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第20話『稲刈り講習』
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30分後——稲刈りの準備は整い、女性メンバーの着替えも終わって、全員がノリヒトの家の玄関前に集合した。
挨拶はノリヒトから。
「あー、本日はお日柄もよく、絶好の稲刈り日和だ。みんな日頃の溜まった鬱憤をこの労働で大いに発散してもらいたい。以上!」
瞼をピクピクさせて、ノリヒトは短めに挨拶を打ち切った。
NWS女性メンバーの殺気と、後方に控えた妻、ヨリコに恐れをなしてのことだった。
以後、ノリヒトは変態の烙印を押されたのである。
班ごとに真新しい鎌を受け取ったメンバーは、水抜きしてある田んぼの前に丸くなって集まった。
そこでノリヒトたちによる予行実習が行われる。
「いいか! 稲の株元から20センチぐらい上を束にして持ったら、手前に向かって一気に鎌を引く」
ザッと音を立ててノリヒトが鎌を手前に引くと、根元を残して稲束が切り離された。
「こうだ。慣れないうちは鎌を扱いきれずに、何度も稲に当てちまう。初めは仕方ねぇが、早いうちにコツを掴め。力加減を覚えろ」
「誰にでも取り柄はあるのね」
パティ談。クスクスと忍び笑いが起こる。幸いノリヒトはどこ吹く風だ。
次にトーマスが稲の束ね方を伝授する。
「慣れないうちは取りこぼしやすいので、3束を目安にしてください。昨年の藁がありますので、束ねた稲を藁でくるっと巻きます。それから、両端を持って交差させて捻じる……撚ると言いますが。撚った部分を輪の中に通して出来上がりです。練習用の稲束がありますので、やってみましょう」
今度はルイの番だ。稲架掛の仕方を教える。
「最後に束ねた稲を棒に掛ける稲架掛についてお教えします。この作業は刈り取った稲を高水分の水田から空気中に持ち上げ、日光と風によって乾燥する意味があります。刈り取ったばかりの稲は水分が多く20~30%を占めるのです。腐りやすいので水分量を減らす必要があるわけです。まず棒の突き刺し方ですが――」
ルイが2m近くある木の棒を田んぼに突き立てる。
「このように、1回では刺さりません。同じ穴に数回、棒を突き立てなくてはなりません。——こうです。もちろん、この作業は男性が行ってください。次に立てた棒の下部に添え木を結びつけます。この上に2束を棒の両脇に挟んで置き、次に交差させて2束、十次に重ねていきます」
素晴らしく早い手つきで、ルイは稲束を重ねていく。トーマスから稲束を受け取るそばから、キレイに積み上げる。それが1mほどになった。
「1mほど稲束を積み重ねたら、棒にこうやって藁縄を結びつけます。これが稲束の段に隙間を作り、稲が乾燥しやすくなるわけです。この上にあと50cmほど積み上げて完成です」
「おおっ!」
NWSからルイの手際に拍手が起こった。
男性メンバーの中には口笛や囃す者もいた。
「ちぇっ、俺の時とえらく違うじゃねぇのよ」
ノリヒトのぼやきにトーマスが言った。
「こいつは日頃の行いだな」
「なにぃっ⁈」
「おまえ……のぞきの現場を押さえられたんだって? ヨリ子ちゃんの目と鼻の先でやらかしたんだから自業自得さ。よく考えろよ、彼らは組合長の紹介ってことになってんだからな。俺たちが面目潰してどうするんだよ」
「けっ、わーったよ!」
「あとは実習しながら教えるか、なぁ⁈」
ルイが清々しい笑顔で言った。ノリヒトの地に堕ちた名誉とは雲泥の差だった。
「よーし、みんな田んぼに横一列に並べ。一人三列だ。わーったな?」
「ヘーイ」
ノリヒトの合図で、みんなワイワイと田んぼの畦道に広がっていった。
100人近くの人間が一列に並ぶ様は壮観だった。
