異世界ぎきょうだい不仁義~異世界にダークエルフとして転生したら、再会した弟分がハイエルフの令嬢になっていた~

呉万層

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4話し合いは戦闘の後で

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 貴賓室の上座にいたハイエルフが腕を上げるや、隣に侍っていた同じくハイエルフの上士が大音声で問う。


「なにごとか!」


「馬上より失礼いたします。北の岬より混沌に組する蛮族どもの大規模な船団が接近中との急報あり。蛮族だけではなく、混沌の怪物や戦士も混じっている模様」


「なぜ通心術を使わぬか。この城塞には、大型の通心傍受台が設けられていると知らぬか」


「現在、北の岬周辺は通心術の不達が続いております。術者たちも原因がわからぬとのこと。それゆえ監視部隊長の判断で、各所に伝令を出しております」


 伝令から話を聞くや、上座のハイエルフが上士のハイエルフ数名に、何事か囁く。上士たちは、各々大声で指示を飛ばし始める。


「通心士! 周囲の城砦と西と東の両王国へ警報発令! 届かぬようなら伝令も出せ」


「一手の大将は、侍大将、足軽大将を集めろ! 長柄組、槍組、弓組、鉄砲組、旗本組、皆ぬかりなく揃えよ」


「飛竜偵察隊は準備でき次第、北へ向かって扇状に発進、蛮族の掲げる軍規の確認を急げ」


「非戦闘員の避難誘導を開始せよ」


 半鐘が打ち鳴らされ、笛が吹き鳴らされる中、上士のハイエルフたちは次々と命令を下した。
 
 
 練兵場にいた兵たちは無言で走り出し持ち場へ向かう。
 

 武器庫が開かれ、様々な武具の収まる棚が引き出されていく。棚は練兵場や城塞内の壁伝いに並べられた。
 半鐘と笛で呼び出された兵たちは、棚から武具を取って装備していった。


 城塞に詰める将兵は歴戦のつわものが多い。臨戦体制への移行は、恐ろしく素早かった。


 周囲が殺気立つ中、政信とカタリンは、互いの顔を両手で掴み、ささやき合っていた。


「ダークエルフに改造されて、一族郎党前線送り。これからまた戦闘だよ畜生。親父がしくじったせいで散々だ。お前は良いよな。お嬢様」


「はい、おじょーさまでーす。地下に生まれたアニキはごしゅーしょーさまでーす。ボクは、おっと、わらわはハイエルフのキゾクに生まれて人生勝ち組ですけどね。これから、後方で雷法術ぶっ放して、みんなにホメて褒められるラクな仕事をさせてもらうっすよ」


「畜生。ミズキも最前線に出て戦えよ」


「ミズキじゃなくてカタリンっす」


「知ったことか」


「そんなこといって。アニキは、今のキレーなボクに、いつも見惚れていたではございませんの。麗しのカタリン嬢をよおく観察しておりましたよねえ。あまりにも視線が熱いものですから、わらわもはずかしくなるまえに、ヤケドでもするかとおもいましたわ。ほほほー」


 秀麗な顔のカタリンが、かつて日本でしていたように、意地の悪い顔で笑う。貴族令嬢と悪ガキのような話し方がミックスされた奇妙なしゃべり方だった。


 とはいえ、政信にツッコミを入れる精神的余裕はない。カタリンの言うことは事実だったからだ。
 何せ、大抵のハイエルフは、透き通るような肌に光り輝く金髪をなびかせた、神々しい外見をしている。カタリンにいたっては、ハイエルフの中にさえ、美を司る神の化身なのではないと疑う者がいるというウワサが、大陸北部で流布しているほどだ。


 美しさの化身が、まさか元の弟分だとはおもわずに、ガッツリと見惚れてしまっていた。回数は覚えていない。食事の回数を一々数えないようなものだ。


 バツが悪いどころではない政信は、早口で悪態をつく。


「は? 阿保かお前貧乳のくせに馬鹿言うな」


「おっとー、アニキの早口が出たってことは、図星っすね。昔から都合が悪いと早口になるんすもん」


「お前だって、俺のことすげー見つめてただろ」


「は? アニキ、いや片倉はなにをのたまっていますの。全然っすけど。見てないですけど」


 カタリンは顔を薄桃色にして、目を左右に泳がせた。


「うわお前マジかよ。俺のこと好きなわけ。性的な意味で? 元男なのに?」


 からかう政信に、カタリンは激しく反論する。


「前世と今を混同しないで欲しいっす! 今のボクは美少女だから、男が好きでいいんすよ。というより、前世じゃボクは十四で死んで、いや殺されたんす。ここじゃボクは十五歳っすよ。男としてよりも女としての人生のほうが長いんすよ。せーじてきただしさ的にもありなんすよ」


 どうやらポリティカル・コレクトネスと言いたいらしかった。だが、そんなことはどうでもいい、反撃のいい機会だ。
 歴戦の戦士は、機会を決して見逃さないものだ。



「つまり、俺が好きなわけだ」


「はい。いや、きらいではないっすけど!」


 カタリンの真っ白な肌は、赤くなりすぎてピンク色になった。


 兄貴分をからかった報いだ。政信は笑みを深くした。


「片倉殿。防戦の支度を」


「カタリン嬢、塔へお上がりください」


 政信がさらに畳みかけてやろうとしたところで、無粋な兵たちから声がかけられた。


 カタリンは鷹揚に頷き、迎えに来た兵たちへ、お嬢様的な態度を保ったまま返事をする。畜生、逃げやかがった。
 流石は弟分、機会は逃がさない問うわけだ。


「しかたありません。片倉、お話と儀式の続きは、混沌の痴れ者どもを撃退した後でよろしいですね」


「異存ござりませぬ」


 政信は、格下の徒士として返事をした。
 公的な場では仕方がない。なにせカタリンは貴族令嬢で、政信は騎乗の身分ですらない下級武士なのだ。


 下剋上したい。超したい。


 不穏な考えを弄んでいる政信にカタリンは背を向け、手の平を差し出した。


 政信も立ち上がり、カタリンの手を打った。


「お急ぎを」


 兵が先導を始めると、二人は素早く顔を近づけて、ささやき合う。


「さて、この城塞を守ってやるとするか。話はそれからだ」


「軽くひねってやるっすよ」


 自信とやる気を滾らせて、二人は歩き出した。
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