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おれが黙ったままでいると、お母さんは何かを思い出したように声を上げた。

「そう言えばゼッケン、縫わなきゃいけないんじゃないの?」

そうだ、ゼッケン。

言われるまで忘れていた。

この為に早く帰ってきたというのに。

しかし事情を知らないお母さんが何で知っているんだろう?

「何で知ってるの?」

「ひゅうまくんが言ってたからよ」

ひゅうまか。

おれより先に会っていたのだから、話していても不思議はない。

でも何だか面白くなかった。

ふくれっ面をしながらTシャツとゼッケンを渡す。

「のぶも自分でゼッケンを縫えるようにならなきゃね」

「えー、無理無理。できないよ、そんなの」

突然何を言い出すかと思いきや、おれに自分で縫えだって!?

そんな女子みたいなこと、おれにはできない。

「やってみたら簡単よ。最初と最後は難しいけど、あとは単調な作業なんだから」

「できる人はそう言うんだよ。かんたんなわけないじゃん」

「難しいって思い込んでいるだけよ。ひゅうまくんも自分で縫うんだって」

「そんなのうそだ」

「嘘じゃないわよ。春の時も自分で縫ったって言ってたわ」

春の大会も?

ひゅうまは春の時からゼッケンを自分で縫ったと言うのか?

春の時の様子を思い出してみる。

・・・ダメだ、覚えていない。

ゼッケンなんて気にしているのは審判役の先生だけで、おれ達にはなくても問題ないからそれほど注目していない。

それでも変だったら多少は目につくはずだ。

何も感じなかったということは、完成度は高かったのかもしれない。

それでもひゅうまが縫ったという証拠はどこにもないけど。

「お母さん手伝ってあげるから、のぶもやってみましょ」

そう言ってお母さんは裁縫セットを準備し始めた。

「いやだよー」

おれは広げてあった漢字ドリルとノートを手早くランドセルに詰め直し、玄関に向かった。

「ちょっとのぶ!どこへ行くの!?」

「宿題!マサキの家でやってくる!」

それだけ言い切って、おれはそそくさと家を出た。
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