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お母さんにつかまらないように、全速力でマサキの家へ向かう。

曲がり角の所で後ろを振り返ったけど、お母さんの姿は見えなかった。

どうやら追いかけてくる気はなさそうだ。

おれは息を整え直してマサキの家へ向かった。

ゼッケン縫いなんて、冗談じゃないや。

あんなちまちました作業をしていたら、イライラしてくるに違いない。

そもそもおれ、器用じゃないし。

マサキの家は同級生の中で1番家が近い。

咄嗟にマサキの名前が出たのもそれが理由だった。

曲がり角の先にある公園を過ぎたらもうすぐそこだ。

「おーい、のぶー!!」

突然誰かに名前を呼ばれて、声のする方に顔を向けた。

「のぶー!こっちこっち!」

呼ぶ声は1人ではない。

4,5人がおれの名前を呼んでいる。

見ると、公園の中でおれの姿を見つけた声の主が手招きしていた。

マサキとゆうや・・・あ、そうたもいる。

おれはみんなの呼び声に手を上げて応えながらかけ寄った。

「お前、まだ家に帰ってなかったのかよ」

ランドセル姿のおれを見て、マサキがすかさず突っ込む。

「いや、帰ったんだけどさー、ゼッケンぬってって言ったらいっしょにやろうって言われてにげてきた」

おれは先程のやり取りをかいつまんで話した。

「おれなんてTシャツとゼッケンをテーブルにおいて出てきたぜ」

「おれも母ちゃんにおしつけてきた」

最終的にはおれもお母さんに押しつけた形だけど。

思った通り、誰も自分で縫おうなんて意見は出てこない。

当たり前か、女子じゃあるまいし。

「それよりさー、今ケイドロしようって話してたところなんだ。のぶもやるだろ?」

「やる、やるー!」

遊びの誘いに2つ返事で返した・・・が、すぐに宿題のことを思い出した。

「あ、でもちょっとまって。先にドリルをやっつける」

「宿題なんて家でやれよぅ」

「マサキの家でやってくるって飛び出してきたんだよ。やってなかったらうそがバレちゃうだろ?」

「何でおれの家なんだよ」

「出てくるしゅんかん、マサキの顔が出てきたんだよ。だからそういうことで話合わせといて」

みんなが先にケイドロをし始める横で、おれはドリルに取りかかった。

下敷きがあるから大丈夫かと思ったけど、ベンチを机代わりにするとボコボコしていて書きづらい。

今度から宿題は公園以外でやろう。

そう思いながら急いで宿題を終わらせ、みんなの遊びに混じった。
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