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3.喜多村本家に居候

88.喉の渇きと焦燥

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「さあ、寝直そう」
「うん」
「そうね」
 
 幼女たちも寝るのに賛成してくれてる。

 おっかしいな~、さっきからのどかわく。それにドキドキする。出した分は飲んでるはずだけど……。まあ、いいか?

「寝よう寝よう」

 さすがに寝づらいのでタンポポちゃんは横に寝てもらう。

 タンポポちゃんに退いてもらったのに──それでも身体がほこほこする。動悸どうきも収まらない。

 おしっこしたくてたまらない。

 またこっそりトイレに立つ。そして、何も出ない……。もしかして、病気?

 そう思うと余計にドキドキしてきた。

 こんな時、どうしたら……。朝になったら誰かに相談しよう。


 寝ては起き、起きては横になり、ベッド回りを歩いたりして、居たたまれなくてまたトイレに立つ。

 部屋を出たら女性がたたずんでいた。ええっとメイドさんの一人かな? 普段着なので分からない。

「寝付けないのでしょう?」
「えっ? ええ、まあ」
「わたくしが、すっきりして差し上げますよ?」
「すっきり……とは?」
「よくご存知でしょう。アレ、です」
「……あれ?」

 意味深に微笑むメイドさん。あ、夕御飯をのぞいてた人、かな?

 その人に、さあさあと手を引かれて廊下を進む。

「あの、あなたのお名前は?」
「わたくし、ですか? そうですね……。覚えていただかなくても構いませんが、サザレ、岩居サザレです」
「岩居サザレ……。サザレさん、ね」

 そのサザレさんはトイレを行き過ぎても歩みが止まらない。

「あの、トイレに行きたいんですけど?」
母屋おもやに戻ります」
「母屋?」
「ああ、本館とか呼ばれている館です」
「はあ、そうなんですね?」

 本館までなぜ戻る?

「本館──母屋でなきゃダメなんですか?」
「あちらはちゃんと監理されておりますから」
「監理されてる?」
「そうです。あ~、誰と誰が関係を持ったとか、無理にしていないかとか……証拠を取っておりますから」

 あとは設備。さすがに「搾精機」はないが設備が整っている、らしい。

 なんかすごく不穏な理由がする。


 使用人の館を抜け本館・母屋に入る。

 館の階段を上がり三階中央にある部屋の鍵をけると中へ。暗めの赤い照明がつく。

 ついに来てしまった。ほんとにベッドしかない印象の部屋。

 サイドボードが添えてあるくらいの殺風景な造り。

 ドアに鍵をかけるとサザレさんは飲み物を用意してくれる。

 それを飲んでしまうと、もらしそうなんだけど。ベッドに座って頂く。

「ハーブティー、かな?」

 すっきりした味わい、ジャスミン茶みたいにすきっとする。

 ボクの隣に座って、彼女も飲む。

 ◇

 その﹅﹅あと、ローブだけ羽織り一階のお風呂へ。そこは迎賓館と比べるとこじんまりしている。

 六人くらいで入る家族風呂? って感じ。本館こちらでは家族単位で入るのかも知れない。

「さあ、こちらへ」
「はい……」

 ボクは感情が消えたようにサザレさんの言われるままにお風呂のイスに座る。

 肌着姿のサザレさんは、身体の隅々まで洗ってくれる。使われているのは、あのスペシャルソープ。

 すごく良い匂いのするやつ。一日ぶりか、な?

 心が安らぐ。本館には置いてあるんだ。

 彼女は下着姿でキャミソールを胸が押し上げている。かなりのお年のよう。三十代くらいかな?

「まだ、収まらないとは……」

 薬が効きすぎましたか? と不穏な言葉がつぶやかれる。

「薬って……それってまずい?」
「いえ、キョウ様には効きすぎるので、クーラーには置かないように周知します」

 周知って、誰かというより集団的だよね。ちょっと怖い。


 ふわふわと浮わついて部屋に戻る。焦燥感はなくなったけど頭がしんしんとしびれて全身の感覚がおかしい。

 部屋の前で彼女と別れる。部屋の様子に変化はない。

 ローブを脱いでごそごそ、ベッドにい入ると遅いとタンポポちゃんに怒られる。

「ごめんごめん。トイレ行ってた」
「長すぎる。……大きい方ね」
「う、うん、そう……」
「早く寝るわよ」
「うん、寝よう」

 痺れているのが好都合なのか、すぐ意識が落ちた。朝、すっきり目覚める。

 ベッドを脱け出し昨夜のパンツを穿こうか迷っていると、ドアが勢いよくいた。

「お~い、起きて──起きておったか」
「何、朝から騒がしい──」

 サキちゃんが部屋に飛び込んでくる。朝から元気すぎる。

「──それで、何?」

 昨日、穿いたのは洗濯に出し、新しいのを下ろそう。っとその前にローブは羽織っとこう。

「朝食を食べに来たに決まっておる。出掛ける段取りもできたしのぉ」
「へ~そうなんだ。大変だね」
「レンカ──モールの社長がなかなか貸切をうんと言わんでのぉ」
「──は?」

 今、なんと?

「ええっと……貸切? ショッピングモールを」
「そうじゃ。あやつ、わしに口答えしおって……」

 それから、社長だというレンカさんをののしり続ける。

「あのね、店を貸しきるなんてできるワケないでしょ」
「はん。あやつも言っておった。せめてひと月の猶予ゆうよをくれ、と」
「それが普通だよ……」
「せっかく、男を連れて行ってやると言うに、まったく」
「…………」

 それが商売だよ、サキちゃん。

「まあ、仕方ないので警護をかき集めて、入場規制させることで妥協してやったわ」
「そ、そうなんだ……」

 ちなみに、レンカさんとは、マキナの叔母おば義叔母ぎしゅくぼである誠臨せいりん学園理事長・アオイさんの妹でタンポポちゃんのお母さん。

 って、タンポポちゃんとボクは、義理のいとこの関係なの。驚きより達観しそう。
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