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エピローグ
きっとまた会える
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「ちょっと待ちなさい! こらぁ!」
満開の桜が彩る並木道に朝から元気な声が響いた。
「秋桜ぁー!」
「雛乃、ほら、早くー!」
「こんにゃろぉ。コンパス長いからってー、もう怒ったぞー!」
「あはは!」
二人の女子高生がどたばた並木道を駆けていく。
――今度は桜をテーマにしてみようかなぁ。
母、若桜からもらった「桜」の名前が不思議な縁を引き寄せてくれたのではないか。今はそんな風に思っている。不思議な人たちとの、不思議な出会いを。
……桜って、神聖な霊が宿る場所だもんね。
桜のトンネルを駆け抜けながら、秋桜はふと公園の大樹を振り返る。あの二人と初めて出会った場所はあれから四度目の桜に彩られ、生命の息吹に包まれている。
――あれが全部、桜の見せた幻想だったとしても。
視界の端に雛乃が見える。こちらに何か叫んでいるようだが、遠くて聞きとれない。一生懸命な様子が可愛くて、秋桜はふと目を細める。
――真実はどっちだっていい。いつだって、私がどうするか、どうしたいかだから。
そろそろ雛乃との距離が開きすぎたので、秋桜は止まった。
そして真っ直ぐに、桜の間から見える真っ青な空を仰ぐ。
――だからね、打っても響かないかもしれない場所へ、ひたすら、詩を送り続けるよ。宇宙の小さな星たちが、たとえ送った光が返ってこなくても、輝く限り闇に向かって光を送り続けるように。
雛乃がやっと秋桜に追い付いた。前屈みになって肩で大きく息をする。
「もー。朝からそんな走れないって」
「ごめんごめん」
「ぶー」
雛乃はからかわれたことでリスのように頬を膨らませた。すねた雛乃も可愛くてつい笑ってしまう。
「お昼に購買で甘いものでもおごってあげるから」
「マジ!?」
「うん」
「よし。それで水に流そう」
自分の気持ちに正直な雛乃はけろっとご機嫌になる。二人はなんだかおかしくて笑った。
「さ、行こう」
この並木道を抜けて緩やかな坂を登れば高校はすぐそこだ。二人はまた他愛ない会話を交わしながら並んで歩き出した。
――今なら解るよ。夢を叶えるのに必要なのは、泣かない強さじゃなくて、泣きながらでも前を向く強さなんだよね。
あの日結局消さなかった落書きは、秋桜にとって初めての作品となった。きちんとした歌詞に整えて、曲を作り、楽譜に起こしたものを姉の友人がストリートライブで使ってくれたのだ。その時思わぬ反響を呼び、頼まれてまた作品をいくつか作った。秋桜の作品が二十を超えた頃、偶然通りかかった音楽プロデューサーから声をかけられた。うちのプロダクションに提供してくれないかという、雇用契約の誘いだった。秋桜は今そこで、インディーズグループへの作品提供を主に行っている。最近、秋桜の作品でメジャーデビューを果たしたグループが出たと知らされて、本当に嬉しかった。
でも、いつも上手く行っていたわけではなくて。色んなことがあった。それ以上に色んな思いをした。笑うより、泣くことの方が断然多かった。今もそれは変わらない。でも、苦しさの中にも楽しさがあって、辛さの中にも優しさがあって。自分は今でも、この道を歩いている。
人はそうやって、小さな幸せに背中を押されながら、夢への道を歩いていくのだ。孤独や不安、空しさと闘うことに疲れてしまっても。
それでも、好きだから。好きでいたいから。
そして、その先で生まれてきた意味を見つけられたら――。
微風が秋桜の髪を撫でる。そして、桜の花弁と共に空へと舞い上がった。
――ねぇ、桜花、守桜。見ててね。今度は私が、二人に手を伸ばすよ。
満開の桜が彩る並木道に朝から元気な声が響いた。
「秋桜ぁー!」
「雛乃、ほら、早くー!」
「こんにゃろぉ。コンパス長いからってー、もう怒ったぞー!」
「あはは!」
二人の女子高生がどたばた並木道を駆けていく。
――今度は桜をテーマにしてみようかなぁ。
母、若桜からもらった「桜」の名前が不思議な縁を引き寄せてくれたのではないか。今はそんな風に思っている。不思議な人たちとの、不思議な出会いを。
……桜って、神聖な霊が宿る場所だもんね。
桜のトンネルを駆け抜けながら、秋桜はふと公園の大樹を振り返る。あの二人と初めて出会った場所はあれから四度目の桜に彩られ、生命の息吹に包まれている。
――あれが全部、桜の見せた幻想だったとしても。
視界の端に雛乃が見える。こちらに何か叫んでいるようだが、遠くて聞きとれない。一生懸命な様子が可愛くて、秋桜はふと目を細める。
――真実はどっちだっていい。いつだって、私がどうするか、どうしたいかだから。
そろそろ雛乃との距離が開きすぎたので、秋桜は止まった。
そして真っ直ぐに、桜の間から見える真っ青な空を仰ぐ。
――だからね、打っても響かないかもしれない場所へ、ひたすら、詩を送り続けるよ。宇宙の小さな星たちが、たとえ送った光が返ってこなくても、輝く限り闇に向かって光を送り続けるように。
雛乃がやっと秋桜に追い付いた。前屈みになって肩で大きく息をする。
「もー。朝からそんな走れないって」
「ごめんごめん」
「ぶー」
雛乃はからかわれたことでリスのように頬を膨らませた。すねた雛乃も可愛くてつい笑ってしまう。
「お昼に購買で甘いものでもおごってあげるから」
「マジ!?」
「うん」
「よし。それで水に流そう」
自分の気持ちに正直な雛乃はけろっとご機嫌になる。二人はなんだかおかしくて笑った。
「さ、行こう」
この並木道を抜けて緩やかな坂を登れば高校はすぐそこだ。二人はまた他愛ない会話を交わしながら並んで歩き出した。
――今なら解るよ。夢を叶えるのに必要なのは、泣かない強さじゃなくて、泣きながらでも前を向く強さなんだよね。
あの日結局消さなかった落書きは、秋桜にとって初めての作品となった。きちんとした歌詞に整えて、曲を作り、楽譜に起こしたものを姉の友人がストリートライブで使ってくれたのだ。その時思わぬ反響を呼び、頼まれてまた作品をいくつか作った。秋桜の作品が二十を超えた頃、偶然通りかかった音楽プロデューサーから声をかけられた。うちのプロダクションに提供してくれないかという、雇用契約の誘いだった。秋桜は今そこで、インディーズグループへの作品提供を主に行っている。最近、秋桜の作品でメジャーデビューを果たしたグループが出たと知らされて、本当に嬉しかった。
でも、いつも上手く行っていたわけではなくて。色んなことがあった。それ以上に色んな思いをした。笑うより、泣くことの方が断然多かった。今もそれは変わらない。でも、苦しさの中にも楽しさがあって、辛さの中にも優しさがあって。自分は今でも、この道を歩いている。
人はそうやって、小さな幸せに背中を押されながら、夢への道を歩いていくのだ。孤独や不安、空しさと闘うことに疲れてしまっても。
それでも、好きだから。好きでいたいから。
そして、その先で生まれてきた意味を見つけられたら――。
微風が秋桜の髪を撫でる。そして、桜の花弁と共に空へと舞い上がった。
――ねぇ、桜花、守桜。見ててね。今度は私が、二人に手を伸ばすよ。
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