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午前7時50分。

私が乗る地下鉄は通学・通勤ラッシュでいつも満員御礼だった。

息苦しいし、ギュウギュウ詰めの車内は最悪。

ドラマや漫画にあるような ‘同じ車内にいるあの人に胸キュン’ なんてことは所詮夢物語なんだと思っていたの。

だけどあの日、それが打ち砕かれた。

夢物語は自分で作れば夢じゃなくなるんだって気づかされたのよ。

あの日、いつものように乗った地下鉄。

もちろん車内は相変わらずの満員でギュウギュウ詰め。

だから降りたら私はトイレに向かうの。

もちろん身だしなみを整える為。

込み合う改札口はトイレに行く間に誰もいなくなっているし、一石二鳥。

だけどあの日はいつも通りにはいかなかった。

改札口に1人男の人が立っていたの。

立っていたというか、立ち往生?

外は雨が降っていて、その人は傘を持っていなかったから雨宿りと言った方が良いのかもしれない。

その日朝から雨は降っていなかった。

でも降水確率90%の日に傘を持参しないなんてバカじゃない?

きっと私、最初はその人の事を冷めた目で見ていたと思う。

だから私はさっそうとその人の横を通り過ぎて、傘をパッと開いて空の下に出て行ったの。

横顔は一目だけちらっと見た。

横を通り過ぎた時に。

整った顔立ちだった。

それにどこかで見た顔だったかも。

よく見たら同じ高校の制服。

校内のどこかですれ違った事があったのかもしれないね。

だけど私には関係なかった。

知らない人に話しかけるほど社交的じゃないし、可能性は低いけど誰かを待っているのかもしれない。

そう思って一歩、また一歩と背後に彼を残したまま歩き出したの。
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