パイオニアオブエイジ~NWSかく語りき〜

どん

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第23話『ルイスとハルニレ』

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 豊穣の十月織読《しきどく》の七日、の日曜日——。
 この日、南端国メーテス東街アネモネ通りに面した、レンガ造りの古いアパートの二階で、ハルニレは朝から大忙しだった。
 ルイスは午前十時に訪ねてくる予定だ。
 来週の日曜日、ランスが牧師をしている協会のバザーがある。
 そこでルイスとハルニレ、ポールとトゥーラのコンビ、もう一人ランスの婚約者のアヤの五人で、飲食店を運営するのだ。
 ハルニレの担当は手作りパン。
 発案者のアヤに発破をかけられて、本当にここ三週間、せっせと試作品を拵え、ルイスに食べてもらうということをやってのけた。
 付き合い始めて間もないルイスたちには刺激が強すぎて、お茶はこぼすわ、パンは焦げるわ、会話はぶつ切りだわ。
 目も当てられない有様だったのだが、ここに来てやっと緊張が解けてきて、ハルニレは上機嫌だ。
 「フンフン、フフフ~ン」
 鼻歌混じりに粉だらけのキッチンで掃除機をかけて準備完了。
 テーブルの上の総菜パン――ゴーダチーズとマッシュポテト、みじん切りの炒めタマネギを味付けした餡入り――はふっくらおいしそう。
 幼稚なティーセットを封印して、家に古くから伝わる物を使用する。
 青少年教育の一端を担うキャンサー家紋入りで、青地に蜜蜂とソヨゴの白い小さな花と楕円の葉がデザインされた逸品だ。
 いつもよりぐっと大人っぽく、引き締まって見える……。
 そして、お茶請けにしょっぱい手作り塩ドライトマトで決まりだ。
 自分のセンスにご満悦のハルニレは、ウキウキして壁時計を見た。
 九時四十五分——あと十五分もある。
 やり忘れたことはないか、見られて困るものはないかと、視線を彷徨わせているとインターホンが鳴った。
「——はい!」
 いつも十時二、三分前に来るルイスにしては、早いタイミングだった。
 パタパタ玄関に歩いて行って、ドアを開けると――。
「おじいちゃん! おばあちゃんも!」
 なんと、祖父のケインと祖母のホリーが正装して立っていたのだった。

 祖父母を邪険にするわけにもいかず、ハルニレは今日はお客様が来る、とだけ言った。
 祖母のホリーは落ち着き払って言った。
「もちろん、知ってますよ。ユズさんが、ハルちゃんが家に伝わるティーセットを持っていきました、と教えてくれたのでね」
 ユズ、というのはハルニレの母親で、ホリーにとっては嫁にあたる。
(お母さん……!!)
 母は姑を崇拝しているので、いざという時、盾になってくれないのだった。
 それどころか、時に悪戯をハルニレだけに思いつく。兄も妹もいるのに。
「いい人がいるんでしょ? 私たち、今か今かと楽しみにしていたのに。あんまり遅いから押しかけてきちゃったわ。紹介してくれるでしょ」
 母と同じで、ハルニレも祖母には逆らえない。
 見た目はふんわりおっとりした婦人だが、芯は木綿のように丈夫で強い人なのだ。
 それにしても、祖父ケインの不機嫌な顔は、とても孫の恋人を待っているふうではない。
「……追い返したりしない?」
 念を押しつつ、微妙な甘えを残してハルニレが問う。
「そんなことしませんよ、ハルちゃんが好きになった方だもの。ねぇ、あなた」
 ホリーが傍らのケインに聞くと、彼は返事の代わりに、にゅ~っと唇を突き出した。
 絶対、何か企んでいる証拠だった。
















 
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