妄想日記7<<DAYDREAM>>

YAMATO

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Chapter8(リスタート編)

Chapter8-①【黒い羊】

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「主任、話があります。」
声を掛けると、肩がビクッと震えた。
「は、話は何だ?
ま、まさか…、俺を…、お、脅す気か?」
ダミ声が震えている。
「いえ、これを受け取って下さい。」
辞表届けを机に置く。
赤ら顔に笑みが浮かんだ。
 
「そんな急に困るな。
部長に何と言えばいいんだ。
さっき、陽子ちゃんも家庭の都合で辞めると言ってきたしな。
そんな簡単に代わりの奴は見付からないし、困ったもんだ。」
ダミ声は明るい声で文句を連ねた。
「申し訳ありません。
引き継ぎと退社の手続きは今週中に終えますので、宜しくお願いします。」
一方的に頭を下げると、自席に戻る。
『やはり陽子さんも辞めるのか…。』
パソコンを開き、翻訳フォルダをサーバーへ移す。
調子外れの鼻唄が聞こえてきた。
 
「これでリセットは完了だ。
残りの人生は好きにするか。」
最終日、オフィスを出ると、伸びをする。
一週間、金髪の男は浮いていた。
だがもう周囲の視線を気にする必要はない。
『お前は回りの目を気にし過ぎだ。』
テツオに言われた言葉を思い出す。
 
「さて、これからどうするかな?」
階段を飛ばして降りていく。
ここを出れば自由が待っていた。
アキノリとの待ち合わせにはまだ早い。
大門へ最後の挨拶をする事も考えたが、それは止めた。
テツオの死を無視した男に挨拶は無用だ。
エレベーターを避け、通用口へ出る。
宅配便の配達員が荷物を台車に乗せていた。
「お疲れ様。」
「えっ、お、お疲れ様…、です。」
顔見知りの男だが、風変わりしたシオンに気付かない。
脇をすり抜け、表に出る。
傾き掛けた太陽が出迎えてくれた。
 
「陽子さん、やはり沖縄に残るんだな。」
ジムでツグムに声を掛ける。
「それで大変なんだ。
家財送るのに金掛かるんだ。
お前に出した飛行機代を返してくれねぇか?」
タイミングの悪い所に顔を出したと後悔するが手遅れだ。
「今更かよ。」
無職になったばかりで、この出費は痛い。
「大体お前が悪いんだ。
サトルさんから金を貰う予定だったのに、ドタキャンされたんだからな。」
「それは俺の所為じゃないよ。」
そう言いながらも財布を出す。
「手持ちは幾らあるんだ?」
ツグムが中を覗き込む。
「見るなよ。」
背を向け、札を数える。
33,000円しか入ってない。
当面の生活費を考えると、これでも少ない。
「一万円に負けてくれないか?」
「馬鹿言うな!
沖縄迄の運送費、幾らだと思ってんだ。」
ツグムの伸びた手から財布をガードした。
 
「少し待ってくれないか?
何とか工面してみるからさ。」
「当てはあるのか?」
「いや、ない。」
無職になった男に金が工面出来る筈がない。
「だったらサトルさんに頼んでみるか。」
「無駄だと思うよ。」
「だよな。お前にあれだけ執着してたのに、今は全く興味なくしたみたいだし。
はぁー。」ツグムのため息が重く二人にのし掛かる。
 
「おい、援交しろ。
誰か、経験者知らねぇか?」
「そんな奴知るかよ。」
ノエルの顔が浮かぶが、そんな事は口が裂けても言えない。
「あー、上手い儲け話が転がってねぇかな。」
「そんな話があったら、とっくに誰かが拾ってるさ。」
「だよな。はぁー。」
結局、トレーニングをせずにジムを出る。
外は既に暮れていた。
重い足取りで待ち合わせの場所を目指す。
 
 
(つづく)
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