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17:面接
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魔法学校へ到着するや、ミオは、二十畳ほどの部屋に通されていた。
足首まで沈み込む絨毯の上に、一目で高価であるとわかる数々の家具が並んでいる。なかでも、渋みのある光沢を放つ巨大な机が目を引いた。
高級な机には、より存在感を放つ男がいた。
恰幅の良い初老の男だった。
豊かなは灰色の髪を総髪とし、大柄な体を白黒金色を組み合わせた礼服に包む初老の男が、机と同じく渋みのある椅子の上に鎮座していた。
いかにも〝偉いさん〟然とした初老の男は、魔法学校の校長であり、部屋は校長室だった。
校長の背後には、腰に剣を帯びた一組の男女が立っている。男女は双方、黒い燕尾服を着ていた。
ミオの左側には、エプロン姿のメイドたちが四人、すまし顔で佇んでいた。
室内には、主である校長と同様に、重々しい沈黙が流れていた。
沈黙は、空気を重くしていた校長自らが破った。
「ミオ・オスロン。キミは魔法学校への入校を望むか」
声には、古の預言者のような渋みと深みが醸し出す威厳があった。
もっとも、発現の内容は、入学志願者全員にする形式的な質問だ。
「望んではいない。入ってほしければ、頭を下げろ」
ミオは、挑むように目を見据えてくる校長から視線を外さずに、傲慢極まる返事をした。
魔法で妖魔と戦う方法を教える学校には、ミオも興味はあった。
だがミオは、白兵戦や肉弾戦を好む、良く言って武人、本質的には野蛮人だ。まして、魔法ならステッキの力もある。ミオとしては、どうしても入校したいわけではなかった。
それに、妖魔と戦うのなら、何も学校へ行く必要はないだろう。妖魔がどこに生息しているのか、目の前の連中に問いただしてから、おもむけばよいのだ。
情報を聞き出せなければ、魔法学校を出て探せばいい。外には街なり村なりあるだろうし、改めて妖魔やこの世界について情報収集をすればいいだけだ。
ミオの悪い意味での正直さは、室内の空気が好戦的なモノに変えた。
校長の背後にいる護衛の男女はもちろん、メイドたちまで、戦闘態勢をつくった。
ミオの全身に、殺気が突き刺さる。
護衛男が持つ刺突剣はミオの薄い胸を狙い、軍刀の柄に手をかける護衛女の視線は、頸動脈を捉えていた。
四人のメイドは、スカートの中から投げナイフを取り出し、ミオの目と皮の薄い眉間――Tゾーン――に狙いを定めていた。
最後に、校長の猛禽類のような視線が、ミオの目を射抜いた。
全員、出来る。前世で得た武術家としての経験が、ミオに危険信号を送っていた。
恐れはしない。戦いは望むところだ。
禍々しくも強いステッキの頼もしさだけが理由ではない。戦いを経験しなければ、武人として成長できないと知っているからだ。
前世の、まだ山田剛太郎のころから、ミオは、戦わない武術家を軽蔑していた。
実戦童貞の武術家は、実戦派の道場で鍛えていたミオ―ー当時は山田剛太郎――から見れば、大抵は〝雑魚〟か中途半端に鍛えている雑魚としか評せない相手ばかりだった。
現代日本における武術家は、型を神聖視し、他の稽古をしない者が後を絶たなかった。
試合はもちろん、走り込みや筋トレを否定する者すら稀でなく、型だけやれば強くなれる公言していた。
強さを求める武術家であるにもかかわらず、試合を否定、身体はほとんど鍛えない。その上、型の真の〝意味〟とやらを解き明かすと主張してワークショップを開き、武術に幻想を抱く夢見がちな弟子を集めて小銭稼ぎに走る者さえ珍しくなかった。
戦うための鍛錬を怠った者たちに、剛太郎たち実戦派は、自称武術家たちの道場破りを仕掛けることがあった。
大抵は逃げられてしまう。
当然だ。
型稽古しかしないヒョロヒョロの年寄りや若者は、ただの武術オタクでに過ぎない。筋力で劣りスタミナに乏しい自分たちが、実戦に出ればどうなるか知っているからだ。
