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2.新居からの新生活

19.アンナ襲来

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 まあ、すぐに家に行けなくてマキナの会社内を探索たんさくした話がしたかっただけなんだけど仕方ない。

「……へい囲いの大きな家で──」

「「へえ~」」

「普通の家が三つくらい建てられる敷地に──」

「そこはパス」

「先に行って」

「ええっと、そこにはお手伝いさんが──」

「はいはい、早送りで」

「同じく」

「ボクの部屋は──」

「「ふむふむ」」

「大きな机があって、ソファーセットがえられていて、外扉そととびらでテラスにも出られるんだよ。スイートルームみたいで──」

「スイートって言うと」

「アレだよね?」

「……すっごく大きなベッドがあって」

「「フンフン、それで」」

 部屋の話に移って俄然がぜん、食い付いてくる二人。

 と、その時、前のドアから担任の先生が教室に入ってきて、ホームルームの時間が来てしまった。

「あとで続きを」と言いながら二人は泣く泣く席に戻った。

 ショートHRの連絡が始まったと思いきや、教室のドアが勢いよく開けられた。

 そちらを先生やボクらが注目する中、入ってきたのはとなりクラスの留学生、アンナ・クライネさんだった。

 彼女はボクをにらみつけ、肩にかかるブラウンブロンドをらしツカツカと歩み寄ってくる。

蒼屋あおやキョウ、あなた様はだれの許可を受けて結婚したでございますか!」

「えっ?……特に許可とかは受けてない、です」

 彼女の気迫に押されて両手でガードした。結婚って当事者が同意すればできるんじゃないの?

「な、なんですの、これ!」

 彼女は、ガードに上げたボクの左手を取って薬指にまった指環ゆびわを指さす。せっかくかくしてたのに見つかってしまった。

「あなた様の結婚はワタクシの許可が必要でございます! なんですか、こんなもの!」

「や、やめて! アンナさん」

 アンナさんが指環をつかんで外そうとする。それに許可って何? 意味が分かんない。

 アンナさんが放った言葉で「指環?」「指環してる?」って周りから聞こえる。

 てか、み合うたび、同年代より大きいお胸が揺れる。あちこちに当たってくる。

 ボクは慣れてるけど、男子を胸で威圧いあつするのはイヤがられるよ。

 アンナさんのお胸が大きいのは三つくらい年上だからかも知れないけど、その年で留学してくるのが不明な人だ。

「ちょっと、アンナさん?」

 ほうけていた担任、五条先生が再起動してアンナさんを注意しにってくる。

「もう授業が始まるので、自分の教室に戻ってください」

「授業なんか、どうでもよいのでございます。今はキョウ様の結婚の──」

 ダメだと判断した五条先生はアンナさんを羽交はがめして教室から追い出そうと引きっていく。

「おとなしくして!」

「お放しなさいですわ! ワタクシはキョウ様と大事なお話が……」

 アンナ劇場げきじょう呆気あっけに取られていた皆が「やっぱり結婚は本当に?」とか「なんで彼女が知ってる」とか話してる。

 ボクはアンナさんが言う許可とかの意味が分からなくて頭に疑問を浮かべていると、タマちゃんが顔を寄せてきて「アンナさん、キョウちゃんをねらってた」って教えてくれた。

 いや、彼女にはウザがらみして来ることしか記憶がないんだけど? それが彼女なりのラブコールだとでも言うのだろうか?

 返ってきた五条先生が短時間でまとめてショートHRが終わり一時限が五条先生の数学で始まった。

 一限が終わり、素直に二時限に行くと思いきや休憩きゅうけい時間に男子が寄ってきて話を聞かせろ、指環を見せてとせがんでくる。

 ボクの話を聞こうとしてか、回りの動きが止まり音が退しりぞく教室で、あとでと男子に伝える。授業の合間でなんか話せないでしょう?

 教室の入口を見たらドアのすき間からアンナさんがのぞいていた。しかもハンカチをくわえてうらめしそうにしている。

 前から思ってたけど、彼女この国・不双フソウのサブカルチャーにどくされてるんじゃないか?
 
 まあ、比較的おだやかに休憩は過ぎ二時限の時間になって授業を受けた。

 三時限前の休憩時間にはアンナさんも来なくなったけど、代わりに五月さつきヶ原くんが教室、と言うよりボクを見るようにのぞいていた。なんだろう?


 午前の授業を終えて昼食。お弁当は家政婦さんが持たせてくれた。

 朝食を食べている内に準備してくれたのでお手伝いはできていない。

 明日からは頼らないようにしよう。できるかな?
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