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第25話『女は度胸』

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 その頃、童話の里ではヤスヒコ老人が小さな木のテーブルの前に正座しながら、やきもきしてミレイが戻るのを待っていた。
 リーダーたちは童子に待て、と釘を打たれた以上、何をすることも出来ず遠巻きに様子を見ている。
 夕方五時を回った時だった。
 ヤスヒコ老人の対面で沈黙を守っていた童子が、静かに笑って手を合わせ、老人に頭を下げた。
 すると、老人の脇にノリヒトに抱かれたミレイと、妻のヨリコがテレポートしてきたのだった。
「ミレイ……!」
 よろよろと立って、老人はしっかりとノリヒトから孫を受け取った。
「おじいちゃん! あのね、おじさん家、とっても広くて大きいんだよ。おじさんとおばさんがおにぎりとね、お味噌汁をごちそうしてくれたの。また遊びに行ってもいいんだって。おじいちゃんも行こうよ!」
 ミレイは興奮しながら、一生懸命起こったことを教えようとした。しかし、心配していた祖父の耳には届かなかったのである。涙が止め処なく流れて、孫の顔を濡らす。
「おじいちゃん、ごめんね。ぼく悪い子だった?」
 さすがに泣いている祖父が心配になって、ミレイは言った。
「いや……ミレイは悪くない! 皆さん、申し訳ないがミレイは皆さんには預けられません。どうか家に帰してください……!」
 声を振り絞るように訴えるヤスヒコ老人に、NWSリーダーたちは誰も声をかけられないでいた。
 遠慮が得意でないノリヒトも、これには声を詰まらせた。
 その時、老人に声をかけたのはヨリコだった。
「まぁまぁ、ご隠居さん。事情はわかりませんが、せっかくできたご縁じゃありませんか。私たちも思いがけずミレイちゃんと過ごせて、とても楽しかったんですよ。そんなに怖い顔しなくても、ミレイちゃんはどこにも行きませんよ。安心してお話を聞かせてくださいな!」
 さすがとしか言いようのない心配りだった。
 その朗らかさに、ヤスヒコ老人は何度も頷いた。
 そして、ヨリコ相手に、これまでの心労を滔々と話して聞かせたのだった。
 出番がないノリヒトは、ポール相手に丁々発止やりだした。
「ヨリコさんが来てくれて大助かりだけど……事情ちゃんと説明した? 問い詰められて童話の里の話をしたんじゃないだろうね。んなことして予定が狂ったらどうするよ」
「そうは言ってもよ……メーテスから来たって説明したら、ミレイがひょっと自分ちの場所しゃべっちまったのよ。逃れようがねぇじゃねぇか」
「そりゃまぁ……ミレイを保護したのがノリヒトさんだってのが、意外っちゃ意外だけど。……大丈夫なの、ヨリコさん? まさかこんなことになるとは思ってもいなかったよ、きっと……」
「修羅場は俺で慣れてるからな……ヨリコがいいっていやぁ、八割方解決なのよ、俺ん家は」
「どっかで聞いたな、その台詞」
「結婚すんなら覚えとけ。女は度胸だぞ」
「納得」
 ヨリコが聞いたらタダじゃ済まない会話がまかり通るのだった。



















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