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18:対決
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前に出てきたのは、黒髪をおかっぱ風にした、美人だが顔に余裕のない表情を浮かべた護衛女だった。
偏った思想に染まった女教師を思わせる表情から、こいつは嫌な奴に違いないと、ミオは決めつけた。
軍刀の柄を握る護衛女の声は、自然、硬質なものとなる。
「ミオ・オスロン。栄えある魔法学校の校長にして侯爵であるオスカ・ノ・グリンヒル閣下に下種な軽口。処分は覚悟の上だろうな」
護衛女は、わざわざ校長の本名を教えてくれたが、ミオに感謝の気持ちは湧かなかった。
「意味が分からないな。俺は魔法学校への入校を志望するか否かを問われ、志望していないので志望していなと答えた。それだけだ。それに処分というが、何をするつもりだ。入校前に停学なり退学なりにするつもりか? だとするなら、貴校は中々独創的な制度を設けているようだな」
ミオから反論されるや、護衛女はさらに噛みついてくる。
「っ……き、貴様は、校長に向かって頭を下げろと言った! 無礼ではないか!」
「俺は入学したくて来たのではない。入学して欲しいと言われたからきてやったのだ。御足労というやつだ。そちらが希望し、俺は希望していない。なら頭の一つも下げるのが礼儀というものだろう。違うか?」
ミオの度重なる反撃に怯みつつ、護衛女は食い下がる。
「女性なのに、俺などというな!」
「俺の家族でもないし、恐らく教師でもない者が、差し出口を挟むな。傲慢だぞ」
「子供のくせに、減らず口を」
護衛女の放つ怒気と殺気が増していく。そろそろか。ミオは、腰のステッキに手を伸ばし、傲然と言い放つ。
「先に抜け。遠慮はいらん」
「舐めるな!」
ミオがステッキを握るのと、護衛の女が軍刀を放ったのは、同時だった。
勝負は、一瞬でついた。
ステッキと軍刀が交差するや、軍刀だけが宙を舞っていた。
相手の斬撃を、自身の得物を用いていなす動作は、ミオの得意技だ。
なにせ、ミオの前世では、何千回と反復した技だ。
それも、様々な相手の、多種多様な武器に対してだ。
加えて、実戦形式の試合や、野試合での経験もあった。
護衛女は、恐らく実戦経験に乏しい。鋭くも綺麗な動作から、ミオには読み取れた。
しかし、鍛錬を積んでいても、フィジカルで優っていても、真っ正直な攻撃では、ミオの敵ではなかった。
ミオを、小娘未満の少女と侮った護衛女はたじろいだ。
護衛女は、痛めた手首をつかみ、歯噛みしたまま目を剥いた。
「ぐぬぬ」
「勝負アリだ」
油断なく目の端で他者を警戒しつつ、ミオは勝ち誇った。
護衛男と執事とメイドたちが、得物を手にしたまま校長を見やる。
校長が片手を振ると、ミオ以外は得物を降ろした。
「オスロン家の女だけはある。子どもとは言え、ただの嬢ちゃんではないようだな」
「とうぜんだ」
校長は、手元に視線を移す。書類に目を通しているようだ。
「十二歳、しかも魔法学校入学前に、家伝の者とはいえ魔法のステッキを使いこなすとはな。ワシの護衛を退けるのに、毒や神経に作用する魔法は使わなかったな。オスロン家の者が、戦いの常道にこだわるとは思えぬ。何を企んでおる」
校長の表情を厳しく、護衛男や執事、メイドたちの顔は、さらに険しかった。
どうやら、オスロン家の評判は、芳しくないようだ。
ミオは、気にせずに解説してやる。
「毒も魔法も、使う必要がなかったからだ。この女のようなイノシシ相手なら、間合いの把握しやすからな。歩法だけでどうとでもなる」
「くっ、小娘のくせに」
回収した軍刀の柄に手をかけた護衛女が、再びミオに向きなおってきた。
それほど年が離れているわけでもないだろうに。小娘扱いが不満なミオは、挑戦を受けて立つべく、護衛女へ向け人差し指を手前に動かす。かかってこいの合図だ。
「もう油断しない。今度こそ痛い目に合わせてやる!」
軍刀の刃を床と水平にして、護衛女は腰を落とした。
獲物を前にした、ネコ科の動物を思わせる、しなやかな姿勢をとっていた。
今度こその言葉に、偽りはなさそうだ。
早くも再戦かと思われたが――
「下がれ」
直後に校長の叱責が飛んだ。
護衛女は、失態を犯した秘密結社の幹部のように、食い下がった。
