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第27話『サバラス老人と孫』
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カエリウス炎樹の森、因果界のサバラス老人の小屋——。
「おじいちゃん、会いたかった!」
「おおっ、マナ、元気そうじゃな」
孫のマナが遊びに来た。
駆け寄って抱き合う。
久しぶりに会った孫は香水をつけていた。
恋をしているというのは本当らしい。
「ちょっと見ない間に大人になったなぁ」
「そ、そうかなぁ。ちっちゃいから、みんなにからかわれてばっかりなんだよ」
「化粧も様になっとる」
「……公務員だから、普段はナチュラルメイクなの。でも、お休みの時は気合いが入るんだぁ」
「デートするんじゃな」
「あ、パパかママから聞いた? そうなの、二年越しの片思いが実ったんだよ
「大したもんだな、マナ! 病気もすっかり良くなったみたいじゃないか」
「うん、それはパパとママのおかげ。あたしだけじゃどうにもならなかったと思うし。方々走り回ってベストな治療法を見つけてくれたから」
「そうか、ヨーザンもネリも苦労したんじゃな」
「おじいちゃんにも感謝してるよ」
「?」
「家の水道水……パラティヌスの北端国セライの上水道からの水にねじ替えてくれたでしょ、修法で」
「——知っとったのか」
マナはひどいアレルギーで、肌がアトピーのように赤く腫れあがってしまう病気を患っていた。
治療のため、カエリウスの首都マーチで暮らしたいという親子を、サバラスは引き留めなかった。
泣く泣く別れた後、新居の水道管に遠隔操作でアクアリレーエクスチェンジという修法を施しておいた。
もちろん、パラティヌスの上水道局も知らないことだが、万世の秘法経由で申請すると許可が下りるのだ。
最初にそれに気づいたのはネリだった。
余所からいただいた料理はカルキ臭があるのに、家のはまったく臭いがしない。
ヨーザンに伝えると、万世の秘法を習い始めていた彼は、もしやと水道の元栓を見て、高度な修法が施されているのを突き止めたのだった。
「……おじいちゃん、なんにも言ってくれないけど、こうして応援してくれるんだね、ってみんなで感動したの。お水、大切に飲んだよ。お料理もおいしかったし、お風呂も気持ちよかった。病気は二年で全快したよ。お医者様も不思議がってた。「この国のアレルギー患者は年々増えていくのに、完治させるなんてまさに奇跡ですよ」って。他の方にはお気の毒だけど、私たちにはおじいちゃんがついてるから、みんなで力を合わせて生活しよう、って決めたの。私が表の修法者になったら、この国の水道水の改善に挑戦したいなと思って。どう思う? おじいちゃん」
「それは立派な心がけじゃな。苦しんどる他の人のために正しく修法を使うことは、万世の秘法の基本方針だ。大いにやりなさい、儂も応援しよう」
「ありがとう! おじいちゃん」
腕に抱きつくマナ。近づいたその頬はピンク色だ。
「まぁまぁ、立ち話もなんじゃ。座って話そうじゃないか」
「うん」
暖炉が赤々と燃える側で、老人と孫は熱々のミルク片手に語り合う。
「フフッ」
「どうしたの、おじいちゃん?」
思い出し笑いをするサバラス老人に、きょとんとするマナ。
「いやな、年初めに炎樹の森に仕事に来た、NWSという連中がいてな。儂はぶっきらぼうに相対したんじゃが、その日に小屋のトイレを借りに駆け込んだ女の子がいたんじゃよ」
「へぇーっ」
そう、それが奇跡の始まりだった。
「まさか追い出すわけにもいかんから、暖炉にあたらせて熱々のミルクを飲ませて……これがマナによく似た年恰好の女の子でな。素直で礼儀正しくてかわいらしくて、マナもこんなふうになったかなと想像しとったよ」
「そうだったの……私、会ってみたいな。その女の子に」
「おお、そう言えばヨーザンから聞いたかね。世界の大変革の後にみんなでパラティヌスに旅行に行くって話」
「もちろんよ、有休消化しないで取っておくんだ。一週間くらい連続で取ろうかと思って」
「おいおい、彼氏はどうするんじゃ」
「だって、彼氏が課長なの。あとお願いね、って言っといたわ」
「おやまぁ、そしたらなんだって?」
「仕事を山にしてお帰りをお待ちしています、ですって。あとが怖いわ」
