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第27話『それぞれの聖人降誕祭』
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カフェ、ビアンコディアマンテ――。
「店長、ミニコンサートの看板を搬入していいかって、業者から連絡ありましたよ」
店長、ドミンゴ・ボアは外出先から帰ってきて、チーフからそう報告を受けた。
「ああ、搬入OKだから、折り返し連絡して」
「わかりました」
机の上に包装されたプレゼントの紙袋が置かれた。
聖人降誕祭にはお客にちょっとしたプレゼントを配る。
ハーブティーとかキャンドルとかレターセット。バスボムなどの消耗品だが、店長セレクトが結構評判を呼んでいるのだ。
それから家族や親戚の物。
スタッフ全員分のプレゼントもある。
そして――今年は愛するパティへの贈り物も。
厚手のストールにした……初めて会った日、夜の海で語らった時に持参したストールが気に入ったのか、パティは店に遊びに来るたびにファッションに取り入れていた。
嬉しくて嬉しくて、この冬流行のワインレッドの鮮やかなチェックのストールにしたのだが、受け取ってくれるだろうか。
それから、バラが好きな彼女のために、故郷コンバスから最高ランクの香水を取り寄せておいた。
お友達のメグやミルラたちの分はオードトワレにしておいたのだが、後で問題になったらどうしよう、などと変に気を回す。
「あともう少しですね、聖人降誕祭——」
チーフが声をかけてきた。
「そうだね、恋人とのスペシャルディナーの予約は取れたかい?」
「はい、おかげさまで。メーテス郊外のレストランでディナーが取れましたよ」
「それはよかった。お休み、取れなくて悪いね」
「いえいえ、稼ぎ時ですから。ミニコンサートも控えてますし、みんなもこの時期特有のテンションでノリがいいですから。こき使ってくださっても文句は出ないと思いますよ」
「毎年思うけど、みんなパワフルだよね。パーティー大好きなんだなぁ」
「しかもボーナスと重なってますからね。このお店は良心的だし、手当もバッチリですから、文句の出ようがないですよ」
「みんなにも楽しんでほしいからね。時間以外はサービスしたいんだよ。仕事にプライベートに、活躍してね」
「心得ました――!」
ユーフォルビア区のノリヒトの家——。
主人は童話の里に往って留守にしていたが、ヨリコとミレイ、ヤスヒコ老人は三人仲良く広い台所でイチゴジャムの瓶詰作業をしていた。
暖房と火鉢で暖かな台所は、冬の間、家族の憩いの場になる。
ミレイが顔をくっつけるようにして、木匙でジャムをガラス瓶へと入れている。
ヨリコが後片付け覚悟でさせてみたら、そのきれいな仕事ぶりに驚いた経緯がある。
ものすごくゆっくりだが……丁寧な丁寧な仕事。
詰め終わって「はい」とヨリコの前に反対側から手を伸ばして瓶を置く、ドヤ顔のミレイ。
「うん、上手上手。やるたびにうまくなるね。ミレイちゃんは農家の才能もあるかもね」
「ホント、おばさん?」
「本当だよ、お医者さんが農業やったっておかしくないでしょ。ほら、おじいちゃんだってこの通りさ」
ヤスヒコ老人はミレイの十倍速で仕事を片付けていた。
「ヨリコさんのおかげで、ミレイはこの季節の風邪も引きません。ありがたいことです」
にこにこ笑うヤスヒコ老人は顔を艶々させて言った。
「いいえ、こちらこそ仕事を手伝ってもらって大助かりですよ。おまけにミレイちゃんまでお手伝い上手で本当に幸運でした。それに、今年はみんなで聖人降誕祭を楽しめると思うと……嬉しくてねぇ」
ヨリコは割烹着をたくし上げて涙を拭った。
「ぼくね、おじいちゃんとおじさんとおばさんにプレゼントを用意したの」
例のお地蔵さんのような笑顔でミレイが言った。
「おやまぁ、こんなにちっちゃいのに大変じゃなかったかい?」
「ううん、童話の里のお兄ちゃんお姉ちゃんが手伝ってくれたから、とっても立派なの。びっくりしないでね」
「はいはい、みんなで楽しみにしてるわね」
「うん!」
アハハ、と笑い声が響いた。
「お、ノリヒトん家は賑やかにやってるな」
トーマスとルイが台所の勝手口にやってきて、イチゴジャムを受け取りに来た。
イチゴジャムはまとめて産直市場まで持っていくのだ。
「この時期は変に気を遣ってたもんだが、それもおしまいだな」
そうだな、と受け合って、二人は笑いながら中に声をかけ、勝手口のドアを開けた。
「店長、ミニコンサートの看板を搬入していいかって、業者から連絡ありましたよ」
店長、ドミンゴ・ボアは外出先から帰ってきて、チーフからそう報告を受けた。
「ああ、搬入OKだから、折り返し連絡して」
「わかりました」
机の上に包装されたプレゼントの紙袋が置かれた。
聖人降誕祭にはお客にちょっとしたプレゼントを配る。
ハーブティーとかキャンドルとかレターセット。バスボムなどの消耗品だが、店長セレクトが結構評判を呼んでいるのだ。
それから家族や親戚の物。
スタッフ全員分のプレゼントもある。
そして――今年は愛するパティへの贈り物も。
厚手のストールにした……初めて会った日、夜の海で語らった時に持参したストールが気に入ったのか、パティは店に遊びに来るたびにファッションに取り入れていた。
嬉しくて嬉しくて、この冬流行のワインレッドの鮮やかなチェックのストールにしたのだが、受け取ってくれるだろうか。
それから、バラが好きな彼女のために、故郷コンバスから最高ランクの香水を取り寄せておいた。
お友達のメグやミルラたちの分はオードトワレにしておいたのだが、後で問題になったらどうしよう、などと変に気を回す。
「あともう少しですね、聖人降誕祭——」
チーフが声をかけてきた。
「そうだね、恋人とのスペシャルディナーの予約は取れたかい?」
「はい、おかげさまで。メーテス郊外のレストランでディナーが取れましたよ」
「それはよかった。お休み、取れなくて悪いね」
「いえいえ、稼ぎ時ですから。ミニコンサートも控えてますし、みんなもこの時期特有のテンションでノリがいいですから。こき使ってくださっても文句は出ないと思いますよ」
「毎年思うけど、みんなパワフルだよね。パーティー大好きなんだなぁ」
「しかもボーナスと重なってますからね。このお店は良心的だし、手当もバッチリですから、文句の出ようがないですよ」
「みんなにも楽しんでほしいからね。時間以外はサービスしたいんだよ。仕事にプライベートに、活躍してね」
「心得ました――!」
ユーフォルビア区のノリヒトの家——。
主人は童話の里に往って留守にしていたが、ヨリコとミレイ、ヤスヒコ老人は三人仲良く広い台所でイチゴジャムの瓶詰作業をしていた。
暖房と火鉢で暖かな台所は、冬の間、家族の憩いの場になる。
ミレイが顔をくっつけるようにして、木匙でジャムをガラス瓶へと入れている。
ヨリコが後片付け覚悟でさせてみたら、そのきれいな仕事ぶりに驚いた経緯がある。
ものすごくゆっくりだが……丁寧な丁寧な仕事。
詰め終わって「はい」とヨリコの前に反対側から手を伸ばして瓶を置く、ドヤ顔のミレイ。
「うん、上手上手。やるたびにうまくなるね。ミレイちゃんは農家の才能もあるかもね」
「ホント、おばさん?」
「本当だよ、お医者さんが農業やったっておかしくないでしょ。ほら、おじいちゃんだってこの通りさ」
ヤスヒコ老人はミレイの十倍速で仕事を片付けていた。
「ヨリコさんのおかげで、ミレイはこの季節の風邪も引きません。ありがたいことです」
にこにこ笑うヤスヒコ老人は顔を艶々させて言った。
「いいえ、こちらこそ仕事を手伝ってもらって大助かりですよ。おまけにミレイちゃんまでお手伝い上手で本当に幸運でした。それに、今年はみんなで聖人降誕祭を楽しめると思うと……嬉しくてねぇ」
ヨリコは割烹着をたくし上げて涙を拭った。
「ぼくね、おじいちゃんとおじさんとおばさんにプレゼントを用意したの」
例のお地蔵さんのような笑顔でミレイが言った。
「おやまぁ、こんなにちっちゃいのに大変じゃなかったかい?」
「ううん、童話の里のお兄ちゃんお姉ちゃんが手伝ってくれたから、とっても立派なの。びっくりしないでね」
「はいはい、みんなで楽しみにしてるわね」
「うん!」
アハハ、と笑い声が響いた。
「お、ノリヒトん家は賑やかにやってるな」
トーマスとルイが台所の勝手口にやってきて、イチゴジャムを受け取りに来た。
イチゴジャムはまとめて産直市場まで持っていくのだ。
「この時期は変に気を遣ってたもんだが、それもおしまいだな」
そうだな、と受け合って、二人は笑いながら中に声をかけ、勝手口のドアを開けた。
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