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Chapter10(続テツオ編)
Chapter10-⑧【イエスタデイ】
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部屋のチャイムが鳴る。
「お客様をお連れしました。」
聞き覚えのる声だ。
ドアを開けると、先程のボーイが立っていた。
その陰にはにかんだ陽子が佇む。
「ご無沙汰してます。
さあ、中へどうぞ。
身重なのに呼び出してすみません。」
「どうせお兄ちゃんに言われて、中絶を勧めに来たんでしょ?」
少女の様な笑顔が眩しい。
お腹の膨らみは妊婦そのものだが、アンバランスさが人目を惹く。
ボーイは立ち去る事なく、ドアを押さえている。
「コーヒーを二つお願い、いや、身体に悪いかな?
一つはオレンジジュースにして下さい。」
飲み物を頼む。
「畏まりました。」
ボーイが去り、やっとドアを閉める事が出来た。
「シオンさんが何と言おうと、私は産むわ。」
ソファーに座るなり、陽子は挑み掛かってきた。
「少し冷静なれよ。
良く考えた結果なのか?
絶対に後悔しない自信はあるのか?」
予想以上に陽子は頑なだ。
人の意見等、聞く耳を持たない。
「ええ、決して後悔しない。
産まなかった方が一生後悔するわ。
大切な人の分身だから。」
陽子が視線を逸らす。
「父親は誰なんだい?」
届いたジュースを陽子に勧める。
「シオンさんの知ってる人よ。」
視線を戻し、悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
「俺の知ってる人?
もしかして大門部長?」
最初に浮かんだ顔だ。
「部長はお父さんと大して変わらない年齢よ。
ありえないわ。」
だとすると余計に分からない。
「まさか…、主任?」
「それこそまさかよ。
ストーカーの子を産む訳ないじゃないでしょ。」
「えっ、知ってたのか?」
シオンは誰にも話していない。
「消去法でね。私の周りであんな事をする人は他にいないわ。」
「本人に聞いたのか?」
「部長に相談したの。
それで部長が鎌をかけたのよ。
シオンさんが見たと言って。
そしたら直ぐに白状したわ。」
陽子はあっけらかんと話す。
「お陰で会社都合で申請出来たから、退職金が増えたの。
自己都合だったら雀の涙程度だったから、助かったわ。」
陽子の強さを目の当たりにした。
「益々分からないな。
他に知ってる人となると。」
「テツオさんよ。」
「ああ、テツオか…。えっ、テツオ!」
絶叫に近い声で聞き返す。
「そう、シオンさんの好きなテツオさん。」
陽子がウインクした。
「どうして陽子さんとテツオが?」
「一度、ホクトと合コンしたの。
そこにテツオさんが現れたのよ。
子供っぽい大学生の中で一人大人の色気を感じたわ。」
「えっ?」オカマの色気と聞き間違ったかと耳を疑う。
「それから何度か会うようになって、身体の関係を持つようになったの…。」
頬を染める陽子からは挑発的な言動は失せていた。
「でも恋人って感じではなかったわ。
他に本命がいるかと思ったの。
それで寝ている隙に携帯を見てしまったのよ。
見なければ良かったわ。」
そこでストローに口を付けた。
真っ赤に染まった先端がテツオの唇と重なる。
「幾らテツオだって、ロック位してるだろ?」
「解除は簡単だったわ。
一度、行為中の彼が私以外の名前を呼んだの。
本人は気付いてなかったけど。
パターン認証でその頭文字を入れてみたら、直ぐに開いたわ。」
陽子が空中に人差し指で『し』の文字を書いた。
(つづく)
「お客様をお連れしました。」
聞き覚えのる声だ。
ドアを開けると、先程のボーイが立っていた。
その陰にはにかんだ陽子が佇む。
「ご無沙汰してます。
さあ、中へどうぞ。
身重なのに呼び出してすみません。」
「どうせお兄ちゃんに言われて、中絶を勧めに来たんでしょ?」
少女の様な笑顔が眩しい。
お腹の膨らみは妊婦そのものだが、アンバランスさが人目を惹く。
ボーイは立ち去る事なく、ドアを押さえている。
「コーヒーを二つお願い、いや、身体に悪いかな?
一つはオレンジジュースにして下さい。」
飲み物を頼む。
「畏まりました。」
ボーイが去り、やっとドアを閉める事が出来た。
「シオンさんが何と言おうと、私は産むわ。」
ソファーに座るなり、陽子は挑み掛かってきた。
「少し冷静なれよ。
良く考えた結果なのか?
絶対に後悔しない自信はあるのか?」
予想以上に陽子は頑なだ。
人の意見等、聞く耳を持たない。
「ええ、決して後悔しない。
産まなかった方が一生後悔するわ。
大切な人の分身だから。」
陽子が視線を逸らす。
「父親は誰なんだい?」
届いたジュースを陽子に勧める。
「シオンさんの知ってる人よ。」
視線を戻し、悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
「俺の知ってる人?
もしかして大門部長?」
最初に浮かんだ顔だ。
「部長はお父さんと大して変わらない年齢よ。
ありえないわ。」
だとすると余計に分からない。
「まさか…、主任?」
「それこそまさかよ。
ストーカーの子を産む訳ないじゃないでしょ。」
「えっ、知ってたのか?」
シオンは誰にも話していない。
「消去法でね。私の周りであんな事をする人は他にいないわ。」
「本人に聞いたのか?」
「部長に相談したの。
それで部長が鎌をかけたのよ。
シオンさんが見たと言って。
そしたら直ぐに白状したわ。」
陽子はあっけらかんと話す。
「お陰で会社都合で申請出来たから、退職金が増えたの。
自己都合だったら雀の涙程度だったから、助かったわ。」
陽子の強さを目の当たりにした。
「益々分からないな。
他に知ってる人となると。」
「テツオさんよ。」
「ああ、テツオか…。えっ、テツオ!」
絶叫に近い声で聞き返す。
「そう、シオンさんの好きなテツオさん。」
陽子がウインクした。
「どうして陽子さんとテツオが?」
「一度、ホクトと合コンしたの。
そこにテツオさんが現れたのよ。
子供っぽい大学生の中で一人大人の色気を感じたわ。」
「えっ?」オカマの色気と聞き間違ったかと耳を疑う。
「それから何度か会うようになって、身体の関係を持つようになったの…。」
頬を染める陽子からは挑発的な言動は失せていた。
「でも恋人って感じではなかったわ。
他に本命がいるかと思ったの。
それで寝ている隙に携帯を見てしまったのよ。
見なければ良かったわ。」
そこでストローに口を付けた。
真っ赤に染まった先端がテツオの唇と重なる。
「幾らテツオだって、ロック位してるだろ?」
「解除は簡単だったわ。
一度、行為中の彼が私以外の名前を呼んだの。
本人は気付いてなかったけど。
パターン認証でその頭文字を入れてみたら、直ぐに開いたわ。」
陽子が空中に人差し指で『し』の文字を書いた。
(つづく)
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