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自宅へ入る前にひゅうまの雑貨店が目に入る。

店の入り口がこちらを向いているから仕方ないのかもしれないけど、見たくもないのに見えてしまうのは結構嫌なものだ。

ガラス張りになっていて、店内が丸見えなのも気に入らなかった。

なぜならそこには必ずおれより先に帰ってきているひゅうまの姿もあるからだ。

今日も嫌々ながらちらっと見た店内にはひゅうまの姿があった。

そしてさらにはおれのお母さんの姿もあった。

あろうことか、ひゅうまと何やら談笑している。

見つけた場所がスーパーであればお菓子の1つでもねだるためにかけ寄って行くのだが、ひゅうまの陣地となると話は別だ。

おれは一瞥をくれただけで自分の家へ入った。

ランドセルを放り出して手洗いを済ませると、親がいないのを良いことに早速携帯ゲーム機を取り出し始める。

いつもは1日30分までと厳しく言われているが、言う本人がいないとなるとしめたもの。

起動しながら早速前回までの記憶をよみがえらせる。

えーっと、そうだ。

1度敵にやられてしまったから、回復アイテムを買いにお店に行くところだった。

そうだ、そうだと思い出しながらゲームに没頭していく。

それから20分ほど経った頃だろうか、お母さんが帰ってきた。

「またのぶったらゲームばっかりしてー」

帰ってくるなりおれの手元を見たお母さんが溜息をつく。

「まだ30分たってないよ」

「どうだか。帰ってくるなり誰もいないと思って遊んでいたんでしょう?」

確かにそれはそうだが、それでも約束の30分は過ぎてはいない。

しかし言い訳をしてもきっと愚痴が続くはずだと観念したおれは、ゲームの電源を切った。

ちぇっ、いつもより損した。

こんなことなら帰ってくるまで待っておけば良かった。

「のぶー。夕飯までに宿題も済ませるのよー?」

ゲーム機を所定の位置に戻していると、続けて背後から声が飛んでくる。

おれは仕方なく放り出していたランドセルを引き寄せて、漢字ドリルとノートを取り出した。
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