・3・2・1、テレポート!」
 
 次の瞬間、94名からなるNWSメンバーは、全員、因果界炎樹の森に降り立った(人数はリーダーたちの読み通り、8人ほど増えていた)。
 そこは炎樹の森の西側、ガーネットラヴィーンの東端で、なだらかな丘陵地になっていた。
 中腹の林の中に木造の小屋があって、これがサバラス・エターナリストの住居だった。
 雪が30センチほど積もっていて、雪かきどころか足跡すらなく、歓迎されている雰囲気はない。
 そのうすら寒さが仕事の困難さを物語っているようだった。
「わぁっ、雪よ!」
「森の中の一軒家! なんてメルヘン」
「きっと暖炉の前で揺り椅子に座ったおじいさんが、パイプをくゆらしているのよ」
「憧れなのよねぇ、まさに童話の世界」
「子どもたちに囲まれて、火に当たりながら絵本を読んであげたいわぁ」
 ——こんな状況でも変わらないのは、想像力豊かな夢多き女性メンバーの空想だった。
 カラフルな防寒着に身を包み、雪をこれから始まるドラマの素材にし、しかも心は羽よりも軽く……したたかなことこの上ない。
 今回の仕事の成功のカギは、彼女たちが握っている。
 リーダーたちは、目前に壁が迫っているのを知らない彼女たちの動向に気を使わなくてはならなかった。
「はいはい、盛り上がるのはそのくらいにして、位階者らしく森を騒がせないようにしましょう」
「はーい」
 オリーブの配慮で、体裁は整えられた。
 サバラスの住居前にやってきたが、当人が出てくる様子はなかった。
 目配せしたリーダーたちは、挨拶をマルクに託した。
 厚い木のドアをノックして、声をかける。
「ごめんください」
 しん。
 応答がない。マルクがもう一度ノックしようとすると、反応があった。
「ドアなら開いとる。さっさと要件を言え」
 くぐもった老人の声。怯まずマルクは言った。
「失礼しました。今日から炎樹の森で仕事を請け負うことになりました、NWSです。私はリーダーのマルク・アスペクターと申します。到着のご挨拶に伺いました」
 少し間があって、ドアが開いてうらぶれた無精髭の老人が出てきた。
 マルクを上から下まで眺めて、ぶっきらぼうに話す。
「あんたらがNWSの本陣か。揃いも揃って呑気な顔をしとる」
 この先制攻撃にカチンとくる者、落胆する者、言われたことが信じられない者。バラエティー豊かな反応を返して、サバラスが嫌味に返礼する。
「全然期待はしとらんが、炎樹の森を騒がすようなら即刻、出て行ってもらうからな。よく覚えておけ。以上だ」
 ドアは無情にも閉められた。
 思わずため息をつくリーダーたち。
 サバラスの言動は大方の予想通りで、なんというか、マイナスのイメージを裏切らないところが大物らしいと思った。
「なにあれ、感じ悪い」
「初対面の人間を、こんなに大勢敵に回すってどうよ」
「こんなところに一人で住んでるから、卑屈になったんじゃないの」
「関わりたくなぁ~い」
「イーッだ!」
 男女問わず悪感情を持ってしまったようで、リーダーたちはやれやれと重い腰を上げた。
 少し離れたところに移動して指示を出すマルク。
「何はともあれ仕事初日だ。サバラスさんが非協力的でも、仕事を見てもらえば評価が変わるかもしれない。それを期待して、俺たちは俺たちの仕事をしよう。ここからはガーネットラヴィーン、ルビーウッズ、アンバーフットに分かれて作業する。リーダーの指示に従うように」
 浮かれていた気持ちが一気に冷めて、全員がサバラスに立ち向かうモードになるのだった。















 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...