5 / 42
5:拒絶
しおりを挟む
「なぜ立てる。さいこうのタイミングで突きを入れたはずだぞ」
右こぶしを抑えつつも、次は足技を試すつもりの剛太郎に、金髪男の冷ややかな声がかけられる。
「仕留めるつもりだったのか? タイミングも姿勢も良かったが、体重が軽すぎたな。握力もたりないから、こぶしを充分に握れてもいない。手が短いのだから、もう一歩接近して突くべきだったな。いや、その様子では踏み込みが足りなくてよかったというべきか。もし踏み込んでいたら、こぶしだけでなく、手首も折っていただろう」
正論だった。
充分に踏み込んだつもりでも、やはり間合いが変化し、筋力が大幅に低下した影響が強すぎて、意味をなさなかったようだ・
「話を聴こう」
「ケガをして、ようやく力の差を理解できたのか」
鼻で笑う金髪男に、剛太郎は平静に返事をする。
「ちがう。今のうごきとかいせつで、お前がつよい武術家だとりかいできた。だから、魔法などというウソを並べるお前のはなしをきいてやるのだ」
剛太郎にとって、善悪の基準は単純だ。強ければ正しく、弱ければ間違っている。金髪男の動きは、本気でない割には、鋭かった。
合格点だ。
「呆れたな。わたしが強いから話を聞くというのか。その外見で脳筋とは、キミは、かつての友人によく似ているようだ。魔法は存在する。ちょうどいいから、証拠をもう一度見せよう」
金髪男は、不機嫌さを隠しもせずに、流れるような動きで剛太郎の右手を取った。
武術家である剛太郎の手首を、金髪男は自然な動作で掴んでいた。
激痛が走るが、どうでもいいことだ。
実戦において、手首なり肘なりを取られるなど、武術家にとって恥辱だ。
手首の関節を固定しながらの投技げや、脇固めのような立ち間接技を極めらてしまうこともあるからだ。
痛みと羞恥で、剛太郎の顔は熱くなった。
「なにを――」
「スグに終わる。動くな」
金髪男のいう通り、手首が薄緑色に一瞬光ると、金髪男はスグに手を放した。
「なにが、おこった」
剛太郎は右手を眺めつつ、左手で叩いて感触を確かめる。こぶしは元に戻り、痛みはほとんどなくなっていた。
右手の指を閉じたり開いたりする剛太郎の横で、メイドたちが騒ぎ始める。
「まあ治癒魔法よ」
「治癒魔法ね」
「治癒魔法とは、そもそもなんでしょう? フフフ、わかるかしら」
一拍置いて、三人のメイドは答える。
「「「「イケメンのように、人を癒す魔法」」」
一拍置いて、三人のメイドは叫ぶ。
「「「「なるほどな~」」」」
ちょっと大人しくしていたとおもったら、メイドたちのウザさは激増していた。
「お前たちクビな」
「「「なんで~!」」」
崩れ落ちるメイドたちを無視して、金髪男が口を挟む。
「雇用関係の話は、後にしてくれないか。先ほど言ったように、危機的状況なのだかからね」
「よかろう。いや魔法もしんじよう。じっさい、オレの手がなおったのだからな」
剛太郎が素直に応じると、金髪男は肩をすくめた。
「話が早くて助かる。とてもな」
「うむ」
嫌味を聞き流して腕を組む剛太郎に、金髪男はため息を吐く。
「まあいい。ミオ・オスロン。魔法学校へ入学させるために、キミを迎えに来た」
「名は?」
「は?」
金髪男は片眉を上げた。
剛太郎は金髪男の目を見ながら、再び問う。
「お前の名だ」
「……名乗っていなかったか。それは失礼した。こちらではハイテ・フォン・トレスコフと呼ばれている。男爵だ。見知りおけ」
金髪男ことハイテは「呼ばれている」などと、奇妙な言い草で自己紹介をした。
名前にも身分にも興味がなかったので、剛太郎はスルーし、勝手に話を進める。
「学校といっていたな。入ってどうする」
「魔法学校だ。魔法を覚えて、妖魔と戦ってもらう」
妖魔? 魔法のある世界なら、そういう存在がいてもおかしくないか。もし本当に存在するのなら面白い。
「ことわる」
剛太郎は、迷いなく言い切った。
右こぶしを抑えつつも、次は足技を試すつもりの剛太郎に、金髪男の冷ややかな声がかけられる。
「仕留めるつもりだったのか? タイミングも姿勢も良かったが、体重が軽すぎたな。握力もたりないから、こぶしを充分に握れてもいない。手が短いのだから、もう一歩接近して突くべきだったな。いや、その様子では踏み込みが足りなくてよかったというべきか。もし踏み込んでいたら、こぶしだけでなく、手首も折っていただろう」
