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lost memory

出会う者たち、再開する者たち

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 凍えるような風に頬を撫でられ目が覚める。
視界には紅く染まった空が構え、端の方では木の葉がゆらゆらと揺れていた。
立ち上がり辺りを見回すが木々が生い茂るばかり。
どうやらここは森のようだ。
「なんで森なんかに…」
自分の状況が分からなく、不安から自然と声が出る。
呆然としていたが、それが仇になったことをすぐに知ることになった。

ガザガザと草が揺れる。
背筋が凍り、体が硬直した。
不審な影はゆっくりと、しかし確実にこちらに迫ってくる。
心臓の鼓動が早くなり息苦しさを感じる。
恐怖で足が鉄のように重くなり、思うように体が動かない。

目の前の茂みが揺れ、ヤツがどれだけ近づいてきたかもの語る。
恐怖が最高潮に達し頭が真っ白になった。
現実から目を逸らそうとするがそれができる余裕はない。

木の葉の隙間から見える純白の毛並み。
そいつはどう見ても、、、、
どこにでもいる子犬にしか見えなかった。
張りつめた緊張感が一気に切れたせいか、
力が抜けヘロヘロと座り込んでしまった。
そんな俺の様子に気遣ったのか子犬はこちらに近づき上目遣いでこちらを見つめくる。
「う、、可愛い、。」
思わず手を犬の頭に乗せ、ナデナデすると気持ち良さそうに尻尾を全力で振った。
可愛すぎて抱きついて頬ずりしたくなる欲求が生まれるが、刻一刻と夜は迫ってくる。
立ち上がり辺りを見回すが、景色は変わるわけがなく思わずため息を漏らす。

焚き木でも集めるかとも考えるが、火の付け方を教わった事のない俺にはどうすることもできない。
「早く家族の元に帰りたいな。。。」

家族???

俺の家族って?
なんでこんな場所に?
そんな疑問が一気に沸く。
その瞬間頭から電流が一気に体全身に駆け抜け激痛が走った。
「ぎゃああぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」
喉が痛くなるくらいの叫び声が出て、意識がどんどん遠退いていく。
誰かを思うこともなく、
地面にキスをしながら意識はプツンと切れた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「いけない!もうこんな時間!」
年端もいかない少女は紅く染まった空を見上げそう嘆く。
流れ星が一筋流れるがそれに願い事する時間はない。
未だ山菜で満たされてないカゴを背負い急いで村に向かう支度をした。
まだ採り足らなさそうな彼女だが、村の男衆でも迷える夜の森は当然彼女にとっても入りたくない場所であった。
山菜採りに行くたびに母親から注意を受け、それに答えるように日が暮れる前に村に戻っていたが、今日はいつのまにか時間が過ぎ去り日が暮れていた。

それが長い間仕事をやっていたという自負からくる慢心によるものだったのかは彼女にしかわからない。

昼来た道を辿り山を下る。
焦りと疲れから汗が体から大量に出て、息が上がる。
気の強さは村の男子に勝る村娘。
だが所詮は14歳の幼き少女。
体力などはたかが知れてる。
走るペースはどんどん落ち、ふもと付近に着く頃には歩くしかなかった。

そんな彼女を急かすように辺りはどんどん暗くなってゆく。
夜を代表するフクロウなどのさえずりが彼女を一層焦らせた。
茂みがカサカサと揺れ、緊張感が上乗せされる。

村の明かりが遠くに見えた頃だろうか。
道のど真ん中に人が横たわっているのが見えた。
微塵も動かないその人を見れば寝ているのかもしくは何か異常が起こったのだという予測は年若い彼女でもできる。
前者であることを願いつつ、彼女は倒れている人の元へ小走りに近寄っていった。

木々の間から差し込む微かな光。
群青色の髪とまだ幼さが抜けきれてない男子の顔を照らしていた。
彼女はゴクリと唾を飲み込み恐る恐るその人に近づき声をかけてみる。
「すいません。起きてますか?」
小声になってしまったが相手には伝わった筈だ。
しかし、起きる気配は全くない。
そんな彼の肩を揺らし起こそうと努力するが全く起きる気配はなかった。
なんとか起こそうという彼女の努力も虚しく彼は一向に起きる気配がない。
どうやら後者のようだ。
当たらなかった願いが疲労に拍車をかけ気を失った彼の前で座り込んでしまった。
どうやって彼を運ぼうか、考えるが良い案が頭に一切思い浮かばない彼女。
無情にも時間は過ぎてゆく。
焦りが思考を更に混乱させてゆく。
今は諦めて後で大人に運ぶのをお願いしようと思ったらその時、
「父さん…」
彼の口から出た言葉。
それに同情しまったからだろうか。
自然と彼女の手は彼の手を握っていた。
彼女は自分と同じ境遇かもしれない少年を置いてはいけなかった。
同じくらいの背丈がある彼をおぶってなんとか前に進もうと足を踏み出す。
一歩ずつ、遅いが前に向かって進んで行く。
しかし彼女の足は限界に近づいていた。
下山による体力の消耗。
2年間上り下りしたこの山道だったが、初めての夜の森で密集した木の中では視界が悪く幾度となくこけた。
普段とは違う帰り道は彼女の体力を彼女が思う以上に減らしていたのだ。
結局10mほどしか進めず、
彼を下ろし休憩した。
辺りは真っ暗になりなにが出てくるかわからない。
村の方を見てみるとこちらに向かってゆらゆら揺れる火の玉のようなものが見えた。
背筋がひんやりした彼女だったがそれに照らされる見知った顔に安堵した。

