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第27話『ランドスケープオブメルシー』
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「何してくれんの、あんたたち!」
アウェンティヌスの国営放送のスタジオで、男性の低い裏返った声が響く。
声の主はもちろん、この国の人気コメンテーター、エンドルフィン・ハイアー。
そして、彼女の前で正座させられているのは、パラティヌス童話の里の団体、ランドスケープオブメルシーだった。
ここは一般人が多く集うところ。
エンドルフィンが風刺の里のエキスパートということは伏せられている。
ランドスケープオブメルシーのメンバーは、新しい付き人としてスタジオに出入りしていた。
激昂するエンドルフィンは、簡易テーブルのパイプ椅子に陣取り、足を組みながらバン、と丸めたニュース原稿をテーブルに叩きつけた。
ビクッと身体を震わせるランドスケープオブメルシーのメンバー。
「重大ニュースはトップに持ってくんだよ! どこの世界にどこぞの大臣が失脚したしょぼいニュースと、アウェンティヌスの農産物が過去最高輸出量に達したって、めでたいニュースの後ろに持ってくるやつがいるんだよ。おまえら自宅学習しかしてないガキと一緒か⁈」
——そもそもの発端は、エンドルフィンが放送前のニュース原稿をメンバーに渡して、並べてみろと言ったことにある。
珍しいことだが、毎日付き人として雁首並べてるだけでは、エンドルフィンの仕事がどんなものか体感できないだろう、との親心だった。
ランドスケープオブメルシーのメンバーは集まって一生懸命相談しながら原稿を並べ替えた。決していい加減に仕事したわけじゃない。
ところが、いざ本番前にエンドルフィンが原稿を確認すると、出鱈目だった、というわけだ。
「危なく本番中に原稿並べ替えるとこだよ。何のために勉強させてやってると思ってんのよ。そのすっとぼけた頭の中身を総入れ替えしてやるためだろうが。こう言っちゃなんだけど、アウェンティヌスで自宅学習してる十歳の子だって、こんなの朝飯前にやるわよ。国が違う、時勢が違う、社会が違う! その格差を埋めるために、勉強、勉強、勉強!! 言っておくけど、ただ机にへばりついてるだけじゃ、なんにもわからないから。もうダメ、もう許さん、パラティヌスに送り返してやる――!!」
ムキーッと青筋を立てて憤慨するエンドルフィン。
ここまでか、とランドスケープオブメルシーのメンバーが思った時、助け船が入った。
「まぁまぁ、エンドルフィンさん。彼らもわざと順番を間違えたわけじゃないですし……」
キャスターのヒロシ・アカザだった。
七三分けの黒髪に、真面目そうなシリアスな顔とスーツがトレードマークのお昼の顔だ。三十代後半と若い。
「助太刀無用よ、ヒロシちゃん。こいつらに甘い顔すると、怠け根性を発揮するからね」
「思い出すなぁ……エンドルフィンさんが初めてこのスタジオに入ってテンパってた時、本番中にニュース原稿を落っことしましたっけね」
「!」
エンドルフィンの動作が止まる。
「君たち、心配することないよ。エンドルフィンさんは数々の伝説を築き上げた勇者なんだ。その懐は海より深く山より大きいんだからね」
「……今、それを言うかね、ヒロシちゃん」
「なかなかどうして、ベストタイミングでしょ?」
今でこそ国内最強のコメンテーターの評がついて回るエンドルフィンだが、初めは手痛い失敗を繰り返してきた。
女性タレントへの突っ込みが酷すぎて本番中に泣かせる、ゲームをすれば空気が読めずに一人勝ちしてしまう。ゲストコメンテーターに恥をかかせる、スタッフをコテンパンにやっつける。司会者がまとめきれない暴走をする……。
放送界の癌とまで言われたエンドルフィンを支え続けたのは、超一流のプライドとお茶の間の視聴者だった。
南国フルーツのようにビビットな(ポール談)エンドルフィンの特殊な毒はお茶の間を魅了した。
彼らの後ろ盾があったおかげで、干されずに済んだ。
それをまざまざと思い出して、エンドルフィンはフーッと息を吐いた。
「……しょうがないわね。ヒロシちゃんに免じて許そうじゃないの」
「あ、ありがとうございます!」
「そうこなくっちゃ」
キラキラした男たちの視線は悪いものじゃない。
「ヒロシちゃん、こいつらでよければスタジオ引けた後、一緒に飲みに行かない?
