262 / 276
第26話『妹からの手紙』
しおりを挟む
はさみ――といっても、すぐに出てくる状況ではないので、タイラーは封筒の端を指で千切った。
手紙は五枚ほどで、流麗な文字が埋まるように並んでいた。
早速読み始める。
タイラー兄さんへ
前略、お久しぶり。元気そうでよかったわ。心配していたのよ?
パラティヌスでとても素敵な人に巡り合ったのね。
結婚のお知らせ、嬉しく拝見しました。
もう兄さんのことを、とやかく言う人もいません。
あれからこちらでもいろいろあってね。
詳しくは後で話すけれど、結論から言うと武器工場を閉鎖したの。
気になるでしょうね?
まずは事の起こりから説明するわね。
あれは、今年の宇宙の九月鮮碧の二十日のことだったわ。
突然、会社に国の査察が入ったの。
事由はテロリストへの武器横流しですって!
父さんはあの通り、正義のために国に貢献してると信じて疑わない人だから、寝耳に水よ。
結局、証拠が挙がらなくて、事実無根だったみたいなんだけど、国から疑われたことがショックで父さん寝込んでしまったの。
私たちも慰めようがなくて、工場の人たちに事情を説明したり、取引先への陳情なんかも全部、エドガー兄さんがやってのけたのよ。
あとで父さんが「あいつがあんなに頼もしく見えたことはない」って泣いて喜んでたわ。
そんな時だったのよ、タイラー兄さんの手紙が届いたのは。
一読した父さんが一言「これにはマリエルが返事しなさい」って言うから、またお見合いの申し出を断らなくちゃいけないのかと思ったわ。
父さんの表情からは何も読み取れなかったけれど、そこからの回復が目覚ましかったの。
昨日まで寝込んでた人が急に起き出して、あれこれエドガー兄さんや部下の方に指示して。
工場を閉鎖するからって、自分で従業員に発表して、退職金も失業保険も間違いなく出ますと説明したの。
何人かの部下の方が公私にわたって奔走してくれて、大きな混乱もなく落ち着いたのが、豊穣の十月中旬かしらね。
もう偉そうな生活をしている余裕はないんだって、財産にしがみつく母さんを根気よく説得してたわ。
それから間もなくして、カエリウスはテロ活動が減少傾向にあるから、軍縮を取り決めたの――。
一連のことはまさしく天の配剤としか思えなかったわ。
多くの同業者が混乱を極める中、私たちの会社はすべての事後処理が完了していたんだもの。
父さんがどんなにタイラー兄さんに感謝したか、わかるでしょう?
本当に見違えたように若々しくなって、しまいに「いらなくなった武器の解体工場でも始めようか」って言い出したの。
私たちが父さんの人徳を思い知ったのはこのときよ。
ただの思いつきだったのに、古い部下の方や急なリストラで迷惑を被った従業員の方々も「やりましょう!」って集まってくれて。
あれよあれよという間に、閉鎖していた武器工場は、武器解体工場に生まれ変わっちゃったの。
勝手知ったる製品だもの。これ以上の解体業者はいないって、みんなやる気満々なの。
すごいでしょ? 本当にびっくりすることばかりよ。
私、思うんだけど、タイラー兄さんの幸せは父さんの頑迷な性格も溶かす不思議な力があるのね。
だって、寝込む前の父さんと、今の父さんは全く別人だもの。
だから――すべてのいい変化が一息つくまで、返事するのを待っていたの。
ごめんなさい、兄さん。そしてありがとう。
オリーブさんを連れて、一度帰ってきて。
みんなで待ってます。
霜舞の十一月修迷の二日
マリエル・クリムゾン
手紙は五枚ほどで、流麗な文字が埋まるように並んでいた。
早速読み始める。
タイラー兄さんへ
前略、お久しぶり。元気そうでよかったわ。心配していたのよ?
パラティヌスでとても素敵な人に巡り合ったのね。
結婚のお知らせ、嬉しく拝見しました。
もう兄さんのことを、とやかく言う人もいません。
あれからこちらでもいろいろあってね。
詳しくは後で話すけれど、結論から言うと武器工場を閉鎖したの。
気になるでしょうね?
