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4.本家からの再出発

190.レニ様おかんむり

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「帰還したならば、なぜ顔を見せにぬのです?」
「ああ~」
 一緒に出かけなかったんだから、帰ってきたら挨拶あいさつするべきだったね。

「レイニ様、キョウが疲れておりましたので、つい失念しつねんしておりました。申し訳ありません」
「──申し訳ありません」
 マキナと共に謝る。

「まあ、良いでしょう。さあさあ、行きますぞ」
「え、どこへ」
「我らの部屋に決まっております」
 レニ様に腕を取られ引きずられる。

「あ、いや、これから予定が……」
「行ってこい。殿下によろしくな」
 そんな~。
 エレベーターに逆戻り、五階に上がる。

義兄上あにうえ、心配しましたぞ?」
「え、ああ……お気遣きづかいありがとうございます」
 部屋に向かう道すがらレニ様が聴く。拉致らち事件は知らされてるのかな? どっちだろう。

「一日、顔を見せぬと殿下もさみしがっておいでですぞ?」
 これは、事件を知らなそうかな~?

「え~、いろいろありまして帰参の挨拶が遅れていたのです」
「ウソです、ね。あのまま眠りにくところだったでしょう」
 ギクッ。鋭い。

「そ、そんなことありません、よ」
「おつとめを一日休んだのです。今宵こよいは確りやりましょうぞ」
「──お勤め……って」
「子作りに決まっておるでしょう」
「ですよね~」
 五階の自室に入り応接室を通り抜ける。

「ただいま戻りました」
「こんばんは~」
義兄上あにうえ……」
 ボクを見たミヤビ様の顔がくもり、部屋の雰囲気ふんいきが一気に悪くなった気がする。腕を取るレニ様が脇腹をひじつついてくる。

「え? あ……ただいま戻りました」
「よくぞ戻った。変わりないか?」
「はい、もちろん」
「それは僥倖ぎょうこう。時間が勿体もったいない。始めるか」
「さあ、参りましょう」
「え、え、どこへ?」
 我ながら愚問ぐもんだと思うけど。ミヤビ様に続いてレニ様に引きずられ奥へ進む。

しとねに決まっております」
 ですよね~。

「一日分を取り戻さねばなりませぬぞ♪」
「そ、そうですね~(棒)」
 一時間ほど、ふぉーめーしょんを確認しつつ新しい体位も試してフィニッシュ。


義兄上あにうえ、一日休むと身体のキレが悪いですぞ」
「いや、それは……スミマセン」
 拉致らちされて仮死状態だったからとか言えない。

「では、三階に戻られませ」
「え? よろしいのですか?」
「勤めが終われば自由といたしましょう。そちらの家族もいるのですし」
「はい、ありがとうございます」
 レニ様って子作りに真摯しんしに向きあっているだけなのかも。

戸隠とがくし義兄上あにうえを送って差し上げよ」
「ははっ!」
「──ヒッ!」
 びっくりするよ。いつから居たの、白い人。認識阻害そがいとか使ってるんじゃなかろうか?

「お休みなさい、義兄上あにうえ
「お休みなさい、レニ様、ミヤビ様」
 手早く身繕みづくろいすると寝所をあとにする。

「キョウ様、お手を」
「ありがとう──」
「戸隠、義兄上あにうえに触れるでない」
「ははっ」
「いいじゃん、手をつなぐくらい」とも言えず、戸隠さんの後ろを付いて行く。

「ここは?」
 自室を通り過ぎて疑問に思っていると、見覚えのある部屋の前に止まる。まあ、分かるけど聞いてみる。

「三階の風呂です。汗をかかれたことでしょう。シャワーで流された方がよろしいかと」
「なるほど」
 戸隠さんの言う通りローブと下着を脱いで浴室に入るとシャワーを浴びる。

「お背中、流します」
「はあ? 結構けっこうです。出ていってください」
「そう言わず、洗うのは得意です」
 それは知ってますけど。何、勝手に入ってきてるのさ。

「お触り禁止。レニ様が言ってたでしょ」
「こんな機会しかおそばに寄れない気持ちを察してください」
「それってどんな気持ち? よく分かんないけど」
「ご奉仕ほうししたくても近寄れない、切ない気持ちです」
「わ、分かりました。ちょっとだけ、ですからね」
 よく分からん、けどストーカー体質なのは分かった。ふたりっきりになると危ない人だ。素直に従っておこう。

「いかがです?」
「まあ、いいです……そこは背中じゃないんですけど」
「背中だけではもの足りません。脚がっておいでですよ」
「そうですか?」
「そうです」
 息を荒くして下半身をマッサージしながら流してくれる。話が違う。


「何か疲れた」
「それはいけません。どこかで全身マッサージを」
「もう部屋で寝るだけですから結構です」
 れた身体をいてもらいながらつぶやいたら、まともに受け取られた。
 そういうところが疲れるって~の。

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