【悲報】みんながボクを狙ってる？～婚姻したら裸にされるし拐われそうになるし、挙げ句、狙われてるって誰得ですか？～

１．お見合いからの新生活

14．屋上観覧車。そして……

　レストランを出て気分転換てんかんに文具を買ったり、日用品を買ったり。電動歯ブラシとかコップとか、身の回りのものを新しくした。

　新しい決済が使えるのを確認がてらに買ってみたと言うのが本当だけど。問題ないと思っているけど慣なれるのは大事だからね。

　あっちへこっちへ、つれ回されてマキナさんがお疲つかれみたいだけど。


「この子のサイズ計測を頼たのむ、ドレスはデザインを見て決めるから」

　洋装テナントに行くとドレス選びが始まる。下着になってサイズを測ってもらうと、備えつけのタブレットに映うつるデザインを見ながら選んでいる、マキナさんが。

「これは、どうだ？」

「いいですね」

「これも良いな」

「そうですね」

　どこかでやったやり取りが繰くり返されている気がするが仕方ない。ボクに良し悪あしが分かるワケもなく、マキナさんの提案に返答するだけだ。

　しかし、数が多くないですか？　いっぱい作っても着れるか分からないし、着れなくなるかも知れないし。

　ボクもまだ成長期なんだから……。そんな懸念けねんを訊きいてみると。

「新しく買えばいいじゃないか。それに少しなら調整できる。君にはいっぱい買ってあげるよ？」

「さ、左様さようですか……」

　これだからお金持ちは……。一度、袖そでに手を通したらもう着ない、とかですか。

　どこぞのお貴族様ですか、そうですか。

　洋装店での注文も終わってぐったりしていたら景色でも見て気分転換しようか？　とマキナさんが訊いてくる。

　こんな場所（失礼）に見る景色があるんだろうか？


「ここだよ」

「ほおぉ？　屋上遊園地みたいな」

　屋上に上がると小さいながら遊園地のように遊戯ゆうぎ機器が並んでいた。

　外周を回るカートとか、モール中央の吹き抜けを渡るコースターとかまである。

　そんな中でちっちゃな観覧かんらん車が据すわっている。あれで景色を愉たのしむのかな。

「乗ってみるだろ？」

「そうですね……乗ってもいいですけど」

　マキナさんに手を引かれて観覧車の乗降口へ行く。

　観覧車に乗ってみると全方位に景色が広がって、すごい。

　見えるのは丘陵きゅうりょうに広がる住宅と山しかないけど。

「山ばっかり……海が見えたら良かったのに……」

　車窓にかぶり付いて外を見ていて、なんとはなしに呟つぶいてしまったようで、となりに移動してきて「じゃあ、海に行くか」とボクの肩を抱きながらマキナさんが言う。

　ちょっとちょっと、ダメですよ？　バランスを考えて片方に座らないようにと係員さんが言ってましたよね？

「そんな……冗談ですよ。それに今から行ったら夜になってしまいますよ」

　実は、観覧車に乗ったのは初めてだったんだけど、海も行ったことなかったんだよね。

　できれば行ってみたい。オフシーズンなら人はいないだろう。

　でも、明日からは学校がある。マキナさんも会社だ。

　陽が傾かたむき始めたこの時間から海に行ったら確実に夜になる。

　行ってみたいけど、明日に支障ししょうがでたらお互いに困る。

　内なる葛藤かっとうをしていたら、耳元に口を寄よせて「行きたいなら行くよ、海」と囁ささやかれた。

　何くれとなく気遣きづかってくれるマキナさんに、心が温かくなって肩の手に手を添そえた。

　なんか乗りで海を見に行くことになってしまった……。


　観覧かんらん車を降りると、早速とばかりに駐車場へ移動する。

　車に乗り込むと目的地を近くの海岸に設定して走り出す。

　めぼしい専用道路がないので、ほぼ地道を走るしかないようだ。

　直線が長い区間に入るとマキナさんは、ハンズフリーで赤井さんに電話する。

「マキナです。ちょっと海に出かけるので夜遅おそくなります。食事は用意しなくていいです」

『分かりました。ですが食事は用意しておきます。温めて食べてください』

　念のためお訊ききします、と念押しして「キョウ様と一緒ですか」と言ってくる。

　マキナさんが「そうです」と答えると、ふふっと薄うす笑いして「お気をつけて」と言って赤井さんは通話を終了した。

　道中、学校の話とか会社の話とか他愛たあいのない話をやり取りしている内に魚臭くさいというか嗅かいだことのない臭においがしてくる。

「変な臭におい……」

「磯いその臭においだな。魚じゃなくプランクトンの死骸しがいの臭においだとか、なんとか……」

「へえ～」

　防風林だかの松林のすき間から青い地面に白い波濤はとうが棚引たなびいて見える。

　その松林にある駐車場で車を降りると車内で嗅いだ独特の臭いがより強く感じられる。

　松林の遊歩道を抜けて行くと海岸沿いの遊歩道とぶつかって海と浜の全貌ぜんぼうが見えた。

　シーズンでもなく、砂浜には人影はまばら。遊歩道にも犬の散歩をしている人くらいしか見えない。

　陽が傾かたむき赤みが射さす空の下、下り口から砂浜に下りて歩いてみる。

　折角、海に来たんだから波打ち際ぎわまで行こうとしたけど、砂に足を取られて歩きにくいし、パンプスに砂が入ってきてジャリジャリするし。

「ちょっと波打ち際までは行けないな～。日没にちぼつはここでは見れないのか」

「今度、夕焼けを見に行こう」

　そう言うマキナさんに身体を支えてもらい、砂浜での散策をあきらめて駐車場に戻る。

　今度はちゃんと準備をして来よう。