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第25話『隠し名』
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ヨリコが過去に童話の里に在籍していたことは、直ちにリーダー間で共有された。
破綻しかけた養子縁組の話も、彼女のおかげで大部分調った。
要所要所で入る旦那の茶化し話が、これまた絶妙だった。
「まぁ、ウチの人は犬でも猫でも、しょげてるのを見るとほっとけないんですよ。ましてや、泣いてるミレイちゃんを見たら、神様の思し召しかって拝んじゃいますよ!」
「宅は昔から専業農家でしてね。家屋敷は大きいんですが、こんなむさくるしいのと一日中顔を突き合わせてると、しまいに話の種も尽きてしまってねぇ。墓場まで付き合うとなると嫌気が差してたところなんですよ」
「ご隠居さんとミレイちゃんが一緒に住んでくれたら、ウチの人ののんべんだらりとした居住まいも、少しはましになるかもしれませんよ。アッハッハッハ」
この夫にしてこの妻あり。
淀みのない会話、程よく品のある言葉、弱った人を元気づける巧みな合いの手。
――ヤスヒコ老人はすっかりヨリコが気に入ってしまった。
ついには話はわからないのに、ミレイまでが好奇心に輝く目でヨリコを見ているのに気づいて、ヤスヒコ老人は心を決めた。
「大変、気風がよくて面倒見のいいご婦人だ。あなたのような方にミレイの母親になっていただけたら、ミレイは丈夫で強い子に育つでしょうな」
八割……いや、九割話をまとめてしまった。
「もちろん、半端な気持ちでお引き受けはしませんよ。あんたからも言っておあげよ!」
バトンはヨリコからノリヒトに渡された。
ノリヒトはヤスヒコ老人の隣にどっかり胡坐をかいて座ると、おもむろにこう言った。
「じいさん、ミレイの隠し名はこうかい?」
いつの間に用意していたのか、一筆箋をちらりとヤスヒコ老人に見せた。
そこには毛筆で”美礼(ミレイ)”と書かれていた。
それは民間信仰で、歴史ある家系に伝わる、古い古い伝承だった。
現在でも、昔から使われていた古名には、隠し名があることがある。
ちなみにノリヒトは”徳人”、ヨリコは”和子”と書く。
そして、医者の家系であるヤスヒコ老人は、”泰彦”という隠し名を持つ。
その話を一見で持ちかけられるのが、家長の風格の証。
ミレイの隠し名はまさに”美礼”だった。
「……よくおわかりですな。この子を見てその字が浮かぶ人はいません。”レイ”を流行りの漢字で充てたがるのが最近の風潮でしてな。ましてや限られた人数のうちで」
「なぁに、この子を見てピンときたよ。混じりっけなしの澄んだ泉みたいな目をしてるってな。子どもにありがちなかんむしがスッと抜け落ちてる。こいつは躾の力だ。礼儀から生き方を学んでいってほしいって親心がひしひしと伝わってくる。——いい名だな」
破綻しかけた養子縁組の話も、彼女のおかげで大部分調った。
要所要所で入る旦那の茶化し話が、これまた絶妙だった。
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「宅は昔から専業農家でしてね。家屋敷は大きいんですが、こんなむさくるしいのと一日中顔を突き合わせてると、しまいに話の種も尽きてしまってねぇ。墓場まで付き合うとなると嫌気が差してたところなんですよ」
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この夫にしてこの妻あり。
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――ヤスヒコ老人はすっかりヨリコが気に入ってしまった。
ついには話はわからないのに、ミレイまでが好奇心に輝く目でヨリコを見ているのに気づいて、ヤスヒコ老人は心を決めた。
「大変、気風がよくて面倒見のいいご婦人だ。あなたのような方にミレイの母親になっていただけたら、ミレイは丈夫で強い子に育つでしょうな」
八割……いや、九割話をまとめてしまった。
「もちろん、半端な気持ちでお引き受けはしませんよ。あんたからも言っておあげよ!」
バトンはヨリコからノリヒトに渡された。
ノリヒトはヤスヒコ老人の隣にどっかり胡坐をかいて座ると、おもむろにこう言った。
「じいさん、ミレイの隠し名はこうかい?」
いつの間に用意していたのか、一筆箋をちらりとヤスヒコ老人に見せた。
そこには毛筆で”美礼(ミレイ)”と書かれていた。
それは民間信仰で、歴史ある家系に伝わる、古い古い伝承だった。
現在でも、昔から使われていた古名には、隠し名があることがある。
ちなみにノリヒトは”徳人”、ヨリコは”和子”と書く。
そして、医者の家系であるヤスヒコ老人は、”泰彦”という隠し名を持つ。
その話を一見で持ちかけられるのが、家長の風格の証。
ミレイの隠し名はまさに”美礼”だった。
「……よくおわかりですな。この子を見てその字が浮かぶ人はいません。”レイ”を流行りの漢字で充てたがるのが最近の風潮でしてな。ましてや限られた人数のうちで」
「なぁに、この子を見てピンときたよ。混じりっけなしの澄んだ泉みたいな目をしてるってな。子どもにありがちなかんむしがスッと抜け落ちてる。こいつは躾の力だ。礼儀から生き方を学んでいってほしいって親心がひしひしと伝わってくる。——いい名だな」
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