正論だった。
充分に踏み込んだつもりでも、やはり間合いが変化し、筋力が大幅に低下した影響が強すぎて、意味をなさなかったようだ・
「話を聴こう」
「ケガをして、ようやく力の差を理解できたのか」
鼻で笑う金髪男に、剛太郎は平静に返事をする。
「ちがう。今のうごきとかいせつで、お前がつよい武術家だとりかいできた。だから、魔法などというウソを並べるお前のはなしをきいてやるのだ」
剛太郎にとって、善悪の基準は単純だ。強ければ正しく、弱ければ間違っている。金髪男の動きは、本気でない割には、鋭かった。
合格点だ。
「呆れたな。わたしが強いから話を聞くというのか。その外見で脳筋とは、キミは、かつての友人によく似ているようだ。魔法は存在する。ちょうどいいから、証拠をもう一度見せよう」
金髪男は、不機嫌さを隠しもせずに、流れるような動きで剛太郎の右手を取った。
武術家である剛太郎の手首を、金髪男は自然な動作で掴んでいた。
激痛が走るが、どうでもいいことだ。
実戦において、手首なり肘なりを取られるなど、武術家にとって恥辱だ。
手首の関節を固定しながらの投技げや、脇固めのような立ち間接技を極めらてしまうこともあるからだ。
痛みと羞恥で、剛太郎の顔は熱くなった。
「なにを――」
「スグに終わる。動くな」
金髪男のいう通り、手首が薄緑色に一瞬光ると、金髪男はスグに手を放した。
「なにが、おこった」
剛太郎は右手を眺めつつ、左手で叩いて感触を確かめる。こぶしは元に戻り、痛みはほとんどなくなっていた。
右手の指を閉じたり開いたりする剛太郎の横で、メイドたちが騒ぎ始める。
「まあ治癒魔法よ」
「治癒魔法ね」
「治癒魔法とは、そもそもなんでしょう? フフフ、わかるかしら」
一拍置いて、三人のメイドは答える。
「「「「イケメンのように、人を癒す魔法」」」
一拍置いて、三人のメイドは叫ぶ。
「「「「なるほどな~」」」」
ちょっと大人しくしていたとおもったら、メイドたちのウザさは激増していた。
「お前たちクビな」
「「「なんで~!」」」
崩れ落ちるメイドたちを無視して、金髪男が口を挟む。
「雇用関係の話は、後にしてくれないか。先ほど言ったように、危機的状況なのだかからね」
「よかろう。いや魔法もしんじよう。じっさい、オレの手がなおったのだからな」
剛太郎が素直に応じると、金髪男は肩をすくめた。
「話が早くて助かる。とてもな」
「うむ」
嫌味を聞き流して腕を組む剛太郎に、金髪男はため息を吐く。
「まあいい。ミオ・オスロン。魔法学校へ入学させるために、キミを迎えに来た」
「名は?」
「は?」
金髪男は片眉を上げた。
剛太郎は金髪男の目を見ながら、再び問う。
「お前の名だ」
「……名乗っていなかったか。それは失礼した。こちらではハイテ・フォン・トレスコフと呼ばれている。男爵だ。見知りおけ」
金髪男ことハイテは「呼ばれている」などと、奇妙な言い草で自己紹介をした。
名前にも身分にも興味がなかったので、剛太郎はスルーし、勝手に話を進める。
「学校といっていたな。入ってどうする」
「魔法学校だ。魔法を覚えて、妖魔と戦ってもらう」
妖魔? 魔法のある世界なら、そういう存在がいてもおかしくないか。もし本当に存在するのなら面白い。
「ことわる」
剛太郎は、迷いなく言い切った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~
☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。
しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。
前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。
貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。
言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。
これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる