多分嫌いで大好きで

ooo

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 大学を辞めた。
 引っ越しをした。前の家から電車で1時間半もかかるところ。

 スマホを変えた。電話番号を変えた。
 もちろんアプリはデータさえ残っていない。

「あれからもう半年かぁ…」

 前の家より少し狭い1Kの中で呟いた。前とは違って声が響くような孤独は感じない気がする。
 子供用のもので溢れているからだろうか。

 あの後俺は妊娠した。
 体になにか妊娠の兆候があった訳じゃない。あの時俺は記憶がなかった。だからもしもの時のことを考えて検査をした。

 妊娠検査薬に薄い線が出てきて、本当に薄くて、自分じゃ判断できなかった。

 だから婦人科に行った。
 周りは幸せそうなベータの女性とオメガでいっぱいだったのを覚えている。その隣に旦那さんと思われる人が付き添っていたのも。
 先生は優しそうなベータの男性だった。事情を話して妊娠検査薬の写真を見せた。
 検査をしてもらったらやっぱり妊娠していた。

 まだ膨らんでいない自分のお腹に小さい命が宿っているなんて、全然想像できなかった。
 でも嫌じゃなかった。いや、嫌という気持ちはあったのかもしれない。でもあの人との繋がりだと思うとなぜだか愛おしく感じた。

 番のいないオメガの末路は誰もが知っている。発情期になれば唯一無二の番を求め荒れ狂う。1週間が永遠に感じるほど辛い発情期が待っているのだ。そして発情期が終わっても番が自分のところにいないという喪失感で心を病んでいく。
 それがオメガ

 自分がそうなるとは限らない。けどいつそうなってもおかしくない。
 俺には今お腹の中に赤ちゃんがいる。多分それで番との繋がりを感じているからまだ大丈夫なんだと思う。

 ーー怖いなぁ

 全部が怖いな

 初めての番、妊娠、子育て

 施設で育った俺は親の愛情なんて知らない。だけどこの子のことは幸せにしたい。
 貧乏大学生で節約していたこともあって、少しながら貯金はある。今はそれでやりくりしているけど仕事をしなくては底をつく。
 前のバイトは大学を辞める時に一緒に辞めてしまった。いきなりだったからオーナーや職場の人には迷惑をかけてしまったと思う。

 就活雑誌を1ページずつ読んでいく。
 時給がいい所。妊婦でも受け入れてくれるところ。ずっと働かせてくれるところ。
 内容はなんでも良かった。がむしゃらに働こうと思った。

 "オメガOK!
 各バースでの福利厚生完備。"

 ーー各バースで福利厚生があるなんて珍しい

 ページをめくる手が止まり、会社名を調べてみる。ネットでヒットしたのはそこそこ大きな会社。その上に親会社もいて、子会社も持っているようなところだった。
 そんな会社なら俺なんて応募しても落ちそうだけど……そう思いながら読んでいくとある口コミが目に入った。

「この会社のコールセンターでパートしてました。パートにも福利厚生が手厚くとてもいいところでした。だもコールセンターはほとんどクレーム対応で、精神的にキツかったです。」

 あぁだからこんな雑誌にも堂々と乗っていたのか。

 パート、あわよくば正社員に。

 人手不足なら自分でももしかしたら雇って貰えるかもしれない。スマホの電話帳を開き、書いてある電話番号に電話した。

 プルルル

 やっと1つ希望が見えたかもしれない




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