武術オタクは「唐手に先手なし」とか「矛をおさめると書いて武である」とか「真の武とは争わないことである」などと言って、逃げを打つ。ある意味、己を知っているわけだ。
剛太郎たちはが言葉や態度で煽っても、野試合を受ける者は、十人に一人もいなかった。
稀に、煽らずとも挑戦を受けてくれる道場もあった。
十中十、いざ立ち会うとなると何もできず、型通りの見え見えなカウンター狙う手合いばかりだった。
全員が、試合の雰囲気に緊張して、すぐスタミナ切れを起こし、朽ちかけた枯れ木のように、簡単に倒されていた。。
ただの武術オタクですらなく、神がかりになる武術家もいた。
彼らは道場破りを受け入れ、歓迎すらした。
合気道系や合気柔術系に多く、気を自在に操り、手を触れずに人を投げられると主張する者たちだ。
彼らは、武術家というより宗教家であり、神秘の力である〝合気〟を極めたと信じている手合いだ。
武術家を辞めて宗教家のニセモノとなった者たちは、自分たちの能力に過剰な自信を持っていた。だが、いざ試合をしてみると、大抵三十秒とかからずに敗北していた。
合気を極めたと主張する者たちには、最低限の試合経験もなかった。そのため、フェイントには簡単に引っかかって、カウンターを食らっていた。
フェイントを一切混ぜずに攻撃しても、全く反応できない者も多かった。
大ぶりの右フックのような、競技者なら簡単には当てられない攻撃すら、彼らは防御できなかった。
戦わない武術家のなれの果ては、無様しか言いようがなかった。
数十回にわたった道場破りの結果、当時の剛太郎は、心底戦わない武術家を侮蔑するようになった。自分は、ああはなるまいと、決意した。
だから剛太郎だったころのミオは、戦いとなれば、よほど不利な状況でもない限り、受けて立ってきた。
常在戦場、今もその心意気を、ミオは持っていた。
殺気だつ室内を観察しつつ、ミオはあえて軽口を叩く。
「ご挨拶だな」
「貴様ほどではない!」
刺突剣を帯びた護衛女が、半歩前に出て、ミオの挑発に応じた。
足首まで沈み込む絨毯の上に、一目で高価であるとわかる数々の家具が並んでいる。なかでも、渋みのある光沢を放つ巨大な机が目を引いた。
高級な机には、より存在感を放つ男がいた。
恰幅の良い初老の男だった。
豊かなは灰色の髪を総髪とし、大柄な体を白黒金色を組み合わせた礼服に包む初老の男が、机と同じく渋みのある椅子の上に鎮座していた。
いかにも〝偉いさん〟然とした初老の男は、魔法学校の校長であり、部屋は校長室だった。
校長の背後には、腰に剣を帯びた一組の男女が立っている。男女は双方、黒い燕尾服を着ていた。
ミオの左側には、エプロン姿のメイドたちが四人、すまし顔で佇んでいた。
室内には、主である校長と同様に、重々しい沈黙が流れていた。
沈黙は、空気を重くしていた校長自らが破った。
「ミオ・オスロン。キミは魔法学校への入校を望むか」
声には、古の預言者のような渋みと深みが醸し出す威厳があった。
もっとも、発現の内容は、入学志願者全員にする形式的な質問だ。
「望んではいない。入ってほしければ、頭を下げろ」
ミオは、挑むように目を見据えてくる校長から視線を外さずに、傲慢極まる返事をした。
魔法で妖魔と戦う方法を教える学校には、ミオも興味はあった。
だがミオは、白兵戦や肉弾戦を好む、良く言って武人、本質的には野蛮人だ。まして、魔法ならステッキの力もある。ミオとしては、どうしても入校したいわけではなかった。
それに、妖魔と戦うのなら、何も学校へ行く必要はないだろう。妖魔がどこに生息しているのか、目の前の連中に問いただしてから、おもむけばよいのだ。
情報を聞き出せなければ、魔法学校を出て探せばいい。外には街なり村なりあるだろうし、改めて妖魔やこの世界について情報収集をすればいいだけだ。
ミオの悪い意味での正直さは、室内の空気が好戦的なモノに変えた。