どうやら隣人のロイさんが彼女の帰宅の遅さを心配し探しにきてくれたらしい。

「ロイさーん!ここでーす!」

彼女がそう叫ぶとロイはさっきよりもペースをあげて走ってきてくれた。

「ユイちゃん。ダメじゃねえか!
    こんな遅くなっちゃあ。」

ロイは怒鳴ったがその言葉には確かに優しさが含まれていた。

「すいません。
   山菜採りに夢中になってしまって。」

申し訳なさそうにユイが言うとロイは不思議そうに

「それはしょうがない。
   だがその背負っている子はだれだ?
   まさか~彼氏か??」

そう茶化してきた。

「馬鹿言わないでください!
   道の途中で倒れてたんです。
   どうやら気を失っているらしくて、
   ロイさん運んでくれませんか?」

ユイは少し赤面しながらもロイに言う。

「もちろん構わないぞ。
   それにしてもユイちゃん大丈夫か?
  ものすごく疲れているみたいだけど。」

ロイは少年を担ぎながら心配そうに言う。

「大丈夫です。それよりもその子を早く連れて帰りましょう。」

もちろん大丈夫ではないが、少年の様子を気にしたユイは早く村に帰りたいがために嘘をつく。
そんな嘘をロイが見破れないはずがなかったが、彼女の意見を尊重したかったロイはわざとユイがこれ以上疲れないくらいのペースで歩き始めた。
ユイもロイについてゆく。

ある程度歩くとロイは口を開いた。

「とりあえず意識が戻るまでは村長の家に泊めさせてやりたいんだが…いいか?」

ロイはユイに許可を請うがユイは困り顔で

「14歳の私にそんなこと聞かないでください。
まだまだ子供ですよ。」

と言った。

「お嬢ちゃん本当に14歳か⁈
   大人びていてどっかのお嫁さんかと思ったよ。」

茶化すロイ。

「私が歳の割に老けてるって言いたいんですか?」

不満げに返答するユイだったが
ロイが自分の気持ちをほぐすために言ってくれたことはわかっていた。

その後、ロイとユイは他愛もない話をしながら村に向かっていった。
しかし村に近づくにつれユイの表情強張り口数は少なくなってゆく。
母への罪悪感がユイをそうさせたのであった。

さてユイの母親、エイダは家の外で待っていた。
目を赤くし涙を浮かべユイの帰りを待っていたのだ。
エイダのたった一人の家族、失うわけにはいかないが自分で夜の森の中ユイを探すことは不可能だった。
彼女は娘の帰りの遅さに不安を覚えるとすぐさま隣人のロイに相談し、彼に探しに行ってもらった。
自分の娘を待っている間彼女が感じたことは何もできない自分に対する嫌悪感だけだった。

ユイが村に着いた、彼女を一緒に待ってくれた村の者から聞いた時エルダは目頭が熱くなるのを感じながらも彼女の元へ走った。
エルダは走っている途中石で足がつまずき転びそうになったが、そんなことどうでもよかった。
ユイが、自分の唯一の娘、唯一の家族が帰ってきてくれたことがエルダにとってこの上ない幸福だった。
エイダは門の前にある家の角を曲がり自分の娘が見えた時、ついに涙腺が決壊した。

ユイも今まで溜め込んでいた不安がこみ上げたのだろう。
エイダを見た瞬間に泣きじゃくり、彼女の豊満な胸に飛び込んだ。
母娘どちらも号泣した。
その様子は母娘の深い愛がそっくりそのまま現れたように美しかった。
周りの村人は暖かい目で2人を見守っていた。

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あとがき

あとがきって最後に書いていいんですかね?
なろうの方は大丈夫だったんですがこっちは正直わからなくてちょっとビクビクしてます。。
小説を書いたこと自体が初めてなので間違いがあっても多めに見ていただけるとありがたいです。
感想、アドバイス、批判、なんでも待ってます。
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