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1.お見合いからの新生活

11.ショッピングモールへ

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「夕方、戻ります」

 留守るすあずかる赤井さんには昼食は現地げんちで取ると伝えて、マキナさんの車で出発する。目的地は近くのショッピングモールだ。

 実は、お見合いに着たワンピースを買ったところでもある。郊外こうがいなので母が運転するレンタカーで行った。

 ボクの買い物は通販つうはんを利用するのが普通で、めったに出かけない。出かけても混雑こんざつする休日は極力きょくりょくける。

 やむを得ない場合は、母や姉に付いて来てもらっていた。お見合いに着ていくので実物を確認したかったかららしい。

 実際、今まで通販で問題なかったんだから、通販にすれば良かったと思うけど、タイムラグなしに手に入れるのを優先ゆうせんしたようだ。

 小一時間走って丘陵きゅうりょう地にあるモールに着いた。休日なので人がそこそこいる。

 車を降りて建物へ歩きだすと、つい自然にマキナさんの手をとった。迷子にならないようにと、人混ひとごみみに負けないように。

 なにより、ごった返す場所にはれていないので。今はマキナにたよるしかないんだ。

 手をつないだらマキナさんは、ビクっとふるおどろいた顔でボクを見てくる。初対面でも手首をつかまえて歩いたじゃないですか?

 驚くほどでもないと思うんだ。ボクは、振り返って見てくるマキナに微笑ほほえんだ。

 建物に入るとエスカレーターで二階の専門店へ。まずは、訪問着を何にするか、かな?

 着物の店に入ると、落ち着いた春用の着物としぼがら藍染あいぞめの着物を見繕みつくろってもらう。

 ボクは立っているだけ。体にみごろを当てて選んでいく、マキナさんが。

 地の色が淡緑うすみどりで、水辺にアヤメが咲いている柄に決めると、帯のチョイス。ハデで落ち着いてはいないと思うんだけどだまっている。

 数ある帯の中から萌黄もえぎ色の帯を選んだのでおどろいている。色調しきちょうは同じだけど、目をらして見るとキラキラした花柄はながら刺繍ししゅうされていて目立ちます。

 帯が決まると下着姿になって……いや、ならなくても良くない? と思っていると肌襦袢じゅばんを着せられ、なんか腹パッドみたいなものを当てて体型たいけい調整ちょうせいしてる。

「男?! 男のかたなんです、か?」

「そうだよ。婚約こんやく報告ほうこくに使う服がないので見繕っているんだ」

 ボクはお腹がさびしいのでかさ増しするんだとか。その段階になって店員さんたちが、ボクを男と認識した。

 そこから店員さんたちが、おかしくなった。壊れたロボットみたいにカクカク動きがぎこちなくなるし、極力きょくりょくれないようにしてくれたり、げ句ボクの方を見るのはし目がちで直接見ないようにしているし。

 かと言って、チラチラ見てきてはいるんだよね。仕事上、体を触れられるくらいで、セクハラとか暴行ぼうこううったえたりしませんよ?

 動きがスローになり、所々におしゃべりしていたのが無くなって、襦袢じゅばんや帯留めを注文したら終わりのところにやっとこぎ着けた。

 もう1セット、藍染めの着物を決める頃には、くたくたになった。お昼はまだかな?

 着物は預かってもらって、訪問当日、家に持って来て着付けをしてくれる手筈てはずになった。

「もう、手は洗わない」とか「眼福がんぷく~。な、生で、は、はだか、見ちゃった」とか「こんな、こんな幸せ……死ぬの、私……」とか店をあとにしていると、不穏ふおんな言葉がこえてきたが、ボクは知らな~い。


 訪問ほうもん着をだん取りできたので、次ははだ着・下着るいだと、ランジェリーショップへ。

 若年じゃくねんそうは、女と *体型たいけいちがいが少ないし、ごく少数しかいない男性には専用せんようの下着がほぼ存在そんざいしないので女男にょなん共用きょうようだ。

「これは?」

「ああ、いいですね」

「これは、どうだ?」

「可愛《かわい》いです」

 キャミソール、タンクトップを中心に大人買いしていく、マキナさん。ボトムは、やたらとティーバックをすすめてきます。

 着物には、キャミソールとティーバックに長襦袢じゅばんを着ればいいと言われているので、ボクに拒否きょひはできない。

 その上、店のおくの方──ベビードールとかのセクシー系のナイティーが陳列ちんれつされているところでも、ごそごそしているので、夜に着せられちゃうんだろうな。

 ヒラヒラやスケスケしていないフツーのTシャツやショーツ・短パンをそっと買い物カゴに追加しておく。

 ちなみに、着物の店やランジェリーショップの支払は、携帯けいたい端末たんまつ決済けっさいアプリで済ませていました。ボクにもIDの取得と決済キーをあとでくれるとマキナさんは言っています。

 あと、新居の物理解錠ぶつりキーと携帯端末の論理ろんり解錠キーも忘れずに入れてもらわないとね。おちおち、家から外に出られない。



※注:若い男性の股間には突起物がなく、割れ目の中に埋まっている。
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