「しかし校長、このままでは教師や職員が舐められてしまいます。次は油断はいたしません。わたくしめに、もう一度機会を!」
「「愚かな」」
ミオと校長の声が、重なった。
偏った思想に染まった女教師を思わせる表情から、こいつは嫌な奴に違いないと、ミオは決めつけた。
軍刀の柄を握る護衛女の声は、自然、硬質なものとなる。
「ミオ・オスロン。栄えある魔法学校の校長にして侯爵であるオスカ・ノ・グリンヒル閣下に下種な軽口。処分は覚悟の上だろうな」
護衛女は、わざわざ校長の本名を教えてくれたが、ミオに感謝の気持ちは湧かなかった。
「意味が分からないな。俺は魔法学校への入校を志望するか否かを問われ、志望していないので志望していなと答えた。それだけだ。それに処分というが、何をするつもりだ。入校前に停学なり退学なりにするつもりか? だとするなら、貴校は中々独創的な制度を設けているようだな」
ミオから反論されるや、護衛女はさらに噛みついてくる。
「っ……き、貴様は、校長に向かって頭を下げろと言った! 無礼ではないか!」
「俺は入学したくて来たのではない。入学して欲しいと言われたからきてやったのだ。御足労というやつだ。そちらが希望し、俺は希望していない。なら頭の一つも下げるのが礼儀というものだろう。違うか?」
ミオの度重なる反撃に怯みつつ、護衛女は食い下がる。
「女性なのに、俺などというな!」
「俺の家族でもないし、恐らく教師でもない者が、差し出口を挟むな。傲慢だぞ」
「子供のくせに、減らず口を」
護衛女の放つ怒気と殺気が増していく。そろそろか。ミオは、腰のステッキに手を伸ばし、傲然と言い放つ。
「先に抜け。遠慮はいらん」
「舐めるな!」
ミオがステッキを握るのと、護衛の女が軍刀を放ったのは、同時だった。
勝負は、一瞬でついた。
ステッキと軍刀が交差するや、軍刀だけが宙を舞っていた。
相手の斬撃を、自身の得物を用いていなす動作は、ミオの得意技だ。
なにせ、ミオの前世では、何千回と反復した技だ。
それも、様々な相手の、多種多様な武器に対してだ。
加えて、実戦形式の試合や、野試合での経験もあった。
護衛女は、恐らく実戦経験に乏しい。鋭くも綺麗な動作から、ミオには読み取れた。
しかし、鍛錬を積んでいても、フィジカルで優っていても、真っ正直な攻撃では、ミオの敵ではなかった。
ミオを、小娘未満の少女と侮った護衛女はたじろいだ。
護衛女は、痛めた手首をつかみ、歯噛みしたまま目を剥いた。
「ぐぬぬ」
「勝負アリだ」
油断なく目の端で他者を警戒しつつ、ミオは勝ち誇った。
護衛男と執事とメイドたちが、得物を手にしたまま校長を見やる。
校長が片手を振ると、ミオ以外は得物を降ろした。
「オスロン家の女だけはある。子どもとは言え、ただの嬢ちゃんではないようだな」
「とうぜんだ」
校長は、手元に視線を移す。書類に目を通しているようだ。
「十二歳、しかも魔法学校入学前に、家伝の者とはいえ魔法のステッキを使いこなすとはな。ワシの護衛を退けるのに、毒や神経に作用する魔法は使わなかったな。オスロン家の者が、戦いの常道にこだわるとは思えぬ。何を企んでおる」
校長の表情を厳しく、護衛男や執事、メイドたちの顔は、さらに険しかった。
どうやら、オスロン家の評判は、芳しくないようだ。
ミオは、気にせずに解説してやる。
「毒も魔法も、使う必要がなかったからだ。この女のようなイノシシ相手なら、間合いの把握しやすからな。歩法だけでどうとでもなる」
「くっ、小娘のくせに」
回収した軍刀の柄に手をかけた護衛女が、再びミオに向きなおってきた。
それほど年が離れているわけでもないだろうに。小娘扱いが不満なミオは、挑戦を受けて立つべく、護衛女へ向け人差し指を手前に動かす。かかってこいの合図だ。
「もう油断しない。今度こそ痛い目に合わせてやる!」
軍刀の刃を床と水平にして、護衛女は腰を落とした。
獲物を前にした、ネコ科の動物を思わせる、しなやかな姿勢をとっていた。
今度こその言葉に、偽りはなさそうだ。
早くも再戦かと思われたが――
「下がれ」
直後に校長の叱責が飛んだ。
護衛女は、失態を犯した秘密結社の幹部のように、食い下がった。
「しかし校長、このままでは教師や職員が舐められてしまいます。次は油断はいたしません。わたくしめに、もう一度機会を!」
「「愚かな」」
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