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3.不器用で器用なあの子

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オレが言うのも悪いが、クスミは手際が悪かった。

料理をしたことがないと一目でわかるほどの。

オレも普段料理をすることがないし、卵を割る程度のことしかできないが、クスミはそれすらもうまくいかない状態だった。

しかし意外なのは茉だった。

茉は先ほどオレが手早く卵を割っていなかったことにすぐ痺れを切らしていたが、まだ卵を持ったままで止まっているクスミにかける声は優しい。

「クスミさん、卵を割るのはそう難しくはないわよ」

そう言うと、茉は卵を1つ取ってクスミの横に並んだ。

「ちょっと卵の持ち方がまずいわね。まずヒビを入れなきゃ割れないから私と同じように持って」

「はい」

クスミは言われるがまま、茉の言う通りにしている。

あれ?

もしかしてクスミって卵を割ったことがないのか?

オレよりも低ベルな女子がいたなんて。

「じゃあ今度は卵をかき混ぜるわよ。ボウルを少し傾けた方が混ぜやすいから私と同じように持って」

「はい」

いつの間にやら料理教室のようだ。

茉先生の言う通り、クスミ生徒はこなしている。

オレは・・・・・・放置だ。

「じゃあいよいよ焼く過程ね。これは話しながら説明してると焦げちゃうから、私が先にお手本を見せるわ」

「はい」

お手本を見せると言いながら、茉はゆっくり手順を見せる気はないようだ。

ゆっくりしていると焦げるからかもしれないが、手早く卵を焼き上げていく。

なるほど、オレが夏休みに食べていたのはどうやら茉が作ったもので間違いないようだ。

茉がわざとつけていたという印の話を聞いても信じ難かったが、今こうして茉がえぬたまのオムライスを作っていたという事実が確定されていく。

あっという間にえぬたまで提供されているのに似たオムライスが出来上がった。

「はい、完成」

「すごく上手です」

「そりゃそうよ。私、夏休みの間ずっとこのオムライス作っていたもの」

茉の話を聞いてクスミはキョトンとしている。

クスミは茉がえぬたまでバイトをしていたということを知らない。

だから普通は茉の言葉に「どうして?」と投げかけてそこから会話が弾んでいくようなものなのに、クスミから次に発せられる言葉はなかった。

クスミがクラスメイトと仲良く話している姿なんて見たことないもんな。

ガールズトークなんてものは経験がないのだろう。

しかし茉も会話が続かなかったことにはさほど気にしていないようだ。

「じゃあ今度はクスミさんの番ね」

感心しているクスミに茉は卵の入ったボウルを渡す。

いや、待て待て待て。

卵も割れないクスミが卵を焼くなんて無理だろう。

「・・・って言ってもいきなりは無理だろうから、さっきと同じことを私がするからよーく見てて」

さすがに茉もクスミのレベルの低さを理解しているから、あえて無謀な賭けには出なかった。

それを見てホッとため息が漏れる。

・・・って、オレは子を見守る親か。

茉は先ほどと同じように手早く卵を焼き上げて、あっという間にえぬたまオムライスを完成させた。

茉の早業によりあっという間に4人分のオムライスが完成した。

あぁ、オレの腹はもう限界を通り越して背中とくっつきそうだ。

「じゃあ最後にクスミさんにひと仕事」

「え?」

皿の上に乗ったオムライス。

どう見てもオレには完成しているように見えるのだが、まだ未完成なのか。

「はい。これで好きな絵を描いてね」

と言って茉が手渡したのはケチャップだった。

そうか、確かにオムライスの仕上げと言えば、ケチャップで文字なり絵なり描くことだもんな。

って、どうせ胃の中に入るのにそんな手間かけなくていい!!

「クスミ、悪いが絵を描くのはオレ以外の分にしてくれ」

オレはもうケチャップも何もなくていいから早く腹に入れたいんだ。

オレの心の内を理解してくれたのか、クスミは1つうなずくと残りの3つにだけケチャップを垂らした。

「よーし、完成ー!クスミさん、ユノモト兄を呼んできて」

「はい」

茉に促されてクスミは兄キを呼びに部屋へ向かった。

ん?

待てよ。

呼びに行くってことは、兄キも茉も一緒にここで食べるってことか!?
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