まずは事の起こりから説明するわね。
あれは、今年の宇宙の九月鮮碧の二十日のことだったわ。
突然、会社に国の査察が入ったの。
事由はテロリストへの武器横流しですって!
父さんはあの通り、正義のために国に貢献してると信じて疑わない人だから、寝耳に水よ。
結局、証拠が挙がらなくて、事実無根だったみたいなんだけど、国から疑われたことがショックで父さん寝込んでしまったの。
私たちも慰めようがなくて、工場の人たちに事情を説明したり、取引先への陳情なんかも全部、エドガー兄さんがやってのけたのよ。
あとで父さんが「あいつがあんなに頼もしく見えたことはない」って泣いて喜んでたわ。
そんな時だったのよ、タイラー兄さんの手紙が届いたのは。
一読した父さんが一言「これにはマリエルが返事しなさい」って言うから、またお見合いの申し出を断らなくちゃいけないのかと思ったわ。
父さんの表情からは何も読み取れなかったけれど、そこからの回復が目覚ましかったの。
昨日まで寝込んでた人が急に起き出して、あれこれエドガー兄さんや部下の方に指示して。
工場を閉鎖するからって、自分で従業員に発表して、退職金も失業保険も間違いなく出ますと説明したの。
何人かの部下の方が公私にわたって奔走してくれて、大きな混乱もなく落ち着いたのが、豊穣の十月中旬かしらね。
もう偉そうな生活をしている余裕はないんだって、財産にしがみつく母さんを根気よく説得してたわ。
それから間もなくして、カエリウスはテロ活動が減少傾向にあるから、軍縮を取り決めたの――。
一連のことはまさしく天の配剤としか思えなかったわ。
多くの同業者が混乱を極める中、私たちの会社はすべての事後処理が完了していたんだもの。
父さんがどんなにタイラー兄さんに感謝したか、わかるでしょう?
本当に見違えたように若々しくなって、しまいに「いらなくなった武器の解体工場でも始めようか」って言い出したの。
私たちが父さんの人徳を思い知ったのはこのときよ。
ただの思いつきだったのに、古い部下の方や急なリストラで迷惑を被った従業員の方々も「やりましょう!」って集まってくれて。
あれよあれよという間に、閉鎖していた武器工場は、武器解体工場に生まれ変わっちゃったの。
勝手知ったる製品だもの。これ以上の解体業者はいないって、みんなやる気満々なの。
すごいでしょ? 本当にびっくりすることばかりよ。
私、思うんだけど、タイラー兄さんの幸せは父さんの頑迷な性格も溶かす不思議な力があるのね。
だって、寝込む前の父さんと、今の父さんは全く別人だもの。
だから――すべてのいい変化が一息つくまで、返事するのを待っていたの。
ごめんなさい、兄さん。そしてありがとう。
オリーブさんを連れて、一度帰ってきて。
みんなで待ってます。
霜舞の十一月修迷の二日
マリエル・クリムゾン
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王弟が愛した娘 —音に響く運命—
Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、
ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。
互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。
だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、
知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。
人の生まれは変えられない。
それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。
セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも――
キャラ設定・世界観などはこちら
↓
https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
婚約破棄されたスナギツネ令嬢、実は呪いで醜くなっていただけでした
宮之みやこ
恋愛
細すぎる一重の目に、小さすぎる瞳の三百眼。あまりの目つきの悪さに、リュシエルが婚約者のハージェス王子に付けられたあだ名は『スナギツネ令嬢』だった。
「一族は皆美形なのにどうして私だけ?」
辛く思いながらも自分にできる努力をしようと頑張る中、ある日ついに公の場で婚約解消を言い渡されてしまう。どうやら、ハージェス王子は弟のクロード王子の婚約者であるモルガナ侯爵令嬢と「真実の愛」とやらに目覚めてしまったらしい。
(この人たち、本当に頭がおかしいんじゃないのかしら!?)
差し出された毒杯
しろねこ。
恋愛
深い森の中。
一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。
「あなたのその表情が見たかった」
毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。
王妃は少女の美しさが妬ましかった。
そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。
スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。
お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。
か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。
ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。
同名キャラで複数の作品を書いています。
立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。
ところどころリンクもしています。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる