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1.お見合いからの新生活
13.しあわせの小箱
しおりを挟むちょうどお昼なのでセーフハウスをあとにすると、レストランに入った。
フードコートにするのはない。人いきれで酔ってしまいそうだから。
エントランスで受付の人に何か話すと、座席空きを待つ人たちを後目に奥に通される。いわゆるVIP席と言うヤツですか?
ここも喜多村家由縁のお店なのだろうか。
個室席に着くと躊躇なくステーキセットを頼むマキナさん。ボクは……茸たっぷりハンバーグセットにしておこうかな?
食後、コーヒーで一息ついていると、居ずまいを正したマキナさんが口を開いた。
「急だったので準備していなかった……」
「はい?……」
彼女に倣って居ずまいを正すと、マキナさんは懐から青いビロード地の小箱を取り出し開けた。
「……あっ!」
箱の中央に輝くそれを見て、小さく感嘆した。
「手を出して」
マキナさんの言葉におずおずと左手を差し出すと、その手を取って薬指にその環を嵌めてくれた。
「気に入ってくれるかな……」
「はい」
ボクは返事して、指に嵌まった指環の三つの輝きに目を奪われた。
ピュアダイアとブルーダイア、イエローダイアの三色のダイアが三角に配置されている。
その時は「凄い」としか感想がなかったけれど、なぜダイアが三つなのかを訊かなかった。
「気に入ってくれたようだね?」
一頻り眺めたあとに、マキナさんが声をかけてきた。
「ああ、はい。でも、凄くお高そうですけど……」
「婚約指環は、まだまだだよ。それよりも遅くなったけど、婚姻届と住所変更、しとこうか?」
「そ、そうです、ね? なんか今さらな気がしますが……」
思わず昨夜の……情事が思い浮かんできた。夜やみに妖しく躍るマキナさんの白い肢体……。
「綺麗だったなあ~」
「あ、ああ? 署名して送信すれば婚姻成立する」
ボクは夕べを思い出し思わず口にしていたがマキナさんは気づかず話を進める。
ピンク色になってる頭を現実に引き戻された。
差し出されたマキナさんの携帯に表示された婚姻届画面に自署を入力して……っと。
住所は新居じゃなくもちろん実家の住所ね。だいたい新居の住所、知らないし。
で、住所を入力……っと。ん……んん?
「あ、あの……となりに入力されたマキナさんは良いんですけど、その下にも名前があるんですけど?」
「妹だな、同時婚姻する」
「はい? えっと、マキナさんと一緒に、このアヤメさん? とカエデさん? とも結婚する……と?」
「そうだな。お見合いで話したろう? 君の婚姻可能年齢まで私が待たせていたんだ」
聞いてないよ。いや、実際にあの時聞いてなかったんだけど。聞いてないよ。
「あの……いきなり3人なんて。待っていただくのは──」
「ダメだな。3人なんて普通だろう? 余裕があれば他に入れてもいいし」
「──3人で充分です! まだ、お会いしてないのに、そのお二人は良いんでしょうか?」
「その点は大丈夫だ。お見合いにも喚んだんだが、忙しいとか言って同席できなかったけどね」
寝耳に水なんだけど、他の二人にもボクの情報は伝わっていて不満もなく婚姻には同意している。
でも、ボクは知らない人はちょっと怖いんだけど。せめてお顔や為人を見てみたかったよ。
「分かりました」
マキナさんの姉妹なら大丈夫だろうと個人認証させ送信した。ああ~、いきなり3人と結婚か~、不安だ。
「こちらで住所変更はしておくよ。次は……」
マキナさんに携帯端末を返すと、ショッピング決済キーをくれると言うのでボクの端末を渡した。
「これで認証すれば、大抵の物は買えるよ」
入力を済ませ戻ってきた端末に、あとは個人識別を認証させれば完了という。
旦那さんの財布を当てにするようで気が引けるけど今さらだしね。ボクの認証して手続きを完了させた。
「それじゃあ、これが家の鍵ね。物理解錠キーだよ。もう一度、端末を」
「はい」
手渡された家の鍵を預かると、端末を再度マキナさんに渡した。
「……これで終了、っと」
マキナさんが入力したあと、ボクに端末を返してくる。
「それで端末に論理解錠キーを付与したから、その二つの鍵で家に入れるから」
ありがとうございます、と携帯端末をもらう。やっとこれで家に出入りできるようになったよ。
「大変だけど、午後はドレスを見繕いに行こうか?」
「…………」
まだ、それがあったんだ、とげんなりしていると表情に出てしまった。
「そんな顔、するな。すぐ終えるようサイズ計測で留めておくから……」
分かりましたと了承して食後のコーヒーを楽しんだ。
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