奢らせてもらうからさ」
「面白そうだなぁ……今度是非。皆さん同世代みたいだし、語り合いましょうよ」
「はい、光栄です」
ランドスケープオブメルシーを代表して、ハンスが言った。
エンドルフィンは一言。
「どうせ四十代のじじぃですよ」
アウェンティヌスの国営放送のスタジオで、男性の低い裏返った声が響く。
声の主はもちろん、この国の人気コメンテーター、エンドルフィン・ハイアー。
そして、彼女の前で正座させられているのは、パラティヌス童話の里の団体、ランドスケープオブメルシーだった。
ここは一般人が多く集うところ。
エンドルフィンが風刺の里のエキスパートということは伏せられている。
ランドスケープオブメルシーのメンバーは、新しい付き人としてスタジオに出入りしていた。
激昂するエンドルフィンは、簡易テーブルのパイプ椅子に陣取り、足を組みながらバン、と丸めたニュース原稿をテーブルに叩きつけた。
ビクッと身体を震わせるランドスケープオブメルシーのメンバー。
「重大ニュースはトップに持ってくんだよ! どこの世界にどこぞの大臣が失脚したしょぼいニュースと、アウェンティヌスの農産物が過去最高輸出量に達したって、めでたいニュースの後ろに持ってくるやつがいるんだよ。おまえら自宅学習しかしてないガキと一緒か⁈」
——そもそもの発端は、エンドルフィンが放送前のニュース原稿をメンバーに渡して、並べてみろと言ったことにある。
珍しいことだが、毎日付き人として雁首並べてるだけでは、エンドルフィンの仕事がどんなものか体感できないだろう、との親心だった。
ランドスケープオブメルシーのメンバーは集まって一生懸命相談しながら原稿を並べ替えた。決していい加減に仕事したわけじゃない。
ところが、いざ本番前にエンドルフィンが原稿を確認すると、出鱈目だった、というわけだ。
「危なく本番中に原稿並べ替えるとこだよ。何のために勉強させてやってると思ってんのよ。そのすっとぼけた頭の中身を総入れ替えしてやるためだろうが。こう言っちゃなんだけど、アウェンティヌスで自宅学習してる十歳の子だって、こんなの朝飯前にやるわよ。国が違う、時勢が違う、社会が違う! その格差を埋めるために、勉強、勉強、勉強!! 言っておくけど、ただ机にへばりついてるだけじゃ、なんにもわからないから。もうダメ、もう許さん、パラティヌスに送り返してやる――!!」
ムキーッと青筋を立てて憤慨するエンドルフィン。
ここまでか、とランドスケープオブメルシーのメンバーが思った時、助け船が入った。
「まぁまぁ、エンドルフィンさん。彼らもわざと順番を間違えたわけじゃないですし……」
キャスターのヒロシ・アカザだった。
七三分けの黒髪に、真面目そうなシリアスな顔とスーツがトレードマークのお昼の顔だ。三十代後半と若い。
「助太刀無用よ、ヒロシちゃん。こいつらに甘い顔すると、怠け根性を発揮するからね」
「思い出すなぁ……エンドルフィンさんが初めてこのスタジオに入ってテンパってた時、本番中にニュース原稿を落っことしましたっけね」
「!」
エンドルフィンの動作が止まる。
「君たち、心配することないよ。エンドルフィンさんは数々の伝説を築き上げた勇者なんだ。その懐は海より深く山より大きいんだからね」
「……今、それを言うかね、ヒロシちゃん」
「なかなかどうして、ベストタイミングでしょ?」
今でこそ国内最強のコメンテーターの評がついて回るエンドルフィンだが、初めは手痛い失敗を繰り返してきた。
女性タレントへの突っ込みが酷すぎて本番中に泣かせる、ゲームをすれば空気が読めずに一人勝ちしてしまう。ゲストコメンテーターに恥をかかせる、スタッフをコテンパンにやっつける。司会者がまとめきれない暴走をする……。
放送界の癌とまで言われたエンドルフィンを支え続けたのは、超一流のプライドとお茶の間の視聴者だった。
南国フルーツのようにビビットな(ポール談)エンドルフィンの特殊な毒はお茶の間を魅了した。
彼らの後ろ盾があったおかげで、干されずに済んだ。
それをまざまざと思い出して、エンドルフィンはフーッと息を吐いた。
「……しょうがないわね。ヒロシちゃんに免じて許そうじゃないの」
「あ、ありがとうございます!」
「そうこなくっちゃ」
キラキラした男たちの視線は悪いものじゃない。
「ヒロシちゃん、こいつらでよければスタジオ引けた後、一緒に飲みに行かない?
奢らせてもらうからさ」
「面白そうだなぁ……今度是非。皆さん同世代みたいだし、語り合いましょうよ」
「はい、光栄です」
ランドスケープオブメルシーを代表して、ハンスが言った。
エンドルフィンは一言。
「どうせ四十代のじじぃですよ」
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