いっぽ

N&N

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第1話

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「あの」

突然声が聞こえたのと同時に、目の前にハンカチが映った。

「大丈夫ですか?顔色が悪いみたいですが」

女性だ。

僕の右横に立っていた会社員らしき女性が、声を掛けてくれたのだ。

うつむいて、じっとしたまま汗をかいているものだから、心配して声を掛けてくれたに違いない。

差し出してくれたハンカチは、これで汗を拭いて、という意味なのだろう。

しかし僕はクラブ用のタオルを持っているし、女性のその綺麗なハンカチに汗をしみ込ませるのは悪い気がして、躊躇した。

しかしそうしているうちに、額の汗は頬を伝って流れてきた。

ここまできたら、ハンカチを受け取るしかない。

頭が痛くて、足元に置いた鞄から即座に自分のタオルは取り出せそうにはなかった。

「すみません」

言葉少なげに女性からハンカチを受け取ると、僕は頭に響かないよう、ゆっくり汗をぬぐった。

「具合、悪いんですか?」

周囲の客がうたた寝している事を気遣って、女性はさっきよりも少し声をひそめた。

「ちょっと頭が痛くて」

頭に響くため、できれば声は出したくなかったが、親切にしてくれている以上、無視するわけにはいかない。

僕は頭の痛みにこらえながら答えた。

「席、譲ってもらいましょうか?」

「いえ、大丈夫です。次で降りますから」

「…そうですか」

女性はそう言うと、再び真正面に向き直ってしまった。
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