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第20話『5班と6班』

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 右隣では5班リーダーのポールが気炎を上げていた。
「進め進め! 負けるな急げ! ファイト一発! 俺に続け――!!」
「よっしゃ、いったるぜぇ!」
「目指せ一番!」
「負けねぇぜ!」
「おりゃーっ!」
 最近、別に仕事をしていた男性メンバーも合流して、異様なテンションになっている。
 冷静なのは女性メンバーである。
「あーあー、雑なんだから、もう!」
「しょうもない夫を持った妻になった気分だわ」
「それ言えてるー!」
 ポールから檄が飛ぶ。
「女子ー! 口より手動かせ」
「はいはい」
 もちろん彼女たちは男子(というかポール)の扱いは慣れたものだ。
「ほんと久々だわ、ポールさんの指示で動くの」
「思ったより身体は動くね」
「隣、トゥーラさんの班だから、いいとこ見せたいんじゃない?」
「わかりやすっ」
 言いながら、目にも止まらぬ速さで稲を束ねる。
「おおっ、腕は鈍ってないじゃない」
 ポールがやってきて、女性メンバーの仕事に満足する。
「ダテに5班にはいませんよ」
「ポールさんこそ、気合入ってるわ、扇動するわ、大車輪じゃないですか」
「わかる⁈ 肉体労働に目覚めたの、俺」
「その実、たった一人しか眼中にないんでしょ」
「いやいや、そのたった一人から視野が広くなることもあるんだね、これが!」
「ごちそうさまでーす」
 しっかり中てられる女性メンバーだった。

 一方、右隣の6班では、女の戦いが繰り広げられていた。
 といっても、パティの一人相撲なのは誰が見ても明らかだった。
 アヤがランスに話しかける、二言三言交わす、笑い合う、その逆。
 この大人のシチュエーションに太刀打ちできずに、パティは隣で班実績比3倍の能率で稲を刈っていたのだ。
 恐ろしくて誰も近寄れない。
 シュッ、スパッ、シュッ、スパッ……。
 鎌が閃いている。
「うぇ~ん、怖いよぉ!」
「あいつ、なんであんなに荒れてるわけ?」
「ああ……ランスさんとアヤさんの大人の関係に嫉妬爆裂中なのよ」
「げっ、面倒くせぇっ」
「あんなに怒ってたら、さしものランスさんだって……」
 後ろをギン、と睨んでパティが怒鳴る。
「そこ! 聞こえてんのよ。とっとと仕事しろっ!!」
「やっば」
「ひぇ~っ!」
 他のメンバーのよそよそしさに拍車がかかる。
 全身ハリネズミ状態のパティに近づいたのはランスだった。
「パティさん?」
「! ……なんですか?」
 むっとしてパティがランスを見やる。ランスは優しく言った。
「いつもより張り切って仕事してくださってありがとうございます。でも……鎌を持つ右手、痛くありませんか?」
 パティが右手を開いてみると、マメが二つ潰れていた。
「……」
「これはいけませんね」
 ランスはそう言って、絆創膏とバンテージをポケットから取り出すと、パティの右手に絆創膏を貼ってバンテージをくるくると巻いた。
 そうしているうちに、パティから小さな嗚咽が漏れた。
「パティさん、痛かったですね。もう大丈夫ですよ」
 ポンポンと肩を叩いてなだめる。
「……罪作りですよ、ランスさん」
 パティに言えたのはそれだけだった。
「そうですね。パティさんには私のような大人しい人間よりも、情熱を高め合える方の方が相応しいと思います」
「!」
 驚くほどはっきり言われて、パティのじりじりした気持ちが静まっていった。
「——はい」
「ありがとうございます。もう稲刈りは男性に任せて、稲束を作ってくださいね」
 ランスはパティからそっと鎌を受け取った。























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