妄想日記1<<ORIGIN>>

YAMATO

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Chapter25(沖縄新原編)

Chapter25-⑤【めずらしい人生】

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「なあ、頼むよ。」
リクが両手を合わせ、深々と頭を下げた。
ショーゴは感心がないらしく、そっぽを向いている。
薄い後頭部を見て、不憫さを感じた。
重い腰を上げ、通路を進む。
扉を開けると、店が揺れる程の歓声が待っていた。
スター気取りで、拳を突き上げる。
こんなめずらしい人生も、いいかもしれない。
 
「じゃあ、お世話になりました。」
玄関で頭を下げる。
「まだ那覇にいるんだろ?
家にいていいんだぜ。」
リクが気を遣ってくれた。
「今日からホテルを予約してあるから、大丈夫だよ。」
誘いを断って、マンションを出る。
正直なところ、独りでのんびりしたかった。
レンタカーを借りて、海へ向かう。
日曜日なので、空き地は車で埋まっていた。
ビーチにも人影が多い。
いつもの場所は既に人が寝ていた。
少し狭いが、岩場の隙間にシートを敷く。
足を伸ばすと、岩に当たるが仕方ない。
今日の陽射しは一段と強烈だ。
「レレレレドシラシドシラ…。」
鼻歌を口ずさみながら、身体にオイルを塗りたくる。
日焼けマニアのあるあるで、塗れば塗るほど濃く焼ける気がするのだ。
朝方まで打ち上げをしていたので、横になると一気に睡魔が襲ってきた。
普通の人なら耐え切れない暑さだが、マニアにとっては至極の時だ。
引っ切りなしに鳴く蝉の声が次第に遠退いていく。
 
水飛沫が飛んできた。
目を開けると、岩の上から覗き込んでる男と目が合う。
男はびしょ濡れの髪の毛を手で払っている。
「あんたヤマトさんだろ?」
逆光の中、聞いてきた。
表情は見え難いが、聞き覚えのある声だ。
「一昨日、バトルにいた…。」
オーナーに喧嘩を吹っ掛けた男に間違いない。
「ああ、お陰で昨日のあんたの勇姿が見れなかったよ。」
男が乾いた声で笑う。
「どうして俺のことを?」
朝立ちしたマラを隠すために、体育座りする。
「ユーキに聞いたんだ。」
意外な答が返ってきた。
「もしかしてタクミ君?」
思い当たる名前を口にする。
「ああ、そうだ。
隣に座っていいか?」
黒く焼けた顔から、白い歯が覗く。
「あっ、ゴメン。
気が付かなくて。」
横にずれて、スペースを作る。
タクミは岩から飛び降りると、隣に座った。
陽を浴びた姿をまじまじと見る。
均整の取れた筋肉は真っ黒に焼けていた。
トレーニングで作った筋肉ではなく、スポーツで養ったナチュラルな感じがする。
その真っ黒な裸体に黒猫を凛々しく締めていた。
臍を覆った剛毛が黒猫の中へ続いてる。
「先週、ここでユーキと会ったんだ。
久し振りで懐かしかった。」
タクミがぽつりと言った。
ユーキとの会話の中で、タクミの話が何回か出てきた事を思い出す。
しかし詳しい内容を聞く事はなかった。
「タクミ君は沖縄に住んでいるの?」
目のやり場に困り、水平線に視線を向ける。
「ああ、今はな。
それより、呼び捨てでいいぜ。」
 タクミは気分を変えるためか、無理して笑った。
「じゃあ、タクミ…。
どうして沖縄に来たの?」
更に聞いてみる。
「そうだな。
敢えて言えば、俺にしか出来ない事をしたかった。」
タクミも水平線に視線を移す。
 
「で、出来たの?」
答を促す。
「いや、まだ出来てない。
ヤマトさんは生きているって、実感があるか?」
逆に質問してきた。
「全くないよ。
目的もないし、行き先すら分からない。」
日頃から自問自答していた事を聞かれ、ドキッとした。
「同じだな。
世の中の矛盾を知って、目的を失った。
今じゃ、飛べない鳥さ。」
タクミが青空を見上げる。
掠れた雲が浮いていた。
同じ心情だが、ひとつ違いがある。
俺が矛盾を感じているのは自分自身に対してだ。
「これからどうするの?」
ヒントが欲しい。
「戦うだけさ。
自分の思う正義を信じて。
俺を信じてやるのは、俺しかいないだろ。」
タクミは自身に言い聞かせる様に呟く。
詳しい事情は分からないが、かなりの苦境に立たされている事は分かる。
 
 
(つづく)
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