「そんじゃ始めようぜ!」
「おーっ!」
まずは全員が鎌を手に稲を刈る。
素晴らしい上天気に恵まれ、辺りは太陽の匂いに包まれた。
挨拶はノリヒトから。
「あー、本日はお日柄もよく、絶好の稲刈り日和だ。みんな日頃の溜まった鬱憤をこの労働で大いに発散してもらいたい。以上!」
瞼をピクピクさせて、ノリヒトは短めに挨拶を打ち切った。
NWS女性メンバーの殺気と、後方に控えた妻、ヨリコに恐れをなしてのことだった。
以後、ノリヒトは変態の烙印を押されたのである。
班ごとに真新しい鎌を受け取ったメンバーは、水抜きしてある田んぼの前に丸くなって集まった。
そこでノリヒトたちによる予行実習が行われる。
「いいか! 稲の株元から20センチぐらい上を束にして持ったら、手前に向かって一気に鎌を引く」
ザッと音を立ててノリヒトが鎌を手前に引くと、根元を残して稲束が切り離された。
「こうだ。慣れないうちは鎌を扱いきれずに、何度も稲に当てちまう。初めは仕方ねぇが、早いうちにコツを掴め。力加減を覚えろ」
「誰にでも取り柄はあるのね」
パティ談。クスクスと忍び笑いが起こる。幸いノリヒトはどこ吹く風だ。
次にトーマスが稲の束ね方を伝授する。
「慣れないうちは取りこぼしやすいので、3束を目安にしてください。昨年の藁がありますので、束ねた稲を藁でくるっと巻きます。それから、両端を持って交差させて捻じる……撚ると言いますが。撚った部分を輪の中に通して出来上がりです。練習用の稲束がありますので、やってみましょう」
今度はルイの番だ。稲架掛の仕方を教える。
「最後に束ねた稲を棒に掛ける稲架掛についてお教えします。この作業は刈り取った稲を高水分の水田から空気中に持ち上げ、日光と風によって乾燥する意味があります。刈り取ったばかりの稲は水分が多く20~30%を占めるのです。腐りやすいので水分量を減らす必要があるわけです。まず棒の突き刺し方ですが――」
ルイが2m近くある木の棒を田んぼに突き立てる。
「このように、1回では刺さりません。同じ穴に数回、棒を突き立てなくてはなりません。——こうです。もちろん、この作業は男性が行ってください。次に立てた棒の下部に添え木を結びつけます。この上に2束を棒の両脇に挟んで置き、次に交差させて2束、十次に重ねていきます」
素晴らしく早い手つきで、ルイは稲束を重ねていく。トーマスから稲束を受け取るそばから、キレイに積み上げる。それが1mほどになった。
「1mほど稲束を積み重ねたら、棒にこうやって藁縄を結びつけます。これが稲束の段に隙間を作り、稲が乾燥しやすくなるわけです。この上にあと50cmほど積み上げて完成です」
「おおっ!」
NWSからルイの手際に拍手が起こった。
男性メンバーの中には口笛や囃す者もいた。
「ちぇっ、俺の時とえらく違うじゃねぇのよ」
ノリヒトのぼやきにトーマスが言った。
「こいつは日頃の行いだな」
「なにぃっ⁈」
「おまえ……のぞきの現場を押さえられたんだって? ヨリ子ちゃんの目と鼻の先でやらかしたんだから自業自得さ。よく考えろよ、彼らは組合長の紹介ってことになってんだからな。俺たちが面目潰してどうするんだよ」
「けっ、わーったよ!」
「あとは実習しながら教えるか、なぁ⁈」
ルイが清々しい笑顔で言った。ノリヒトの地に堕ちた名誉とは雲泥の差だった。
「よーし、みんな田んぼに横一列に並べ。一人三列だ。わーったな?」
「ヘーイ」
ノリヒトの合図で、みんなワイワイと田んぼの畦道に広がっていった。
100人近くの人間が一列に並ぶ様は壮観だった。
「そんじゃ始めようぜ!」
「おーっ!」
まずは全員が鎌を手に稲を刈る。
素晴らしい上天気に恵まれ、辺りは太陽の匂いに包まれた。
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