パイオニアオブエイジ~NWSかく語りき〜

どん

文字の大きさ
272 / 276

第27話『ランドスケープオブメルシー』

しおりを挟む
「何してくれんの、あんたたち!」
 アウェンティヌスの国営放送のスタジオで、男性の低い裏返った声が響く。
 声の主はもちろん、この国の人気コメンテーター、エンドルフィン・ハイアー。
 そして、の前で正座させられているのは、パラティヌス童話の里の団体、ランドスケープオブメルシーだった。
 ここは一般人が多く集うところ。
 エンドルフィンが風刺の里のエキスパートということは伏せられている。
 ランドスケープオブメルシーのメンバーは、新しい付き人としてスタジオに出入りしていた。
 激昂するエンドルフィンは、簡易テーブルのパイプ椅子に陣取り、足を組みながらバン、と丸めたニュース原稿をテーブルに叩きつけた。
 ビクッと身体を震わせるランドスケープオブメルシーのメンバー。
「重大ニュースはトップに持ってくんだよ! どこの世界にどこぞの大臣が失脚したしょぼいニュースと、アウェンティヌスの農産物が過去最高輸出量に達したって、めでたいニュースの後ろに持ってくるやつがいるんだよ。おまえら自宅学習しかしてないガキと一緒か⁈」
 ——そもそもの発端は、エンドルフィンが放送前のニュース原稿をメンバーに渡して、並べてみろと言ったことにある。
 珍しいことだが、毎日付き人として雁首並べてるだけでは、エンドルフィンの仕事がどんなものか体感できないだろう、との親心だった。
 ランドスケープオブメルシーのメンバーは集まって一生懸命相談しながら原稿を並べ替えた。決していい加減に仕事したわけじゃない。
 ところが、いざ本番前にエンドルフィンが原稿を確認すると、出鱈目だった、というわけだ。
「危なく本番中に原稿並べ替えるとこだよ。何のために勉強させてやってると思ってんのよ。そのすっとぼけた頭の中身を総入れ替えしてやるためだろうが。こう言っちゃなんだけど、アウェンティヌスで自宅学習してる十歳の子だって、こんなの朝飯前にやるわよ。国が違う、時勢が違う、社会が違う! その格差を埋めるために、勉強、勉強、勉強!! 言っておくけど、ただ机にへばりついてるだけじゃ、なんにもわからないから。もうダメ、もう許さん、パラティヌスに送り返してやる――!!」
 ムキーッと青筋を立てて憤慨するエンドルフィン。
 ここまでか、とランドスケープオブメルシーのメンバーが思った時、助け船が入った。
「まぁまぁ、エンドルフィンさん。彼らもわざと順番を間違えたわけじゃないですし……」
 キャスターのヒロシ・アカザだった。
 七三分けの黒髪に、真面目そうなシリアスな顔とスーツがトレードマークのお昼の顔だ。三十代後半と若い。
「助太刀無用よ、ヒロシちゃん。こいつらに甘い顔すると、怠け根性を発揮するからね」
「思い出すなぁ……エンドルフィンさんが初めてこのスタジオに入ってテンパってた時、本番中にニュース原稿を落っことしましたっけね」
「!」
 エンドルフィンの動作が止まる。
「君たち、心配することないよ。エンドルフィンさんは数々の伝説を築き上げた勇者なんだ。その懐は海より深く山より大きいんだからね」
「……今、それを言うかね、ヒロシちゃん」
「なかなかどうして、ベストタイミングでしょ?」
 今でこそ国内最強のコメンテーターの評がついて回るエンドルフィンだが、初めは手痛い失敗を繰り返してきた。
 女性タレントへの突っ込みが酷すぎて本番中に泣かせる、ゲームをすれば空気が読めずに一人勝ちしてしまう。ゲストコメンテーターに恥をかかせる、スタッフをコテンパンにやっつける。司会者がまとめきれない暴走をする……。
 放送界の癌とまで言われたエンドルフィンを支え続けたのは、超一流のプライドとお茶の間の視聴者だった。
 南国フルーツのようにビビットな(ポール談)エンドルフィンの特殊な毒はお茶の間を魅了した。
 彼らの後ろ盾があったおかげで、干されずに済んだ。
 それをまざまざと思い出して、エンドルフィンはフーッと息を吐いた。
「……しょうがないわね。ヒロシちゃんに免じて許そうじゃないの」
「あ、ありがとうございます!」
「そうこなくっちゃ」
 キラキラした男たちの視線は悪いものじゃない。
「ヒロシちゃん、こいつらでよければスタジオ引けた後、一緒に飲みに行かない?
奢らせてもらうからさ」
「面白そうだなぁ……今度是非。皆さん同世代みたいだし、語り合いましょうよ」
「はい、光栄です」
 ランドスケープオブメルシーを代表して、ハンスが言った。
 エンドルフィンは一言。
「どうせ四十代のじじぃですよ」




















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

ショートざまぁ短編集

福嶋莉佳
恋愛
愛されない正妻。 名ばかりの婚約者。 そして、当然のように告げられる婚約破棄。 けれど―― 彼女たちは、何も失っていなかった。 白い結婚、冷遇、誤解、切り捨て。 不当な扱いの先で、“正しく評価される側”に回った令嬢たちの逆転譚を集めた短編集。

完 独身貴族を謳歌したい男爵令嬢は、女嫌い公爵さまと結婚する。

水鳥楓椛
恋愛
 男爵令嬢オードリー・アイリーンはある日父が負った借金により、大好きな宝石だけでは食べていけなくなってしまった。そんな時、オードリーの前に現れたのは女嫌いと有名な公爵エドワード・アーデルハイトだった。愛する家族を借金苦から逃すため、オードリーは悪魔に嫁ぐ。結婚の先に待ち受けるのは不幸か幸せか。少なくとも、オードリーは自己中心的なエドワードが大嫌いだった………。  イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

姉の婚約者と結婚しました。

黒蜜きな粉
恋愛
花嫁が結婚式の当日に逃亡した。 式場には両家の関係者だけではなく、すでに来賓がやってきている。 今さら式を中止にするとは言えない。 そうだ、花嫁の姉の代わりに妹を結婚させてしまえばいいじゃないか! 姉の代わりに辺境伯家に嫁がされることになったソフィア。 これも貴族として生まれてきた者の務めと割り切って嫁いだが、辺境伯はソフィアに興味を示さない。 それどころか指一本触れてこない。 「嫁いだ以上はなんとしても後継ぎを生まなければ!」 ソフィアは辺境伯に振りむいて貰おうと奮闘する。 2022/4/8 番外編完結

処理中です...