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第7話『おさらい』
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落雨の六月初旬。
日曜日の休みに時間を取って、マルクとポール、アロンが集会所の裏手にある小川公園に集まっていた。
雨の季節には珍しい好天で、小川はやや水量が多いようだが濁ってはいなかった。
公園に据え付けられたベンチに、男三人が座って興じることとは――?
「おかげさまでマルクに言われた通り、外食止めて自作料理食べて白湯飲んだら、なんと7キロも瘦せたよ」
二重顎になりかけていたポールの顔は、シュッとスリムになっていた。
「おめでとさん。身体調子いいだろ?」
マルクに言われて、ポールは両肩を回して見せた。
「うん、憑き物が落ちたみたいにね」
「やっぱり外食摂り続けるのは考えものだな。今だから言うけど、オーラくすんでたぞ」
アロンが指摘すると、ポールは頭を掻いた。
「いやぁ、身をもって知ったよ。身体の精妙さを保つ大変さが。どうして人って昔からの知恵を脇に置いて、不摂生に走っちまうのかね」
「知恵と同じくらい、誘惑があるからだよ」
「ホントそうだよね。俺も初めは単にレパートリーを増やそうって動機だったのに、つい手間を省くのが習慣化しつつあったもんな」
「タイラーじゃないが、変なことを引き寄せる前に気づいてよかったな」
マルクに言われて、ポールは軽く頭を下げた。
「これも二人の助言の賜物です」
「よし、ポールが殊勝になったところで、おさらいするか」
「頼んます」
三人は生産修法をおさらいするために集まったのだった。
生産修法は、なるべく自然に近い場所で行うのが望ましいとされる。
生命の樹の純エネルギーを捏ねて行う生産修法は、自然を司る六大精霊界によって過程が見守られる。
落雨の六月は闇の精霊界が司っており、夏に向けて身体を冷やす食べ物が多く収穫される。よって、夏に秋の野菜であるサトイモやゴボウなどを作ろうとしてもできない。逆に春の野菜であるセロリやアスパラガスを作ろうとしても、精霊界にそっぽを向かれてしまうのである。
「それで? 生産修法はやってみたか」
マルクに聞かれて、二度頷くポール。
「手順は確認したよ、イメトレもね。ただ試してない。……自信なくてさ。だって失敗してまずい野菜を食べる気になれないからね」
「ポールらしいな」
苦笑するアロン。
そう、生産修法でこさえた作物は、失敗したら本人が責任をもって食す、という暗黙のルールがあるのだ。
「とりあえず夏野菜と果物の種は用意したんだ、これどうよ」
ポールがウエストポーチから取り出したのは、キュウリやトマト、ナスなどの野菜の種。それとメロンやスイカといった果物の種の入った小袋だった。
「揃えたなぁ。こんなにどうするんだ?」
「夏中、強化期間にして作りまくるんだよ。二人には自信作を食べてもらうからね」
マルクに言われて、ポールは鼻の穴を膨らませる。
「腹壊すぞ」
「そうなっても仕事は休まないよ」
「やれやれ、言っても無駄だな。実践あるのみか」
「まず種選びからだな。どれに挑戦する?」
「やっぱ、これでしょ」
言ってポールがカードのように手にしたのは、レタスの小袋だった。
「えっ、レタス? まさか露地栽培イメトレじゃないだろうな」
アロンがやや慌てたが、ポールは小袋を破ってしまった。
「これをクラムチャウダーに入れると最高なんだわ。好物なんだ。サラダ寿司もいいよね。そうそう、忘れちゃなんないサンドイッチ。味噌汁も捨てがたい……種はこれでしょ」
奇しくも選んだ種はその中で一番良いものだった。
アロンは止めようとしたが、マルクはやんわり言った。
「本人のやる気次第だと思うぞ。成功率も違う。やらせてみた方がいい」
日曜日の休みに時間を取って、マルクとポール、アロンが集会所の裏手にある小川公園に集まっていた。
雨の季節には珍しい好天で、小川はやや水量が多いようだが濁ってはいなかった。
公園に据え付けられたベンチに、男三人が座って興じることとは――?
「おかげさまでマルクに言われた通り、外食止めて自作料理食べて白湯飲んだら、なんと7キロも瘦せたよ」
二重顎になりかけていたポールの顔は、シュッとスリムになっていた。
「おめでとさん。身体調子いいだろ?」
マルクに言われて、ポールは両肩を回して見せた。
「うん、憑き物が落ちたみたいにね」
「やっぱり外食摂り続けるのは考えものだな。今だから言うけど、オーラくすんでたぞ」
アロンが指摘すると、ポールは頭を掻いた。
「いやぁ、身をもって知ったよ。身体の精妙さを保つ大変さが。どうして人って昔からの知恵を脇に置いて、不摂生に走っちまうのかね」
「知恵と同じくらい、誘惑があるからだよ」
「ホントそうだよね。俺も初めは単にレパートリーを増やそうって動機だったのに、つい手間を省くのが習慣化しつつあったもんな」
「タイラーじゃないが、変なことを引き寄せる前に気づいてよかったな」
マルクに言われて、ポールは軽く頭を下げた。
「これも二人の助言の賜物です」
「よし、ポールが殊勝になったところで、おさらいするか」
「頼んます」
三人は生産修法をおさらいするために集まったのだった。
生産修法は、なるべく自然に近い場所で行うのが望ましいとされる。
生命の樹の純エネルギーを捏ねて行う生産修法は、自然を司る六大精霊界によって過程が見守られる。
落雨の六月は闇の精霊界が司っており、夏に向けて身体を冷やす食べ物が多く収穫される。よって、夏に秋の野菜であるサトイモやゴボウなどを作ろうとしてもできない。逆に春の野菜であるセロリやアスパラガスを作ろうとしても、精霊界にそっぽを向かれてしまうのである。
「それで? 生産修法はやってみたか」
マルクに聞かれて、二度頷くポール。
「手順は確認したよ、イメトレもね。ただ試してない。……自信なくてさ。だって失敗してまずい野菜を食べる気になれないからね」
「ポールらしいな」
苦笑するアロン。
そう、生産修法でこさえた作物は、失敗したら本人が責任をもって食す、という暗黙のルールがあるのだ。
「とりあえず夏野菜と果物の種は用意したんだ、これどうよ」
ポールがウエストポーチから取り出したのは、キュウリやトマト、ナスなどの野菜の種。それとメロンやスイカといった果物の種の入った小袋だった。
「揃えたなぁ。こんなにどうするんだ?」
「夏中、強化期間にして作りまくるんだよ。二人には自信作を食べてもらうからね」
マルクに言われて、ポールは鼻の穴を膨らませる。
「腹壊すぞ」
「そうなっても仕事は休まないよ」
「やれやれ、言っても無駄だな。実践あるのみか」
「まず種選びからだな。どれに挑戦する?」
「やっぱ、これでしょ」
言ってポールがカードのように手にしたのは、レタスの小袋だった。
「えっ、レタス? まさか露地栽培イメトレじゃないだろうな」
アロンがやや慌てたが、ポールは小袋を破ってしまった。
「これをクラムチャウダーに入れると最高なんだわ。好物なんだ。サラダ寿司もいいよね。そうそう、忘れちゃなんないサンドイッチ。味噌汁も捨てがたい……種はこれでしょ」
奇しくも選んだ種はその中で一番良いものだった。
アロンは止めようとしたが、マルクはやんわり言った。
「本人のやる気次第だと思うぞ。成功率も違う。やらせてみた方がいい」
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