「公私混同しない上司でよかったの」
あははは、と心置きなく笑い合うのだった。
」
「おじいちゃん、会いたかった!」
「おおっ、マナ、元気そうじゃな」
孫のマナが遊びに来た。
駆け寄って抱き合う。
久しぶりに会った孫は香水をつけていた。
恋をしているというのは本当らしい。
「ちょっと見ない間に大人になったなぁ」
「そ、そうかなぁ。ちっちゃいから、みんなにからかわれてばっかりなんだよ」
「化粧も様になっとる」
「……公務員だから、普段はナチュラルメイクなの。でも、お休みの時は気合いが入るんだぁ」
「デートするんじゃな」
「あ、パパかママから聞いた? そうなの、二年越しの片思いが実ったんだよ
「大したもんだな、マナ! 病気もすっかり良くなったみたいじゃないか」
「うん、それはパパとママのおかげ。あたしだけじゃどうにもならなかったと思うし。方々走り回ってベストな治療法を見つけてくれたから」
「そうか、ヨーザンもネリも苦労したんじゃな」
「おじいちゃんにも感謝してるよ」
「?」
「家の水道水……パラティヌスの北端国セライの上水道からの水にねじ替えてくれたでしょ、修法で」
「——知っとったのか」
マナはひどいアレルギーで、肌がアトピーのように赤く腫れあがってしまう病気を患っていた。
治療のため、カエリウスの首都マーチで暮らしたいという親子を、サバラスは引き留めなかった。
泣く泣く別れた後、新居の水道管に遠隔操作でアクアリレーエクスチェンジという修法を施しておいた。
もちろん、パラティヌスの上水道局も知らないことだが、万世の秘法経由で申請すると許可が下りるのだ。
最初にそれに気づいたのはネリだった。
余所からいただいた料理はカルキ臭があるのに、家のはまったく臭いがしない。
ヨーザンに伝えると、万世の秘法を習い始めていた彼は、もしやと水道の元栓を見て、高度な修法が施されているのを突き止めたのだった。
「……おじいちゃん、なんにも言ってくれないけど、こうして応援してくれるんだね、ってみんなで感動したの。お水、大切に飲んだよ。お料理もおいしかったし、お風呂も気持ちよかった。病気は二年で全快したよ。お医者様も不思議がってた。「この国のアレルギー患者は年々増えていくのに、完治させるなんてまさに奇跡ですよ」って。他の方にはお気の毒だけど、私たちにはおじいちゃんがついてるから、みんなで力を合わせて生活しよう、って決めたの。私が表の修法者になったら、この国の水道水の改善に挑戦したいなと思って。どう思う? おじいちゃん」
「それは立派な心がけじゃな。苦しんどる他の人のために正しく修法を使うことは、万世の秘法の基本方針だ。大いにやりなさい、儂も応援しよう」
「ありがとう! おじいちゃん」
腕に抱きつくマナ。近づいたその頬はピンク色だ。
「まぁまぁ、立ち話もなんじゃ。座って話そうじゃないか」
「うん」
暖炉が赤々と燃える側で、老人と孫は熱々のミルク片手に語り合う。
「フフッ」
「どうしたの、おじいちゃん?」
思い出し笑いをするサバラス老人に、きょとんとするマナ。
「いやな、年初めに炎樹の森に仕事に来た、NWSという連中がいてな。儂はぶっきらぼうに相対したんじゃが、その日に小屋のトイレを借りに駆け込んだ女の子がいたんじゃよ」
「へぇーっ」
そう、それが奇跡の始まりだった。
「まさか追い出すわけにもいかんから、暖炉にあたらせて熱々のミルクを飲ませて……これがマナによく似た年恰好の女の子でな。素直で礼儀正しくてかわいらしくて、マナもこんなふうになったかなと想像しとったよ」
「そうだったの……私、会ってみたいな。その女の子に」
「おお、そう言えばヨーザンから聞いたかね。世界の大変革の後にみんなでパラティヌスに旅行に行くって話」
「もちろんよ、有休消化しないで取っておくんだ。一週間くらい連続で取ろうかと思って」
「おいおい、彼氏はどうするんじゃ」
「だって、彼氏が課長なの。あとお願いね、って言っといたわ」
「おやまぁ、そしたらなんだって?」
「仕事を山にしてお帰りをお待ちしています、ですって。あとが怖いわ」
「公私混同しない上司でよかったの」
あははは、と心置きなく笑い合うのだった。
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