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「ぬってほしくなかった?」

「いや、そういうわけじゃないけど」

おれと口喧嘩したし、ひゅうまはそんなおれを助けるなんて嫌じゃないのかと思ったんだ。

「だってぼく、のぶくんにお礼できてなかったから」

「お礼?」

「うん」

お礼って何だ?

おれはひゅうまにお礼を言われることなんてした覚えはなかった。

「春のドッヂボール大会の時、のぶくんぼくをかばってくれたじゃん。でもお礼を言えてなくて」

「・・・ああ」

あれはかばおうとか思ったわけじゃなく、気づけば勝手に体が動いていた。

「それにぼくのせいで負けたのにみんなせめなかったし」

「はぁ?おれはお前のせいで負けたって言ったじゃん」

「うん。でもそう言ったのはのぶくんだけで、のぶくんがそう言ったから他のみんなは何も言わなかったんだよ」

「何言ってんだよ。言ってたよ」

「言ってたかもしれないけど、ちょくせつ言ってきたのはのぶくんだけだよ」

「何だよ。遠回しにおれにもんく言ってんのか?」

「ちがうよ。のぶくんはみんなの代表になってくれたから、ぼくはのぶくんに言われるだけですんだんだ」

「ほら、やっぱりおれにもんく言ってる」

「ちがうって」

何がみんなの代表だよ。

おれがひゅうまに対してイラッとしたのは普通のことで、別にみんなを代表して責めていたわけじゃない。

誰もひゅうまに直接声をかけなかったのは、こいつは相変わらず困った表情を見せるだけで何も言わないからだ。

おれも最終的にそれでイラッとして、みんなになだめられるまま離れたんだ。

「とにかくぼくはのぶくんにお礼をしたかったんだ。あの時はかばってくれてありがとう」

「そんなの今言われても」

「・・・おそいよね、ごめん」

でもきっと当時そう言われていても、大会優勝を目指していたおれはひゅうまに対して文句を言っただろう。

ありがとう、なんてほんの気休めにしかならない。

残り2人しかいなかったあの状況で、逆転できるはずもなかったけど。
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