校長の背後にいる護衛の男女はもちろん、メイドたちまで、戦闘態勢をつくった。
ミオの全身に、殺気が突き刺さる。
護衛男が持つ刺突剣はミオの薄い胸を狙い、軍刀の柄に手をかける護衛女の視線は、頸動脈を捉えていた。
四人のメイドは、スカートの中から投げナイフを取り出し、ミオの目と皮の薄い眉間――Tゾーン――に狙いを定めていた。
最後に、校長の猛禽類のような視線が、ミオの目を射抜いた。
全員、出来る。前世で得た武術家としての経験が、ミオに危険信号を送っていた。
恐れはしない。戦いは望むところだ。
禍々しくも強いステッキの頼もしさだけが理由ではない。戦いを経験しなければ、武人として成長できないと知っているからだ。
前世の、まだ山田剛太郎のころから、ミオは、戦わない武術家を軽蔑していた。
実戦童貞の武術家は、実戦派の道場で鍛えていたミオ―ー当時は山田剛太郎――から見れば、大抵は〝雑魚〟か中途半端に鍛えている雑魚としか評せない相手ばかりだった。
現代日本における武術家は、型を神聖視し、他の稽古をしない者が後を絶たなかった。
試合はもちろん、走り込みや筋トレを否定する者すら稀でなく、型だけやれば強くなれる公言していた。
強さを求める武術家であるにもかかわらず、試合を否定、身体はほとんど鍛えない。その上、型の真の〝意味〟とやらを解き明かすと主張してワークショップを開き、武術に幻想を抱く夢見がちな弟子を集めて小銭稼ぎに走る者さえ珍しくなかった。
戦うための鍛錬を怠った者たちに、剛太郎たち実戦派は、自称武術家たちの道場破りを仕掛けることがあった。
大抵は逃げられてしまう。
当然だ。
型稽古しかしないヒョロヒョロの年寄りや若者は、ただの武術オタクでに過ぎない。筋力で劣りスタミナに乏しい自分たちが、実戦に出ればどうなるか知っているからだ。
武術オタクは「唐手に先手なし」とか「矛をおさめると書いて武である」とか「真の武とは争わないことである」などと言って、逃げを打つ。ある意味、己を知っているわけだ。
剛太郎たちはが言葉や態度で煽っても、野試合を受ける者は、十人に一人もいなかった。
稀に、煽らずとも挑戦を受けてくれる道場もあった。
十中十、いざ立ち会うとなると何もできず、型通りの見え見えなカウンター狙う手合いばかりだった。
全員が、試合の雰囲気に緊張して、すぐスタミナ切れを起こし、朽ちかけた枯れ木のように、簡単に倒されていた。。
ただの武術オタクですらなく、神がかりになる武術家もいた。
彼らは道場破りを受け入れ、歓迎すらした。
合気道系や合気柔術系に多く、気を自在に操り、手を触れずに人を投げられると主張する者たちだ。
彼らは、武術家というより宗教家であり、神秘の力である〝合気〟を極めたと信じている手合いだ。
武術家を辞めて宗教家のニセモノとなった者たちは、自分たちの能力に過剰な自信を持っていた。だが、いざ試合をしてみると、大抵三十秒とかからずに敗北していた。
合気を極めたと主張する者たちには、最低限の試合経験もなかった。そのため、フェイントには簡単に引っかかって、カウンターを食らっていた。
フェイントを一切混ぜずに攻撃しても、全く反応できない者も多かった。
大ぶりの右フックのような、競技者なら簡単には当てられない攻撃すら、彼らは防御できなかった。
戦わない武術家のなれの果ては、無様しか言いようがなかった。
数十回にわたった道場破りの結果、当時の剛太郎は、心底戦わない武術家を侮蔑するようになった。自分は、ああはなるまいと、決意した。
だから剛太郎だったころのミオは、戦いとなれば、よほど不利な状況でもない限り、受けて立ってきた。
常在戦場、今もその心意気を、ミオは持っていた。
殺気だつ室内を観察しつつ、ミオはあえて軽口を叩く。
「ご挨拶だな」
「貴様ほどではない!」
刺突剣を帯びた護衛女が、半歩前に出て、ミオの挑発に応じた。
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