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第26話『時代の潮流』

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 霜舞の十一月愛憐の四日、日曜日——。
 タイラーとオリーブは新居に引っ越しをしていた。
 それまで住んでいた一人暮らし用のアパートを引き払い、南端国メーテスの東街、コンフリー通りの3LDKマンションへ。
 タイラーの運転する軽トラックに揺られて、オリーブはふうっと一息ついた。
「あー、スッキリした! これであの建付けの悪いアパートともおさらばだわ」
 隣でタイラーが吹き出す。
「手だけじゃなくて、足も使ってたからな」
「だって、西街のポピー通りっていったら、泣く子も黙る警察の官舎があるところだよ? 犯罪件数こそゼロだけど、このところの国内事情で全然開発されない地区なんだもん。物件古い古い」
「それで守ってもらえたんだから、御の字だけどな」
「まぁね……大家さんもいい人だったし、ご近所付き合いも苦にならなかったし。たまにお裾分けもらったりして、和気藹々なところは気に入ってたよ」
「俺が引っ越ししてきてもよかったのに」
「タイラーの荷物の少なさからいったら不可能じゃなかったけど……私が心機一転したかったの。それに、いつ子ども授かっても不思議じゃないのに、1LDKじゃ手狭すぎでしょ」
「ゴホン、それはそうだが……」
 努めて真顔でタイラーは言った。
「ホントに……メーテスに住んで十年以上になるっていうのに、荷物が衣裳箱二つだけってどういうことなの?」
「そうだな――どこかで仮住まいだって思ってたのかもな」
「やっぱりね。見ててものすごく悲しかったもの。おまけに綿埃一つ落ちてないくらいピカピカで。あれじゃ生活感がないって、ミルラが騒ぐのも無理ないわよ」
「……それを君に見られるのは決まり悪かったよ。でも、君だから見せられるんだ。俺の生活を180度変えてくれると信じて」
「任せといて! 私って一人になりたくても、させてもらえない人間だから。嫌っていうほど賑やかにしてあげるわ」
「ハッハッハ」
 張り切るオリーブに気を引き立ててもらって、タイラーは安全運転で東街へ抜けるべくポピー通りを下っていった。

 パラティヌスが車社会を終わらせたのは十五年前。
 燃料電池車が普及して、200年近く経っていたが、車による事故は歯止めがかからなかった。
 そこで国は、鉄道とバスを整備して、網の目のように路線を増設し、利便性を上げた。
 その代わり、一般人の自家用車の所有を禁じたのである。
 農家や救急、宅配など、用途に応じて必要最低限の作業車以外はパラティヌスから姿を消した。
 高速道路やバイパスなども撤去された。
 大体の車道はゆとりのある自転車道に姿を変えたのだった。
 そんなわけで、引っ越しの際、車を使うのにもにも自治体への申請がいる。
 一番安上がりなのは、軽トラックを運転して業者を介さず自前で済ませること。
 無駄遣いをしないというポリシーが一致した二人は、セオリー通りに事を進めていた、
















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